【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 浄化の炎

リン様に言われて、各貴族の状況を探り始めてから解った事がある。ローザス派。宰相派。だと区別されていたが、一枚岩ではない。そんな事当然の事だと思っているが、実際に目の当たりすると本当にくだらない事で揉めたりしている事がわかる。それらの事をまとめてリン様に報告している。
日和見を決め込んでいる貴族もないわけではないが、寄親/寄子の関係がある為に、親には逆らえない風習はある。実際の所、男爵家よりも大きな准男爵家は沢山ある。特に、准男爵家が商人などに与えられる場合が多いのがその理由だ。
ローザス殿下は、数年前からこの辺りの制度を見直すと言っておられて、宰相と衝突し始めたのが派閥が出来始めた原因ではないかと思っている。でも、リン様に言われて、考えたり調べたりしてみたが、宰相が自分の娘の子供を皇太子にすると言った事はなかった。御前会議での発言はあるものの、ホレイズやマシュホムやアドゥナの伯爵が言い出しているように思えてくる。宰相がいい人だったとは言わない。実際に、自分の派閥の人間を優遇したりしていたのも事実だし、領民の事よりも貴族制度の維持を最優先に考えていたのだろう。
ローザス殿下は、寄親/寄子の廃止と歳費の削減。教会への納税の義務を考えていらしゃる。特に、歳費の削減に関しては、かなり前から訴えていたが一向に進む様子がなかった。それもそのはず、貴族によっては、歳費が命綱になっている所も少なくない。その為に、削られたりするだけで大きな問題になる。儂が調べた結果だけを見ても、王国の6~7割程度の貴族が収入よりも支出の方が多くなっている。かろうじて派閥維持の為にばらまかれているレインでなんとか出来ているのが現状だ。
今日の御前会議で、元宰相派と言っていいだろうが、ニノサ文章にあった貴族たちを弾劾する事になっている。その後の予想として、儂にくだされた命令は、数日後。早ければ翌日に、ホレイズかマシュホムかアドゥナの庭園か屋敷に、貴族たちが集まるだろうと予測できるから、集まりだしたら、教えて欲しいという事だ。
御前会議は予定通り終わった様だ。特別なサプライズはなかったようだ。
朝方に、リン様から今日ニグラ支部に行く事にしたと連絡が入った。それとほぼ同時に、アドゥナに見張りに行っていた眷属が人の出入りが多くなっている。何か伝令を走らせているように思えると報告してきた。リン様が来る前に、もう少し正確な情報が欲しい所だ。
待機していた眷属に、少し危険だが、館の中に入り込んできてもらう事にした。結果、今日の夕刻にアドゥナ伯爵の郊外の庭園に集まるように指示されていた。実際には命令や強制などは出来ないのだが、それを受け取った貴族は全員参加する事にしているようだ。それが、自分たちの死刑執行書類へのサインになるかも知れないのに・・・。正直、リン様は甘いと思うが、敵になった者に向ける目線は凄まじい。その後、命を取らないが、取らない以外の事は本当になんでもやるつもりで居るのだと思う。今のアゾレムを見ると本当にそう考える事ができる。いっその事殺してあげたほうが優しいのではないかと思える位だ。改心すれば許すと言っているが、言葉での改心でも態度からの改心でもなく、人格そのものを再構築する位の事をしなければ許さない。ギルドの総会議で、たまたまエベンす殿と話をする機会があったので話をしたが、今でもリン様の前に出ると震えが出る事があるのだという。思い出したりはしないのだという。ただただ怖いと思ってしまうのだという。その後の言葉が印象的だった『確かに怖いと思うが、怖くはない。一度味方だと思った人間に対してはとことん信じてくれる。儂が裏切らなければ、リン様は儂の事を信じて守ってくれる。それが解っているから、怖いけど怖くない』だと話していた。儂もこの考えには賛成している。それを思い切ってリン様にぶつけた事がある。リン様は笑いながら『アッシュ。それは違うよ。信じているわけじゃない。裏切られてもいいと思っているだけだ。エベンすが1人裏切って、アゾレムに戻っても怖くない。情報が漏れるんだとしても、情報が漏れていると思って行動すれば怖さは少ない。ようは、どれだけ多くの選択肢を持てるのかが大事なだけだからな』だった。
そんな事を考えていたら、リン様がギルドの執務室に入られたようだ。お呼びがかかったので、すぐさま今得た情報を携えて、リン様の所に向かった。
報告のときに、昨日渡した資料がすでに読まれているとの事だ。237家の現状と調べられるだけの過去の様子をまとめた物だ。もしかしたら、王宮にもこれほどの物はないのではないかと思ってしまう程の情報になっている。しかし、リン様はすでに全部を読まれたとおっしゃっている。
そして、やはり気になるのは、ウォルシャタと食客の事なんだろう。今分かっているのは二人が園遊会に出席する事だけで、残りはすでに領地なのか、アゾレム領なのかは解らないが移動を開始している。監視は続けている。
リン様から誰か1人の捕縛と言う命令が出ているが、なかなか1人にならないので、捕縛も難しいようだ。眷属からは、無理しなくても二人の捕縛はできると報告を受けては居るが、それでも万が一の可能性がある限り許可出来ない。
園遊会が始まった。近くまで移動して様子を窺う事にしている。会場に続々の貴族の馬車が到着している。見ていると半数近くがMOTEGI商会の馬車を使っている。商人達は、それにステータス不可視の魔珠を使っているようにも思える。
予定していた貴族が会場に入った事をミル様に伝えて役目を終える。後は会場内の監視を行っていればよい
★☆★☆★☆★☆「それにしても伯爵様。宰相閣下の件は驚きましたね」「あぁ儂は少し前に相談されていてな。留意をお願いしたのですが、体調がお悪いのでなしょうがないことだな。」「そうですな。」
「それにしても、ミヤナックの小僧は何様のつもりだ。それに、マノーラ家を名乗っている小僧もいい気になりおって、王国の秩序は伯爵様達で保たれておるというのに、ないがしろにしおって・・・。」「まぁまぁそう言うな。若さゆえに周りが見えていないのだ。現に、否決されたのだからな。」「伯爵様がそう言われるのなら・・・。」「そうだな。何か事ある時には儂に知らせよ。悪いようにはしないからな」「ありがたきお言葉。王国は何もしてくれないが、伯爵様あっての我等だと思っております。これからもよしないにお願いいたします。」
(それこそ、伯爵が何をしてくれたんだ!。まぁいいけどな。)(アッシュ殿。皆配置につきました。)(ん。中にも入り込めたのか?)(抜かりなく。)(それでは、ミル様に連絡して始めてもらって下さい)(了解しました。)
「アゾレム殿はどうされたのですか?御前会議にも来られていなかったと思うのですが....」「なんでも、ご病気とかで、後継者のウォルシャタ殿が出席する事になったと言う話だと聞いたが?」「いやいや、ウォルシャタ殿は、ご自分のちからで男爵になられたそうだぞ」「ほぉそれはすごい。コネを使って侯爵になるような小僧とは大違いですな。」「まったく、ニノサとか言う下郎との間の子が侯爵とは、王国の秩序の何たるか・・・。」「全くです。その上、アデレード殿下との婚約も決められたとか?」「あぁ聞いた聞いた。それは、アデレード殿下が臨んだ事ではなく、ハーコムレイがローザス殿下に進言して決まったらしいぞ。」「ミヤナックの小僧か?」「リン=フリークスとか言う。小僧もアデレード殿下を娶る事で、地位を確実な物にしたかったんだろう。その後で、ミヤナックの令嬢やウォード家の令嬢とも婚約したと言う話だぞ」「そんな事が許されるのか?」「陛下もお許しになったと聞いたぞ」「いやいや、陛下は反対したのだが、ミヤナックの小僧がローザスを使ってゴリ押ししたそうだぞ」「そのミヤナックにゴリ押しさせたのが、リン=フリークスで奴は財力を使って、ミヤナック家やウォード家を言いように使っていると言う話を聞いたぞ」「おぉそれは儂も聞いた。ギルドとか言う組織も元々リン=フリークスが作ったのを、権威付けの為に、ローザス殿下が始めたと言わせたんだろう?」
(心地よい毒はこれほど回りやすいのだな)(アッシュ殿。そろそろ次に移ってよろしいですか?)(よろしくお願いする)(了解した)
「そう言えば、宰相がお休みの間は、伯爵様の誰かが宰相の代行をされるのですか?」「いや、陛下からは何も言われていない。ミヤナックもウォードもだな」「そうなのですか?まさか、マノーラの小僧という事はないでしょうな?」「あぁそれは、ローザス殿下が進言したらしいが、陛下が却下されたそうだ」「当然だな。」「殿下も何を考えていらっしゃるのやら」「私が聞いた話では、マノーラの小僧が殿下にお願いしたらしいぞ」「それ、私も聞きました。私は、リン=フリークスがミヤナックの小僧と結託して、殿下に進言させたと聞いたぞ」「あいつらの専横な振る舞いを許していては、殿下のためにもならんし、延いては王国の為にもなりません。」「まさにまさに。おっしゃるとおりです。」
「そう言えば、私が聞いた話だと、アゾレム殿の採掘を邪魔したのが、リン=フリークスだと言う話ですよ」「儂もその話を聞いた、アゾレム殿が採掘しようとした場所に、魔物が現れては邪魔をしていて、それがテイムされた魔物のようだったと聞いたぞ、それでも、昨日の御前会議で、リン=フリークスがテイマーである事が発表されたからな。奴に違いない。」「そういえば、投資で迷惑をかけたと宰相閣下自ら頭を下げて回ったらしいぞ。」「あぁ儂もその話を聞いた。」「リン=フリークスやミヤナックの小僧のところにも行ったらしくて、小僧どもは頭を下げた宰相に対してそれなら責任を取ってくれと迫ったと聞いたぞ。」「俺もそれは聞いた、宰相に対して、賠償を求めたと聞いたぞ。」「あぁそうだ。そうだ。儂が聞いた話では、小僧どもは、賠償として今まで払ったレインの倍を支払うか、宰相の座を小僧のどちらかに明け渡せと言ったと聞いたぞ」「あぁでも、それを宰相閣下は毅然と断ったってな、でも、そんなやり取りで身体を壊してしまったと聞いたぞ」「それでは、宰相閣下が休養に入るのは、小僧どもの責任ではないか?」「あぁローザス殿下がおかしな事を言い出しているのも、小僧どもに脅されているのではないか?」「そう言えば、王宮に務める人間の弟の友達に聞いたんだが、ローザス殿下は王宮に帰らずに、ミヤナック家で過ごしていて、執務も滞ってると言うぞ。王宮の中で理性あるものは皆ミヤナック家がローザス殿下を軟禁しているのではないかと噂していると言う話だぞ」
「王国を壟断しているのは、小僧どもではないか、伯爵様。いいのですか?このままでは、どこの馬の骨か解らない男とミヤナック家の小僧に王国を乗っ取られてしまいます。」「アドゥナ伯爵様!」「ホレイズ伯爵様!」「マシュホム伯爵様!」
「我等の気持ちも同じだ。トリーア王国を建国したのも我等の祖先なのだからな。」「アドゥナ伯爵様。それでは....」「まぁまて、最後まで話を聞け、おぬし達の話を聞いていて、我等三人も同じ気持ちだ。このままだと、政治の何たるかが解らない小僧に国政を壟断されてしまっては、我等は英霊に顔向けできん。」「そうだな。アドゥナ殿の言う通り。」「あぁここで、儂等が立たなければなるまい。」「そうか、ホレイズ殿。マシュホム殿も賛同してくれるか?」「あぁ勿論だ。」「そうだな。アドゥナ殿。ホレイズ殿。3伯爵で同盟を結んで、王国を壟断する小僧どもに鉄槌を下す。そして、正常な王国に戻さなくてはならない。陛下もローザス殿下もそして偉大なる初代様もそれを望んでおられる。正義は我等にある。そうであろう!」「おおぉぉ」「マシュホム殿。」「皆。静まれ。我等は栄光ある王国貴族であろう。ミヤナックの小僧やマノーラの成り上がりとは違う。わきまえよ。」「・・・・」「ホレイズ殿。アドゥナ殿。これから、正義が我等にあるとしても、ミヤナック家との紛争は避けられまい。盟主と副盟主を決めて、指揮系統をしっかり構築したいと思うのだがどうだろうか?」「あぁマシュホム殿のおっしゃる通りですな。」「そうだな、盟主と拠点は必要だろうな。」「そそうか、賛成してくれるか。儂は、盟主にアドゥナ殿を押すがどうだろうか?」「マシュホム殿?我でよろしいのか?」「家柄も部門の出。儂の家は、建国時も二番槍だったと言われている。一番槍を取られた、アドゥナ殿が相応しいと思うが、どうだろうか?ホレイズ殿?」「異存はありません。アドゥナ殿が相応しいかと思います。それに、アドゥナ殿の街は、アドゥナ殿祖先が切り開いた領地で城塞としての機能も備えていると聞く。」「あぁそうだな。我が領地は元々王宮だった事もあり、防御。攻撃面も優れておるぞ。」「やはりそうなのですな。どうであろう。一時的な事といえ、アドゥナ領に集結して、その意を持って、ミヤナック家やマノーラの小僧や、日和ったウォード家の心胆震え上がらそうぞ!」
(さて、最後の仕込みをやりますか?)(ミル様にお願いしてよろしいですか?)(頃合いだと思われます。精神魔法の興奮作用を最大にしてもらって下さい。そして、所定の発言をお願いします。)(了解しました。)
「うぉぉぉぉ!!」「ミヤナックが何程のものか?ただの軍略の家で実際に勇敢に戦ったのは、アドゥナ家であり、ホレイズ家であり、マシュホム家ではないか!!ウォード家など、後方支援していただけの臆病者ではないか!!!」「マノーラ侯爵などの偉そうにしているが、実際に怪しいものだぞ、ミヤナック家と懇意にしている教会が手引したのかもしれないしな!!」「おぉぉそうだ、そに違いない。」「神の御業で神聖な我等正統派の教会の司祭以外で癒やしの魔法が使えるわけがないのだ。それも、、貧乏人や卑しい奴隷や獣人に使えるわけがない。あいつらは、トリックで民衆を騙している詐欺師なんだ!」「そうだ、ミヤナックもマノーラとかいう成り上がりも詐欺師なんだ!」「俺たちが正しいって事を教えてやらなければならない。」「そうだ!一刻も早くローザス殿下をお救いして、教会で洗礼を受けてもらわねば!」「そうだ、二度とこういう事がないように、ミヤナック家から殿下を救い出さなければ!!!!」「そうだ、殿下が悪いわけじゃない。悪いのは、ミヤナックとマノーラの小僧だけなんだ。」「俺たちは、王家の為に、君側の奸を討つ為に剣を取るんだ。全部の責任は、ミヤナックとマノーラにあるんだ。」「そうだ、国家100年の計を完遂するためにも、君側の奸を討たなければならない。これは、正しい王国貴族である我々に与えられた宿命なんだ。」「そうだ、俺たちは選ばれたんだ。」「ミヤナックから殿下を救い出せ。」「そうだ、ミヤナックの好きにはさせない。」「殿下が監禁されているのは、ミヤナックの屋敷だ。」「ミヤナックの小僧に、ローザス殿下が連れて馬車に乗るのを見たぞ。」「殿下は、ミヤナックの屋敷に監禁されているぞ、嫌がる殿下をミヤナックとマノーラの小僧が無理やり乗せていたのを見たと聞いたぞ」
「誰ぞ、ミヤナック家から殿下をお救いに上がる勇者は居ないか!」「我に!」「我こそ!」「いや、ここは我に!」
「盟主様。ここは、このルキウスにお命じ下さい。」「おぉルキウス来ておったのか?」「はい。叔父上。いえ、副盟主様。何卒、私めにお願い出来ないでしょうか?」「どうだろう、盟主殿。ここは、儂にまかせてくれんか?」「いいだろう。ルキウスと言ったな。おぬしに任せる。この屋敷に居る守備隊を使って、ミヤナック家から殿下を無傷で取り戻してこい」
「ははぁ」
★☆★☆★☆★☆
「ねぇアッシュ。これでいいんだよね?」「はい。私がリン様から言われたのは、高揚感を高める事と、王家に弓引くのはなく、君側の奸である。ハーコムレイ様とリン様に悪意が向くようにして欲しいと言われています。その意味では、大成功だと思います。」「だよね。どうするつもりなんだろう?」「私にも、わかりません。守備隊が出ていってから2~3時間で終わるから、監視を続けておいてと言われています。」「そうなんだね。でも、僕は一旦リンの下に行くね。アッシュ。眷属は置いていくからうまく使ってね。」「かしこまりました」「うん。ウィンザー行くよ。」「はい!それでは、アッシュ様。私もこれで....」「はい。ウィンザー様。前から言っていますが、アナタはリン様の婚約者なのですから、我等の事は呼び捨てにしてもらわないと困ります。」「・・・・解りました。アッシュ。それでは私も行きます。」「はい。ウィンザー様。」
ミル様とウィンザー様がリン様の下に転移していった。さて、これから何が行われるのだろう?ミヤナック家襲撃なんて成功するはずがない。
「アッシュ殿。アッシュ殿。我等はどうしましょうか?」「あぁ今度は、そろそろ出ていく貴族や商人や教会関係者がいるかも知れないから、それらの尾行についてください。」「了解した。尾行だけでいいのだな?」「はい。リン様からは居場所だけをはっきりさせておいて欲しいと言われているだけです。」「そうなんですね。了解です。よし、陰移動ができる者から三人一組で尾行につけ。もし、途中で誰かと接触したら、連絡を入れて、人員の補充をする。常に3人になるようにしろ」「「イエッサー!」」
「アッシュ殿。結界も維持したままで良いのですよね?」「そうですね。馬鹿騒ぎが周りに聞こえても都合が悪いですからね。結界は張っておきましょう。」
暫く、アドゥナ屋敷の中で行われている馬鹿騒ぎを眺めている事にした。今居る場所は屋敷の直ぐ側に、リン様が作成して、タシアナ様が調整した”カプセルハウス”の中に居る。リン様から『アッシュ用にカスタマイズしてあるから使ってね』と渡された物だが、正直自分の家よりも快適かもしれない。外壁には、認識阻害がかけられていて、リン様と奥様方と眷属にしか見つける事が出来ないのだと言う。どういう仕組なのか聞こうとしたが、イリメリ様に止められた。聞かないほうがいいと言う事だ。
その他にも”電子レンジ”なる物が実験的に置いてあるが、これがものすごい男1人で居る時にはすごく重宝する。今まで諜報活動で外に出ている時には、毎食コレトかコレルになっていた。腹を満たすためだけに口にしていたが、それがこの”カプセルハウス”では、時間の進むが極端に遅くなる冷魔庫が備え付けられている為に、長期に出る時でも街中で大量に食料を買い込んで、入れておく事ができる。その上、冷えてしまった物や凍ってしまった物でも、”電子レンジ”で温める事ができ簡単に食べる事ができる。それだけでも十分なのに、リン様はそれじゃ困るだろうと言われて、”電子レンジ”に肉を入れて焼く機能や煮込む機能を追加してくれた。何種類かの野菜と肉を鍋に入れて、”電子レンジ”で煮込むとすぐに柔無く美味しい肉料理が出来てしまう。眷属と一緒に諜報活動に出る事が多いが、眷属も簡単な料理ならできるようで、いろいろ試しながら食べている。最近、ハマっているのが”ピザ”という食べ物だ。薄く伸ばしたパン生地の上に”トマト”なる物を潰して作った調味料をひいて、後は適当に食べたい物を上に乗せて、最後に”チーズ”載せて”電子レンジ”で10~15分焼けば出来上がり。手軽な上にうまい。辺境の村がこれ一つで有名になってしまった位だ。マガラ神殿では大流行していてフードコートに店をだしたら、行列が出来てしまったので、急遽地下三階に店舗を作ったほどだ。手軽に作れるが、最後の”焼く”のが以外と難しい。”電子レンジ”があれば楽にできるが、まだまだ一般に出回るくらいにはなっていない。それに、一度店舗で食べたが、”窯”で焼いた”ピザ”は特別に美味しかった。やはり本場といったところなんだろう。リン様が言う『アッシュモデル』は、認識阻害もだが、食堂に備え付けられた装置で、映像珠を再生できたり、登録してある映像珠ならほぼ同時に再生して投影する事ができる。そして、映像珠に向かって指示を送る事ができる事だ。距離的な問題でまだそんなに遠距離までは出来ないようだが、いずれ何らかの方法を考えるとおっしゃっていた。さっきからこれで指示を出しているのだが・・・・こんな事がローザス殿下やハーコムレイ様にバレたらきっと大変な事になる。いずれ話すとはおっしゃっていたが、イリメリ様の予想では、リン様はすっかり忘れていると言う事だ。イリメリ様からも『適当なタイミングで、アッシュからローザスやハーレイに報告しておいて』と軽く言われてしまっている。これがどれだけの物なのか認識されているとは思うが.....案外、イリメリ様もずれた事を仰る事がおおい。それに、計算がものすごく早い。スキル持ちよりも早い場合がある。特に、割り算や掛け算が入るような場合には太刀打ちできない。本当に、リン様は別格としても、他の方々も十分常識はずれになっている。イリメリ様とフェム様が二人で始めた帳簿に関しても、マガラ神殿の商店の殆どが取り入れている上にギルドでは当たり前になっている。
レイア殿とレウス殿から連絡が入った。ミヤナック家を襲った愚か者をアドゥナ屋敷に送り届けると。どうも、ルキウスは自分は直接出ないで配下の男爵に、ミヤナック家を襲わせたようだ。
★☆★☆★☆★☆「ルキウス子爵様。」「アンバードか、それで首尾は?殿下はどうされた?」「申し訳ありません。」「だからどうしたのだ?」
(アンバードがいいたくないようだな。でも、部下も居ないからな。レウス殿レイア殿。リン様はなんと?)(リン様からは、我等が出ても良いと言われています。)(そうですか・・・。ワーウルフの誰かに狼の格好で出てもらった方が良いかと思いますがどうでしょうか?)(現場の指示は、現場でと言われておりますから、アッシュ殿のご判断に従います。)(ありがとうございます。それでは、眷属の誰かに言ってもらいます)(了解です)
『アンバードよ。家族はどうなってもいいようだな』「あぁぁぁ!あがふぁてぃえあゅおびゃ・・・・・」『汝が、アンバードを送りつけた愚か者か?』「だれだ?」『我の事などどうでもよかろう。アンバードに命令した愚か者はおまえなのか?』「そうだ。儂がアンバードの寄親のルキウス子爵だ。怪しい奴め。」『はっははは。そうか、子爵か。アンバードと仲間たちは、我等で捕縛させてもらった。今頃、自分たちのしでかした事を後悔しているだろう。未来のお前たちの姿だな。しかとアンバードの姿を見ておけ。』「・・・・捕縛しただと?」『なんだ信じないのか?まぁいい。お前たちは、ミヤナック家を襲い、ローザス殿下を誘拐しようとした、そして、リン=フリークス様の身辺を騒がせた。』「・・・・だからなんだ!正義は我等にあるのだ!」『正義?何のことだ?我は、我の主の言葉をお前達に伝える事と、可哀想なアンバードを回収しに来たのだ。』「回収だと?できるのものか?」『容易い事。そして、ルキウス。おまえは、我が主に負けたのだ。小僧と侮った者に負けたのだ。這いつくばって許しを得るのなら、小指の先ほどの慈悲を受けられるやも知れんぞ?』「ふっふざけるな。儂は負けてなぞおらん。おまえの主がだれかなのか関係ない。俺たちは正義で正義が勝つと決まっているんだ。」『そうか、それならいい。そう思っていられる間は幸せなんだろうからな。』「アンバードが負けるわけがない。卑怯な手を使ったにきまっている。人質を取って黙らせたのだろう?それか、後ろから不意打ちをしたのか?えぇ!そうであろう。お前たち成り上がり者に、男爵家のアンバードが負けるわけがない。そうであろう?あぁなんとかいったらどうなのだ?」『あぁそうだな。我が主からの言葉を伝えておくぞ』「あぁぁぁ?」
『お前たちは、トリーア王家に弓引く逆賊だ。』
「逆賊?俺たちは正義で、俺たちが正しいんだ。君側の奸を討って俺たちが正しい事を証明してみせるわ!」『話は終わった、アンバードを預かる。それではな。愚者との会話は疲れる。ルキウス。精々、逆賊として生き恥を晒せる事を祈っておるぞ。それではな....』
「なっ.....消えた?折れた剣。これは確かに、儂がアンバード男爵に預けた物だ.....逆賊?儂が正義なはずで、逆賊はミヤナックであり、リン=フリークスなのだ。儂らが負けるわけがない。これは何かの間違いだ。そうだ、あいつらは、アンバードの家族を人質に取って居るんだ、そして背後から魔物に襲わせて弱った所を襲ったに違いない。そうでなければ、儂の守備隊が、あんな小僧どもの守備隊に負けるわけがない。そうだ、殿下にお願いして、王都の兵を無理やり使ったのかもしれない。そうだ、そうに違いない。くそぉあいつら王家を守るべき守備隊を勝手に動かして自分を守らせるとは・・・。許さない。許さない。許さない。許せるわけがない。」
(あっ壊れた。)
「伯爵様。大変です。」「どうした。ルキウス子爵。殿下をお連れできたのか?」「いえ、ミヤナックとリン=フリークスは卑怯にも、王家の守備隊を使って自分達を守らせたようです。」「何?それはどういう事だ」
「はっ」
(おおぉすごいな。有る事無い事デチ上げて、時間的な矛盾なんて関係ない。辻褄が有ってないような物だな)(アッシュ殿。あれで信じてしまうのでしょうか?)(多分、信じるってよりも、結論が先にある話ですからね。)(ほぉ興味深いですな。)(ほら、終わりますよ)
「というわけで、ミヤナックとリン=フリークスは、殿下の御身を盾にして、アンバードを捕えたのです。卑怯にも殿下の御身を守るはずの守備隊に自分たちを守らせたのです。殿下に万が一が有ってはならないと思い。アンバードは守備隊を引きました。そこを、リン=フリークスのテイムした魔物に襲われてしまい。魔物は討伐出来ましたが、その時には、殿下のお姿はなかったようです。」「わかった、卑怯者のミヤナックやリン=フリークスのやりそうな事よのお。それでアンバードはどうしておる?」「はっ自分の不徳を恥じて自害すると言う所を思いとどまらせて、殿下の捜索に当たらせております。」「わかった、殿下の御身が無事ならそれに越したことはない。それにしても、卑怯者はどこまでも卑怯になれるようだ。」「はっそれに...」「あぁそうだな。”トリーア王家に弓引く逆賊”だと!自分たちの事を言っているのに気が付かないとは卑怯者の上に愚か者だな。自分の立場が判っていない。」
(アッシュ殿。)(そうですね。最終局面ですね。次の指示を実行しましょうか?)(了解です。)
「伯爵様。盟主様。たっ大変です。」「どうした!?」「はっはい。この庭園を取り囲むように、獣人や獣魔が集結しつつあります。」「何?どういうことだ?誰か説明しろ?」「それよりも、伯爵様。ご領地に戻られるのがよろしいかと思います。」「何?逃げると言うのか?」「いえ。違います。王国のために、ここで盟主たる伯爵様達に万が一が有っては困ります。ここは、わたくしが食い止めます。その間に、魔物から距離を取っていただきたい。」「そっそうだな。我等が倒れては、誰が正常な王家の秩序を取り戻すんだって事になるからな。」「はい。そうです。盟主あってのトリーア王国です。このような些事はわたくし目におまかせ下さい。」「わかった。その方に任せる。」
「皆の者聞いたか?ミヤナックやマノーラの小僧は卑怯にも儂らを捕らえようと、いや抹殺しようと自分たちではなく、獣人達を送り込んできた。今、我等が倒れるわけにはいかない。」「そうだ。そうだ。盟主様についていくぞ!!」「我等の正義を初代様もお認めになるだろう。」「そうだ、卑怯者が最後に勝った事はない。」「ぉおぉぉここで一戦して、王国貴族の何たるかを教えてやる!」
「皆。ありがとう。ここは、決戦の場所ではない。我は、一旦領地に戻って、戦力を整えてから、王都で震え上がる。ミヤナックの小僧や成り上がりのマノーラの小僧を正々堂々と破ることに決めた。真に王国を憂う貴族や商人や教会は我に続け。アドゥナ領に集結して、王国を真に考え行動しているのは誰なのか教えてやろうではないか!!!」「「「おぉぉぉぉ!!!!!」」」
(正面は開けてあるのですよね?)(はい。勿論です。逃げ道は塞いでおりません。狙いは、館で働いている人間や奴隷だと言う事ですから)(そうですね。逃げてもらわないと困るのですが、少し早めましょうか?)(了解です。どれにしますか?)(手っ取り早そうな者は、屋敷の裏手に火を付ける事でしょうかね)(はっははは。了解です。)(どうしました?何かおかしな事をいいましたか?)(いえ、アッシュ殿の言い方が、失礼ですが、リン様が悪い事を考える時に似ていましたからね。)(・・・・・ヒューマ殿。貴方もですよ。)(それは失礼しました。)((ハッハハハハ))(それでは、行ってきます。)(えぇお願いします。)
「伯爵様。裏手で火の手が上がりました。誰かが火を放ったようです。」「・・・何?卑怯にも程がある。」「伯爵様。獣人や獣魔にはそんな事をは通用しません。ここは私が....」「まかせる。」「はっ」
★☆★☆★☆★☆
よし。これでもう大丈夫だろう。貴族連中はもちろん豪商や教会関係者も我先に逃げ出している。中に忍び込んでいる眷属たちがうまい具合に誘導してくれている。危機感を煽るだけで十分だからとは言われていたけど、ここまでパニックになるのだな。奴隷紋がある人間から眷属が確保して連れ出している。結局6~70人にはなりそうだ。後は、尾行がついて行って、アドゥナ領に行かなかった者達を拿捕していくだけの簡単な作業になる。さて、あらかた屋敷に人が残っていないようだな。
「ヒューマ殿どうですか?」「そうですな。今、最終確認をしています。館の中には人は残っていなさそうです。アッシュ殿も参られますか?」「えぇお願い出来ますか?」「了解です。」
転移魔法とはこんなにも便利な物なんだよな「ヒューマ殿の転移魔法はどのくらいの距離が移動できるのですか?」「我の魔法では、精々2~30kmという感じですね。リン様達の様に、神殿から神殿まではとても無理ですね」「そうなのですか・・・。それでもすごい事なんでしょうけどな」「リン様に真命を頂いた事の恩恵ですね。」
他愛もない話をしながら、狂乱の後の館を見て回った。誰も残されていない事を確認して、書類などがあるようなら全部回収をしていく。武器や防具や魔道具の類も全部回収してから、屋敷に火を放った。周りに結界を張った状態で、上へ上へと火が流れるようにしてもらっている。
暫く、王国は騒がしくなるかもしれないけど、それもいいだろう。荒れた野原が残ろうとも、その後さえしっかりしていれば、大地のようにしっかり芽吹く物があればいい。そう思えてくる。そして、それは彼らには出来ない。リン様やローザス殿下ならできるだろう・・・・。
アドゥナの庭園が炎に包まれた。高く高く上がる火柱が何かを浄化してくれているかのように思える。
「さぁ帰りますか。」「そうですね。リン様にご報告しなければならないですからね」「そうですな。」

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