【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 エミールの秘密

ナーイアス神殿から出て、もう3ヶ月が過ぎている。
この3ヶ月は、生まれてからの13年間以上に濃く沢山の驚きに満ちていた。最初は、フェム姉に着いて従者が出来ればと思っていた。そうしたら、私達5人だけが残される事もない。ハイエルフの末路は聞かされていた。それでも、5人同時だったので、最悪は5人で生きていけば良いと考えていた。私達の判断が合っていたのか、間違っていたのかは正直解らない。私達5人はリン様の婚約者になった。そして、今まででは考えられない、ニンフの加護を受ける事になった。
私は、5人の中で一番最初に産まれた。ただそれだけの存在であった。私に話しかけてくれるのは、4人以外ではナーイアス様だけだった。父も母も、私が先祖返りのハイエルフと解った時に、崇める対象になってしまったようだ。
5人の中で身分も産まれも一番だった私は、父から、男として生活するように言われた。これから、私達が成長していくにしたがって、いろいろな人たちが現れるであろう。その時に、全員が女だと都合が悪い事になりかねない。そこで、里のものの総意で一人は男として生活する事になった。私は、最初与えられていた名前を取り上げられて、「エミール」という男名前を名乗る事になった。
暫くは、馴染めなかった名前も私の名前だと認識出来るようになってきた時に、なんで私がと思いが強くなってしまい。男として振る舞うのを辞めてしまった。父には何度も言われたが、それでもやはりできなかった。そんな時に、フェム姉達が僕達の鬱積した気持ちに風穴を空けてくれた。朽ち果てるまで5人だと思っていたのが、リン様達と一緒に過ごせる事になり、退屈しないですむ環境が用意されていた。
私達の日常は大きく変わった。神殿内に居た時には、私達は何もできなかった。本当に食事して湯浴みして寝るだけの生活だと言っても良かった。今のように、自分の好きに動いて、自分の好きに食べる事が出来ななかった。苦痛ではなかった、それが”普通”だったからだ。
そして、私は”リン様”の従者という役割を与えられた。それに不満はない。不満はないが問題はある。
ミル姉やイリメリ姉がむちゃを言うのだ。私に、リン様のやる事を止めろと言われる。自分たちが出来ない事が私に出来ると思っているのか?リン様は侯爵になられて、今度は国王になられる。戦いでも、先手を打ち最終的に一番良かったと思われる方法になっている。素晴らしい人だし、尊敬もして敬愛している。リン様は世間からは完璧だと思われている雰囲気がある。実際に、そう見えるように振る舞っているのだろう。演じていると言うのが正しいのだろう。暫く一緒に居てよく分かる。覚えるのが苦手なのだ。言っている言葉は解らなかったが”外部記憶装置”が必要だと言っていた。ミル姉が解説してくれた所だと、私やイリメリ姉やフェム姉のようにリン様が聞いた時にすぐに答えを出してくれる人が側に必要だと言う事だ。
確かに、私は記憶には自信がある。実際に、リン様についているとよく訊ねられる。それで役に立っているとは言えないのではないかと思ったが、リン様的にはすごく役に立っているという事なので、問題はないと思っている。
しかし、一番の問題点である”やりすぎ”に関しては、止められないでいる。いつの間にか終わっている現状なのだ、ランパス神殿の事をイリメリ姉に言われたが、出来上がってしまったものはしょうがないとしかいいようがない。それに、嬉々として作られている姿を見て止められる者が居るとは思えません。そう、ミル姉とイリメリ姉に告げると、エミールも手遅れなんだね。と笑っておられた。意味は察するしかなかったが、どうやら、皆同じ気持ちのようだ。リン様がバランスブレイカーでも私達がしっかりバランスを取ればいいだけだと思っている。
今日は、久しぶりに一人での行動になっている。リン様はミル姉と二人で出かけると言っていた。それで、休みとなってもすぐ頃がなかったので、マガラ神殿に行こうと思っていた。アスタ。イブン。ウナル。オカム。も今日はマガラ神殿の迷宮ダンジョンに潜ると言う事なので、それに同行する事にした。久しぶりに集まったメンバーだ、元々はこの5人だけで生きていくのだと思っていた。同時期に5人もハイエルフが権限した例はなかったが、今となっては、それも意味があったのだと思う。
「エミールは、リン様付きになってどうなの?」
ウナルからの素朴な疑問から始まった「どうって言われても、リン様だよ。普通じゃないのは解るでしょ?」「何かまたやったの?」「またって、オカムは知っているでしょ?」
オカムはイリメリ姉についているので、事情は承知しているはずだ「まぁねぇ」「本当に何が有ったの?最近、ルナ姉は、ミヤナック家の方にかかりっきりでその辺りの事がわからないんだよ」
イブンは、ルナ姉の助手として、ミヤナック家で作業を行っている。主に村々へのフォローが役目になっている。多分、今私達の中で一番忙しいのではないかと思う。「そうか、イブンは知らないんだよね?」「うん。ミヤナック家とリン様の調整をルナ姉がしているから、その対応をしているからね。」「そうだったよね。イブンの方は何か変わった事はあるの?」「う~ん。ルナ姉にも話したけど、村々からは魔物が減って居ると言われているし、領堺の村には夜に逃げ出してきた人が保護を求めてくるようになっているよ。」
それは、リン様の所まで報告があがってきていた。詳細は調査結果を待ってみないと解らないと言っていたが、マノーラ神殿に眷属が増えているのとは別に魔物が減っている理由が有るのかもしれないと言っていた。「それで、エミール。リン様は何かやったの?」
やらかした事が前提で話しをされたが、実際にそうなのだから反論出来ない。皆に、ラーロさんの事やランパス神殿の事を話した。「あぁぁイリメリ姉が頭抱えていたのはそれだったんだ。」「サリーカ姉も仕事が増えるって言っていたよ」「アスラの仕事は大丈夫だったの?」「うん。そんなには変わっていないけど、サリーカ姉からお願いされて、南方連合国サウスワード・コンドミニアムには何度か足を運んだよ」「へぇどんな国だったの?」
森に住むエルフ族は、内向的で排他的だと思われているが、そういう面が無いとは言わないけど、実際に、人族よりも好奇心はエルフ族の方が強いと思う。それに、永きを生きるエルフにとっては、刺激や娯楽は大切な物である。その事だけでも、リン様はエルフ族にとっては大切な存在になっている。実際に私達を頼って他の森に住むエルフが訪ねてくる事があるが、まずは神殿にびっくりする。そして、ニンフ様と普通に会える事に二度びっくりする。そして、マガラ神殿のフードコートに置かれている遊具で三度目の刺激を貰う。特に、遊具は殆どのエルフ族が購入して帰っていく。オセロが特に人気だ。一日中オセロをしている部族が出てきて問題になっていると聞いた。それほど、遊具は魅力的なのだ。リン様にそれをお伝えしたら、また別の遊具を作るから、そうしたら、エルフ族に試遊を頼むから、感想をまとめて欲しいと言われた。勿論、問題ないとお伝えすると、翌日にはエルフリーデが訊ねてきて、私達に”チェス”と”将棋”と”麻雀”と”トランプ”なる物を渡してきた。それらのルールや遊び方が書かれた物を渡されたが、トランプに関しては、遊び方が沢山有りすぎるので簡単に出来そうな物を数個選んで伝える事にした。問題は、”麻雀”なる物で、役といわれる物だけでも沢山あるのに、ルールが複雑すぎる。それだけならいいのだが・・・説明は難しいのだが、いろいろやる事が多い。受け入れられないからと思ったが、意外と麻雀が評判がいい。部族間での交流にも使い始めているのだと言う。そういう事もあって、リン様の所にエルフ達が沢山来始めている。交易も頻繁になってて、リン様はこれで新しい食材が手に入ると喜んでいいらっしゃった。
同じように、南方連合国サウスワード・コンドミニアムも新しい食材が沢山あって、それを、一つ一つ確認するようになっている。それらを仕切っているのが、サリーカ姉で、アスラなのだ、アスラは南方連合国サウスワード・コンドミニアムに赴いて交易の為の下地を作っているのだと言う。サリーカ姉はまずはトリーア王国内に何があるのかを調べているのだという事だ。村々にはまだ知らない食材が沢山あるのだと言っていた。それらを持ってきては、加工したりして食べている。エルフも食に対する探究心は旺盛だと思っていたが、リン様達はそれ以上だ。異常と言っても差し支えない。
こんな話をしつつ、眷属たちと迷宮ダンジョンに潜っている。28階を中心に魔物を狩る事にした。30階や31階でも問題は無いが、ウナルがフェム姉からベヒモスの繭を大量に採取してきて欲しいと頼まれたらしい。30階でもベヘモスは居るが、この前フェム姉とウナルで狩ってしまって、暫くは休ませないとならない。そこで、探索がてら28階を巡っていたら、洞窟の中に、ベヘモスの巣を発見して、狩りをする事にした。イブンがルナ姉から、カプセルハウスを狩りてきていたので、今日一泊してから帰る事にした。
そこで、皆から質問攻めに合うことになった。皆リン様の婚約者としては同じ立場だが、私は普段から一緒に居るので、皆が知らないリン様を多く知っているのだと思って、質問された。まずは、もう女にしてもらったのかから始まったが、”まだ”とだけ答えた。実際まだなのだからそれ以外に答えようがない。これは、私だけではなく、マヤ姉やミル姉も同じだ。多分、誰ひとりとして・・・・だと思う。
それから、皆が一斉にリン様との関係を話し始める。やはり、皆同じだ。自分たちがここにいることを不満には思っていない。それどころか、誇りにすら思っている。そして、リン様に惹かれたきっかけが微妙に違っている。
私の事を聞かれた。私は、リン様の優しさもだけど、脆さを含めて全部を愛していると・・・。
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リン様はすごく頼りになる上に”味方”にはとことん優しい。甘いと言ってもいいのかもしれない。私は、そんなリン様が好きなのだと思う。何か悪巧みをしているときの残念なお顔も、うまく出来たときの本当に楽しそうなお顔もすごく好き。そして、敵に見せる一辺の容赦もない顔も・・・・。私は一度だけ見たことがある。それは、リン様のお父様とお母様の居場所が解った時のなんとも言えない切ない表情が・・・。
私は、リン様が悲しんでおられるのだと思った。でも、それはある意味正解で、ある意味違っていた。リン様は、祭壇に祀られたお二人とタシアナ姉のご両親をお送りする時でも、涙一つ見せなかった。私は強く。優しい人だと思っていた。
私がぼそっと発した言葉を、ミル姉とイリメリ姉に聞こえてしまったようだ。お二人からすこしいいと言われて、ついて行った所で・・・訂正されてしまった。
「ねぇエミール。リンが優しいのは皆が認めるけど、強いのは違うわよ。」「・・・。」「本当に強い人は、皆の前で必死に笑ったりしないよ。エミール。」「ミル姉。リン様は笑っていらっしゃいますよね?」「違うんだよ。エミール。リンはね。リンは、泣いているんだよ。」「え”・・・だって・・・。」
リン様を見つめるが、笑顔こそないが、参列者に挨拶をしている。そこまで丁寧にしなくてもいいと言う位の丁寧さで挨拶をしていらっしゃる。涙なんてどこにもない。
「そう涙は流れていないけど、リンはさっきから必死なんだよ。でも、それは、ニノサさんやサビニさんが殺されてしまった事でも、会えなくなってしまったからでも無いんだよ。」「・・・。それでは・・・なんで・・・。」「うん。リンはね。マヤとタシアナが悲しむ結果になってしまった事を悔いているんだよ。リンのせいでもなんでもないのに・・・ね。」「そう、それに、ナナやナッセがローザスがハーレイがモルトが・・・もしかしたら、もっと多くの人が悲しんでいるのが許せなくて、切なくて、自分を許せないんだよ。」
もう一度リン様を見つめる。そんな様子は・・・違う。あれは、学校の生徒の一人が教師たちの忠告を無視して、迷宮ダンジョンに潜って帰ってこなかった時と同じ表情だ。あの件は、リン様には一切の責はない。それなのに、両親に謝罪に訪れて、見舞と称してレインを渡して、子供の形見だと言って、学校で使っていた物を全部渡した時と同じだ。「・・・。」「エミール。リンはね。誰も失いたくないの。」「リンは、すごく脆いんだよ。弱いと言ってもいい。でも、自分が弱いと周りが困るだろうからと思って、強くあろうとしているの。判ってあげて」「はい・・・。」
「エミール。私達はね。リンのためなら死ねる。なんだって出来る。それだけの事をリンにしてもらった。」「はい。」「私達は、自分以外リンさえ居ればいいとさえも思っている。」「・・・・」「でもね。リンは、自分以外の全員が必要なんだよ。」
ミル姉とイリメリ姉は、私に優しく諭すように話しかけてくれる。リン様を見つめる。マヤ姉とタシアナ姉と一緒に居るリン様は本当に凛々しい。
「エミール。行くよ。そろそろ、リンを休ませないと・・・ね」「はい。」
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私が、リン様を感じたいと思ったときの事を話した。照れくさかったけど、実際にはその前から好きだったが、この一件からリン様を求めてしまっている自分が居る。事も素直に話した。それが自分だけではなかった事が嬉しくも合った。皆、それぞれ聞いていたんだと言う。お姉さま方がリン様と出会ったときの話や意識しだしたときの話、そして、好きだと思ったときの事。
皆は私の環境を羨むけど、私は皆の環境が羨ましい。だって、リン様の事をリン様と話す事が出来ないし、聞く事も出来ないけど、皆は出来るのだ。それも、昔のリン様の事も含めて・・・。
これから、長い時間それこそ悠久の時間一緒に居られるので、話してくれることおあるだろう。それを願っている。
そして、私の名前を呼んで欲しい男として生きろと言われて名乗っている【エミール】ではなく、【ティア】と・・・。一度でいいから、リン様から「ティア」と呼ばれたい。きっと身も心もとろけてしまう。

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