【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 辺境にて

僕は今年パシリカを受ける事になっている。僕の住む村は、ミヤナック伯爵領から更に2日ほど行った所にあり、国境の街シャルムの方が近いくらいだ。去年までは、パシリカを受ける子供が家に居ると、大変な状況になる事が多かった。領主様が護衛費や宿泊のレインは出してくれると言っても、食事代や服までは準備してもらえないのが一般的だ。それに、いくら護衛が居るからと言っても、100%安全と言うわけではない。行きや帰りに魔物に襲われたりして命を落とす場合も多い。また、安全な場所を通るといっても、山賊が居ないとも限らない。命がけになる事が多い。特に、僕達のように辺境と呼ばれる場所なら余計にそうだ。
今年は、僕を入れて4人でパシリカを受ける事になっている。去年の中くらいから。この村も変わってきている。ミヤナック伯爵が新しく侯爵になられた、マノーラ侯爵と交渉して、いろんな物を村に持ってきてくれている。他の村にも運ばれていると言う事だが、この村は国境の街シャルムに一番近い事もありいろいろと優遇してくれていると言う事だ、一番驚いたのが、マノーラ侯爵の家の者と言う人が獣人らしき人を連れてきた。僕と一つしか違わないのに・・・・。それに、すごくキレイな人だ。ミトナルと言っていた。侯爵の婚約者らしい。それはいい。彼女が来て、村長に挨拶して、村長が大体の村の大きさを教えていた。それから、これからの人口の増え具合を聞いていて、解りましたというと、次の日には、村を囲む立派な壁が出来上がっていた。今まで、村長がミヤナック伯爵に具申していたが、木の柵が精一杯だった。石壁は5m位あり、魔物でもなかなか破壊出来ないだろうと言う事だ。また、随所に防御結界を組み込んでいるので、大型獣でも大丈夫だろうけど、絶対に過信しないでくれと言われた。テイムされた魔物なんだろうか、ミトナルさんの命令を忠実に実行している。そして、村に願ってもできるわけがないと思っていた、教会が出来た。それも、若いが司祭も派遣してくれる事が決定したと言う。
そして、国境の街シャルムにギルドと言う組織が出来た。これが僕達の生活を一変させる事になるとは思っていなかった。最初は、今まで以上に頻繁に商隊が来て、今までは少し休憩して出ていってしまうだけだったが、明らかに僕達の村を目的に来ている事が解る。マノーラ侯爵が、僕の村の特産である”ポナト”を気に入って大量に買いに来てくれているのだ。今まで、パンに挟んで食べるとかしかなかった調理方法を、侯爵の婚約者が沢山見つけてくれて、ニグラでは空前の”ポナト”ブームが来ていると言う話だ。ミヤナック伯爵からお達しが来て、村の苗をマノーラ侯爵に分けてほしいと言われた。村長達が相談して、出した結論が、石壁と作る事と教会を作る事だった。期待していたわけじゃなく、ミヤナック伯爵の跡継ぎ様から好きな物をなんでも言ってと言われた。村長達もダメ元で言ったようだ。ミヤナック伯爵はそんな事はしないが、貴族は気に入らなければ持っていくなんて事を平気でやる。その為に、半分以上諦めの気持ちだったが、マノーラ侯爵は約束を守ってくれた。それどころか、マノーラ侯爵に株分けした苗で強く病気に強くなった苗を戻してくれた。なんと、それだけではなく、村長とこれも侯爵の婚約者だと言う話だが、イリメリ=ジングフーベル・バーチスと言うこれまた美人の人が来られて、村長と何やら話していた。村長がびっくりした声を上げているから、何か無理難題を言われているのだと思って、村の人たちはあぁやっぱりかと言う雰囲気になっていた。イリメリさんが帰った後で、皆で村長の所に行ったら、村長がすぐに皆を集めてくれ。大事な話があると言う事だった。
皆緊張した様子で村長を待っていると、村長が空をあるき出しそうな雰囲気だったのにびっくりしていると、突然村長が皆に”侯爵から報奨が出る。パシリカ後の大人には銀貨で1枚。パシリカ前の子供には一律銀貨2枚”。ただし条件があるとの事。村で”ポナト”を作っている者が2ヶ月。マノーラ侯爵のご領地で農業指南をする事だと言う。“ポナト”を作った事があれば子供でもいいと言う事だ。人手が減ってしまう事への詫びとしての意味も込められているのだと言う。そして、農業指南をする者には、侯爵領での住居及び生活にかかる費用は全部侯爵が持ってくれる上に、一ヶ月銀貨10枚を支給してくれるのだと言う。そして、できれば、家族者の方が望ましいのだと言う。侯爵としては、二家族位を希望している。大人たちがここでざわついたが、侯爵からはこれだけではなかったようだ。今後、侯爵様の領内で作られた、”ポナト”はこの村のおかげで作られたと言う事で、名前を付けて販売していくと言う。そして、名前を使わせて貰う対価として、"ポナト"の売上の5%を村に還元してくれるのだと言う。ピンと来なかったが、これには村長が興奮していた。侯爵の出された条件は、僕の村が"ポナト"栽培の故郷として有名になっていく事、そして、栽培を辞めない事を約束させられたのだという。
解らなかった僕は、父さんに聞いた。父さんも理解出来なかったらしく、村長にもう少し詳しく説明して欲しいと質問した。皆もあまりの事に理解出来ていない部分もあるようで、同じように思っていたようだ。
侯爵から出された条件は・”ポナト”の栽培を辞めない事・”ポナト”の栽培指導で、二家族が侯爵領に来て欲しい。・”ポナト”の名前をつけて欲しいと言う事だ。そして、これによって得る村の利益は・パシリカ後の大人には銀貨で1枚。パシリカ前の子供には一律銀貨2枚・侯爵領で栽培された”ポナト”の売上の5%を還元
だ、売上の5%が少なく思えるが、村長が言うには、侯爵の試算を見ると、その5%があれば、村中の人間の人頭税を払ってもお釣りが来るのだと言う。それも、品種改良された苗で試験的に作っている畑での売上でそれだから、農業指導しに行った後ならこれが5倍とは言わないが3倍になれば、村の生活がすごく楽になる。それに、侯爵とミヤナック伯爵の名前で、月に1~2度商隊を派遣する事を約束してもらえた。実は、イリメリさんからは商隊に変わる提案もされているのだと言う。それが、僕達の生活を一変させた。
そうギルドへの加入だ。ミヤナック伯爵からは、加入に関しては、領民の自由にすると言うお達しが来ていた。
後日、再度訪れたイリメリさんに連れられて、村長と村の顔役が全員揃って、ギルドの見学に行ってきた。一日かかって夜になって村長達は帰ってきた。村人達を集めて、語りだした事はもう意味が解らなかった。
ギルドと言うよりも、マガラ神殿には転移門トランスポートと言う物があり、これで一瞬でニグラに移動できるのだと言う。実際に、村長達もまず国境の街シャルムに移動して、そこから、マガラ神殿に移動して、その後に、ミヤナック街に一旦移動してから、ニグラに移動して戻ってきたのだという。村長1人が言っている事なら、信じなかったかも知れないが、顔役の話しもあるし、何と言っても、今ミヤナック街に居るはずの隣の家の息子さんの書いた羊皮紙が出された。それが本当なら、パシリカで死ぬような事も少なくなる。そして、移動に時間がかかる事もなくなる。
村長から、それだけではなく、村長や皆の合意があれば、この村にもギルドの支部を作ってくれるのだという事になっているのだと言う。侯爵は、村の外に転移門トランスポートを設置して、村の中にギルドの支部を作るのが良いだろうと言う事だった。いいことばかりでは無いのは確かなんだろう。でも、チャンスでもある。父さんは賛成していた。半分以上の人が賛成していた。村長は、明日それを伝えにニグラにあるギルドに行く事にしている。反対の人間も見れば意見が変わるかもしれないと言う事で、顔役ではなく反対した人間を中心に行くことになった。
僕も一緒に行く事が出来た。子供の意見も聞いてみたいと言う事だった。
正直、その日はワクワクして眠れなかった。そして当日になった、僕は、起きて支度をして、父さんから貰った銅貨10枚を持って待ち合わせ場所に向かった。そこには見慣れない馬車が4台来て待機していた。侯爵が馬車を手配してくれる事になっていたので、その馬車なんだろう....正直、僕は馬車が苦手だ。少し速度をだすと跳ねるし、お尻も痛くなる。2時間程度だが、それで行くのかと思うとちょっと残念な気分になってしまった。その時はそう思っていた。でも、違った侯爵が用意してくださった馬車は静かに動く上に振動が殆ど無い。空を走っているようだ。お尻も痛くならない上に、今までの馬車が2倍位の速度を出しても大丈夫なんだという。振動が増えても良ければ、3~4倍の速度でも走れるのだと言う。2時間かかると思っていた道が半分の1時間でついてしまった。そして、国境の街シャルムのギルドに着くと、侯爵からの伝言が届いていて、もし、馬車が気に入ったのなら、貸し出しますので、そのままお使い下さいと言う事で、貸出料や期間は特に定めないで、僕達の村で必要無くなったときに返却してくれれば良いとの事だった。事実上”くれる”という事になる。
それから、ギルドでは、ギルドカードなる物を作成する必要があるが、大人に話を聞くと、パシリカのときのようだと言う。名前を呼ばれて、中に入ると、そこには球体が一つと女性と男性が1人づついた。名前を確認されて、間違いないと言うと、球体に手をおいて下さいと言われた。その通りにすると、女性が「すばらしい」とだけ言った。そして、男性が金属の板を僕に手渡してくれた。これがギルドカードという物だという。
それから、ギルドの受付をしているお姉さんがギルドカードに関しての説明をしてくれる。ギルドカードには種類があって、冒険者/商人/職人だという冒険者は、どこの転移門トランスポートも使えるが入るときにレインが必要になる。商人も、どこの転移門トランスポートも使えるが、出て行く時の荷物の重さで別途レインが必要になる。職人は、登録したギルドと関連転移門トランスポートしか使えない。が利用料金が発生しない。僕は、迷わず冒険者登録した。冒険者に与えられる特権が迷宮ダンジョンへの挑戦ができる事と、ギルドからクエストが受けられる事にある。クエスト中に発生した転移門トランスポート利用料は最終的にクエストの成功報酬から引く事もできるらしい。僕は、どこにでも言える翼を授かった気分になっていた。村長達は商人登録をしていた。一時利用者のためのカードも用意されていて、反対派の何人かはそれを使う事にしたようだ。
そして、なんとこのギルドーカードはギルド関連施設のみだが、レインをギルドにあずけておくと、それと同額のレインが付与されて、それで買い物をする事ができるらしい。僕も、父さんから貰った銅貨10枚をギルドに預ける事にした。全財産だけど迷うこと無く預けた。受付のお姉さんが、僕のギルドカードを見て、パシリカ前の子供で、今日は見学に来たと話をしたら、銀貨1枚分のレインを入れてくれる事になった。これは、侯爵から言われている事で、子供に対する優遇措置だという。返す必要もないので、今日はそれを使って、十分マガラ神殿を楽しんでいって下さいと言われてしまった。
村長達にも同じように、マノーラ侯爵から銀貨が支給されたそうだ。最初だから、分からない事もあると思うので、それで慣れて下さいと言われたのだ。
村長が二度目だからと言って、率先して案内している。最初に行ったのは、地下三階にある商店街だ。地下三階と言われたので、暗いイメージを持っていたが、そんなことはなく、太陽が出て明るい感じがしている。案内をしてくれている人の説明では天井に魔道具が展開してあって、そとの天気の様子を反映していると言っていた。実際には、雨を降らす事もできるが、濡れてしまうと面倒なので、振らせていないだけらしい。ここには、転移門トランスポートが設置してある。各村や領地から食料品や特産品が集まってきている。よくわからないが、小売はしていなくて、大口での販売だけをすると取り決められているとの事だ。ようするに、商人がここで仕入れて、それを持って各地を廻るって事だ。そして、村長はここに僕達の村も店を持てる交渉をしてOKをもらったらしい。それには、反対派の人たちもどよめいた。今までは、商隊の人たちに買ってもらっていたが、これからは自分たちでここで売る事ができる。そして、ここにはトリーア中の商人が集まって買っていく。商店の場所も悪くない。場所を案内してくれたが、侯爵と一緒にギルドを立ち上げた人たちの店が隣にある。案内されているときに、出てきた、アルマールさんすごく可愛い人だった。軽く挨拶だけしたら、『あぁトマトの村!?知っているよ。リン君が無茶な事言ったら教えてね。止に行くからね。』という事だ。"トマト”とはなんの事かわからないが、何か僕達の事は有名になっているようだ。
商店街を暫く散策してから、地上に戻った。そして、村長お楽しみの”風呂”に行く事になった。村長は、この後、ニグラにあるギルドの会議室を借りて、反対派の人と最終的な意見交換をすると言う。参加は個々の自由で問題は、転移門トランスポートの設置場所とギルドの設置になってきている。そして、賛成派も反対派も交えて風呂に向かった。男性と女性が別になっているらしい。そもそも、”風呂”という物がある事は知っているが、実物を見るのは初めてだ。勿論、僕の村には風呂などない。暑い日に近くの小川で汗を流したりするがそれ以上は、井戸の水で身体を拭いたり、少し温めた水で身体を洗うのが一般的だ。そこは、別世界だった。反対派の人も固まっているのが解る。僕は目を疑った。水ではなくお湯が流れ続けている。洗い場も石鹸という物も全部料金に含まれていて使いたい放題なのだ。サウナという施設があって、そこは灼熱の中に入れられたようだが、中に入っている大人は皆気持ちよさそうにしている。僕も皆に倣って、サウナに入ったが、すぐに熱くなって出てしまった。出たら、一緒に入ってたおじさんに、隣の部屋に入ってみろと言われた。隣の部屋は今度は極寒の寒さのようだ。でも、サウナで熱くなった身体には心地よかった。でもすぐに寒くなったので、そこも出てしまった。子供向けのお風呂があると書かれていたので行ってみると、僕よりも小さな子どもが沢山居た。滑り台という装置があって、上から坂道を滑るのだという。これが案外おもしろい。小さい子供に混じって何回も楽しんでしまった。他にも流れるプールや波のプールなんて書かれたお風呂もあった。確かに遊び場だ。そして、子供だけに許された特権があった。入るときに渡された物を腕に巻いていると、子供だと判ってくれるらしくて、1時間に一度飲み物をタダでくれるのだという。そこで遊んでいた子供達は何度も来て知っているらしく、時間になったら、飲み物をくれる場所に移動していた。正直、飲み物といってもあまり興味はなかった水や良くて果実水だろうと思っていた。ものは試しだと思って、飲み物を貰う事にした。バンドを見せるとなにか魔道具で読み取ってから、”はい”と渡された飲み物は、すごく冷たかった。おかしな事だが、お風呂はお湯が出ていてすごく暑い場所だが、渡された飲み物はすごく冷えていた。そして、どうやって飲んだらいいのかわからない。ただ冷たい四角物だ。でも、中に何か入っているのは解る。逆さまにしようとしたら、何度か来ているであろう子供が『兄ちゃん初めて?』と言われたので、今日辺境の村から来たって言ったら『それなら飲み方わからないよね。』と言われて素直に頷いた『ほらこうして飲むんだよ』とやり方を教えてくれた。これは、マノーラ侯爵が最近作り始めた”缶”という物で鉄で出来ているのだという。それに飲み物が入っていて、一箇所指で押せる所があるから、そこを押すように飲むようだ。ストローという物を入れて吸い上げるようにしてもいいし、”缶”に口を付けて直接飲んでもいいんだと、僕に教えてくれた子は、マノーラ侯爵に直々に教えてもらった飲み方を教えてくれた。腰に手を当てて、缶に口を付けて飲むという事だ。
そして、初めてなら、一気に飲まないで、最初少しだけ飲むように言われた。何のことか解らなかったが、忠告に従う事にした。そして、それが正解だったとすぐに解った。驚いた僕の顔を見て『兄ちゃん。やっぱり、”炭酸”は初めてだったみたいだね。びっくりしただろう?』本当にびっくりした。口の中で何かが弾けたと思ったら、喉を突き刺すような感覚になった。針を飲んだ事は無いがこんな感じなんだろう。でも、その後で、口の中に甘さが残る。刺激が気になって二口目を飲んだ。わかっていれば驚くことはない。すごく美味しい。え?これを無料で?なんで?騙されてない?と思っていたが、刺激からは逃れられない。残りを一気に飲み干してしまった。子どもたちがこれを欲しがるのは解る。こんな物ここでしか手に入らないに違いない。そう思って、僕にいろいろ教えてくれた子に聞いたら『うん。みんな初めて飲んだ時にはそう思うみたいだけど、ここのフードコートでも普通に買えるし、学校の寮なら飲み放題だよ。』なぜかすごく自慢されている感じになってしまった。"学校”も気になるが、”フードコート”も気になる。よかったら、いろいろ教えてとお願いしたら、快く教えてくれた。マノーラ侯爵に困っている人が居たら助けなさいと言われているらしい。”学校”の事も”フードコート”の事もマノーラ侯爵の事もいろいろ教えてくれた。そして、その子は元々孤児院で暮らしていたらしいが、その孤児院の院長が今のニグラ支部のギルド長をやっているらしい。ナッセというらしいが、僕には雲の上の存在であう事はないだろう。その男の子は、モニシャというらしい。僕も名前を名乗って良かったら友達になって欲しいと言ったら、喜んでと言ってくれた。僕に、村の子供以外で初めての友達だ。それから、モニシャと一緒に風呂に来ていた、ライカとランカという双子の兄弟も紹介された。
しばらくしたら、村長が僕をさがしているとの事だったので、残念ながら風呂から出る事になった。フードコートも気になったが、帰りに寄ればいいだろうと思って、村長が待っている場所に向かった。そこから、何故か、ニグラに移動して、僕も会議に参加する事になった。マノーラ侯爵が子供が一緒なら連れてきて欲しいとおっしゃっているのだという。噂のマノーラ侯爵が今日は後からになるが会議に出てくれる事になった。最初は、村長と賛成派と反対派の話し合いになっているが、僕では話の内容が分からないが、反対派が心配しているのは、転移門トランスポートから村と関係ない物が出たり入ったりしたら治安が悪くなると言う事だ。それは、賛成派の人々も一理あると考えているようだ。その解決策や妥協案が見つからないまま約束の時間になってしまった。村長が、マノーラ侯爵に正直に今の現状を話す事に決めた。皆。それで構わないと言う事になった。
最初現れたのは、初老の男性だ。その人は、ナッセと名乗ってニグラ支部の支部長をやっているという事だ。お風呂であった、モニシャとライカとランカが言っていた人だとすぐに解った。その次は、すごく美人の女性で、名前をナナと名乗った。ナナさんはマガラ支部の支部長をやっているという事だ。主に、宿屋の調整をしているのだという。
次に、僕と同じ位の女性でフェナサリムと名乗った女性とアデレードと名乗った女性が席に座った。村長が、アデレードと名乗った女性に、もしかして皇女殿下ですかと聞いていて、もう皇女でも殿下でもないが、そうじゃよと肯定されて、一気に大人たちの空気が変わった。そして、最初に村に来てくれたミトナルさんが、僕と同じ位の男の子と一緒に現れた。『ほら、アデレードは居ないほうが良かったじゃない。』『ミル。そう言っても、リンから出るように言われたんだからな。イリメリも居ない事だし妾が出ないで、おぬしが説明するのか?』『フェムが居るから大丈夫。それに、ナナもナッセもいるから。』『二人ともいい加減にして、ほら客が困っているよ。』『ゴメン』『すまん』
そんなやり取りがあって、最後の男の子が『はじめまして、リン=フリークス・テルメン・フォン・マノーラです。この度は僕のわがままで申し訳ない。』そう、僕がリン=フリークスという侯爵を始めてみたのはこの時だ。この後、何度も何度も会うことになるとはこのときには思っていなかった。
それから、村長が率直な意見を言うと、侯爵はもっともな話ですねと言う事で、村の拡張がなければ、石壁の周りを5m程度の堀にして、そこに水を流せるようにします。その上で門に橋を掛けるようにしたらどうでしょうか?と言う事だった。マノーラ侯爵はその上で、ギルドは村の中に作らせて下さいという事で、転移門トランスポートは村から少しだけ離れた場所に小屋を作って配置しますという事だ。そうしたら、橋を上げてしまえば、村の中に人が入ってくる事はない上に夜の時間帯は上げておけば、治安を守れるようになる。お堀の水は近くの川から引っ張ってくるとの事で、村の畑に撒く水の確保にもなる。そして、村長や反対派の人たちが喜んだ提案が、ミヤナック伯爵に言って守備隊を派遣してもらうと言う事だ。その費用も侯爵が持ってくれるのだと。村は魔物も怖いが、野盗が怖いのだ。それが防げるようになる。その上で、ギルドは村の中に作って、転移門トランスポートは外にあれば困る事はない。賛成派も反対派もそれならばと言う事で納得して合意する事ができた。この合意をしたあとは早かった。翌日には、僕の村にギルド支部が出来て、ギルド支部の裏手に村の人間ならタダで使えるお風呂が出来た。お堀もすぐにできて、川の引き入れも行われ、麦や葉物を育てている農家がこれで水くみから開放されると喜んでいた。村には井戸はあるが、井戸は飲水の為に、畑に巻いたり洗濯に使用するのは禁止されていた。村の周りに水場が出来た事で、生活が楽になる。そしてもう一つがお堀に魚が迷い込んでくるので、捕まえて食料にする事ができた。それ以外にも、父さんも母さんもギルドに登録した。そして、僕の案内で地下三階とフードコートを案内した。フードコートの中は1ヶ月毎に入れ替わるのだという。
父さんと母さんは、農業指導でマノーラ侯爵のご領地に行く事になった。あとは、幼馴染の子の家族も一緒に行く事になった。そして、半年の学校生活を終えて村に帰るとそこは別の村になっていた。発展しているのだ!村は村だけど、食堂が出来たり、宿屋が出来ている。そして、なんと食堂は父さんと母さんがやっていた。なんでも、農業指導に行っているときに、侯爵の婚約者のサリーカさんと話した時に、この村では、”ポルト"以外に何が作られているのだと聞かれて、小麦と大豆を作っていると言うと、小麦と大豆とポルトで作る料理を教えてもらったのだと言う。ピザと言う食べ物で、少し手間がかかるが、すごく美味しくて病みつきになるのだと言う。
小麦を粉にして、それに水と砂糖と塩を少し加える。砂糖も塩も高級品だけど、マガラ神殿では普通に売っているらしい。あとは、菜種油と言っていたらしいけど、特定の樹木の種を集めて絞った物を加えて、混ぜると固まってくるので、それを薄く伸ばして、ポルトを潰した物を布で一度包んで水気をきった物を、上に塗る。その後は、適当に肉や野菜を少し散りばめて、最後に大豆を絞った物にレモンと呼んでいたが、酸っぱい汁を絞って入れると固まってくる物をやはり同じように布で絞って水気をきった状態の物を上に置いて、かまどで焼き上げると出来上がり。あと、下の部分をパンを作るときの様にしても美味しいのだと言う。そして、この作り方は、父さんと母さんにだけ教えて他には教えないと約束してくれた。ただ、きっと真似してくる奴等は出てくるだろうから、味の研究や組み合わせの研究は続けるようにと言われたようだ。そして、このピザと言う物の値段がびっくりした。これだけの珍しい物でこれだけ美味しい物なら、銀貨2~3枚でも売れるだろうけど、サリーカさんからはできるだけ安い値段で子供でも買える値段にしてほしいと言われたそうで、大きさを小さくして銅貨5枚で買えるようにしたんだと言う。それが当たって、行列が出来てしまうまでになってしまったらしい。本店は村だが、支店としてマガラ神殿内の村の商店の一角を使って売っているのだという事だ。
そして、小麦があるのならと言う事で、サリーカさんからパンの作り方も教えてもらったのだと・・・。残念な事に、パンの作り方はいろんな店が知っているとの事だったが、中に入れる物で差別化ができる上に、混ぜる”酵母”を変えるだけで味はもちろん色も変わってくるのだと言う。父さんも母さんも村長から言われて、畑仕事は免除されて、パンの研究とピザの研究を続ける事になっている。ピザ職人やパン職人もこれから増やしていく事になるんだという。それができるのも、僕の村の本店には”侯爵”が認めた証を貰っている。印章を刻んだ盾を貰って、飾ってある。”お墨付き”だという。
そして、僕の事になるが、あのあとで、侯爵と直接話をして、学校に行かないかと言われた。父さんと母さんに相談したら、せっかくだから行ってきていいと言われた。同い年の子たちと4人で半年だけだけど、学校で勉強を学ぶことになった。その話はまた今度にしよう。
僕は、明日、ゴッドケープ島のマノーラ神殿で初めてパシリカを受ける1人になる。一緒に、村で育った友達も一緒だ。そして、僕達はもう村長にも許可を貰っているが、4人でパーティを組んで冒険者になる事にしている。少しでも、侯爵に恩返しをしたいと思う。侯爵はそんな事を望んでいない事は解っているが僕達の気分の問題だ。
僕達の村。”トーマス村”を発展させてくれた侯爵の為に僕達は冒険者になった。
”ポルト”の名前は、そのまま村の名前を頭に付けて、トーマス・ポルトになって、侯爵が長いから短くしようと言って、”トマト”と呼ばれる事になった。

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