【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

幕間 アゾレム領内の様子

アゾレムの監視をさせ始めてから3日目になる。リン様からは、領主の様子を監視するだけでいいとは言われているが、動きがない。映像珠を持たせた眷属が報告してくるが、酒精の強い物を飲みながら、何かに辺り散らしている所しか映っていない。屋敷の中には、使用人も殆ど居なくなっている。昔から従っている、執事バトラーの姿しか見えなくなっている。家令スチュワードが、家人に少しのレインを与えて逃している所を確認して、リン様にご報告したら、雇えそうなら雇えと言われている。何人かに声をかけたりしたが、アゾレムへの忠義もあり断られてしまった。
4日目になって、守備隊が戻ってきた。報告内容は、リン様から伝えられているような感じだ。本当に恐ろしい方だ。守備隊は六つの事を報告をしている。
持っていったミスリル鉱石が偽物だった事。マノーラ侯爵がそれに激怒してサレムを人質に取って7日以内に釈明せよと言っている事。書簡を渡した所失笑と共に1賤貨を渡された事。ニグラの向かった小隊も途中で宰相関係の商隊に遭遇して鑑定の結果偽物だと言われた事。移動中に数回襲撃を受けたが、それがどうもアゾレム様式の鎧を身に着けていた事。アゾレムに帰ってくる時に何者かに襲撃され、守備隊の残りが20程度だと言う事。
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「それで、マノーラ小僧はどうした?」「はっ獣人共を数百名庭に待機させていて、もともと私達を襲う気で居たようです」「生意気に....それで、本当に鉱石は偽物だったのか?」「はい。商人も私の部下で鑑定持ちが確認しましたが、偽物だったようです」「・・・・そんなはずがなかろう。ウォルシャタが採掘したと言って置いていった物だったんだろう?」「・・・私にはなんとも....サレム殿がご存知だとは思うのですが....」
「そうだ、ウォルシャタはどうした?返事は合ったのか?」「それもわかりかねます。ただ、一緒に行った私の部下が帰ってきていません。」「襲撃は、アゾレムの鎧だったのだな?」「・・・・はい。」「確認したのか?」「いえ、襲撃は決まって夜中で、確実とは言えませんが、肩に特徴が有りますのですぐにわかります。あれは、小隊で使っている物と同じ鎧です」「・・・ウォルシャタが裏切ったのか?誰かに言い含められたのか?」「・・・・わかりません。私は、事実を男爵様にお伝えしているだけです。」
「男爵様!」「なんだ騒がしい。今、それどころじゃない。」「いえ、男爵様。一大事です。」「だからなんだ。」「採掘場の確認に行った者がボロボロで戻ってきました!」「そうか、連れてまいれ」「よろしいのですか?」「あぁ構わない。」
(あぁアイツか....。)
「男爵様。大変です。」「だからどうした?」「アゾレム山脈なのですが、どこにも採掘した形跡がありません。それどころ、魔物の巣窟となっております」
椅子からアゾレムが立ち上がろうとしたようだが、足がもつれて立ち上がれない。「なに?どういう事だ?」「・・・はい。サレム殿の命により、小隊を率いて、ウォルシャタ様達が採掘を行っていると言う場所を確認しに行ってきました」「あぁ聞いている。」「・・・今までの報告には、魔物の掃討が終了しており、現れても小型の魔物だけだと聞いておりました」「そうだな。儂もそう聞いておる。」「確かに街道は魔物が一匹も現れませんでした。途中、商隊ともスレ違いましたが、最近は魔物や賊も現れないので楽に移動できると感謝しておりました」「・・・」「しかし、街道から外れて、アゾレム山脈の辺りまで行くと、不穏な感じになっていました。それでも、行きは大丈夫でした。無事、採掘場所までたどり着いたのですが....」「それでどうだったのだ?」「はい。小屋が数個あるだけで、誰も採掘をしておりませんでした。採掘をした後さえもありません。小屋に入って、辺りを数日かけて探したのですが、人っ子一人居ませんでした。採掘の為に必要な道具は勿論守備隊の為に用意してある防具一式やウォルシャタ様達が城下町で買い求められた保存食も一切ありませんでした。」「それは本当なのか?」「・・・はい。そして、帰還しようとしたときに、魔物の群れが襲ってきたのです。」「それはどんな魔物だったのだ?」「・・・・はい。白いワーウルフが統率した群れでした。」「ワーウルフだと?それは間違いないのか?」「はい。私も襲われました。」「お前の他には・・・。」「いえ、私だけが逃げ延びられました。他の者はわかりません。」
「お前たち、さっきからわかりませんばかりで要領を得ない。どういう事なんだ?小隊長。お前もだ、部下の中に裏切り者が居て、鉱石をすり替えたって事はないのか?」「いえ、それは無いかと思います。サレム殿が常に管理しておりました。」「それではサレムが裏切ったのか?」「それも無いかと...」「なぜだ!」「はい。マノーラ侯爵と話をするときに、サレム殿は最後まで男爵を信じておりまして、鉱石が偽物だった場合には、首を差し出すとまでおっしゃっていました。それで、捕縛されてしまったのです。」「そうか・・・。」「それに、小隊が減っているのは、本当にわからないのです、気がつくと1人1人と減っているのです。それも最初から居なかったかのように跡形もなく、声も音もしないで居なくなっているのです」「逃げ出しているのか?」「それも考えにくいです」「なぜだ」「はい。荷物が残されたまま居なくなるのです。逃げ出すのなら、荷物を持っていく必要があります。それに本当に物音一つしなかったのです」「私の所もです。最初は魔物に襲われた恐怖から逃げ出しているのかと思ったのですが、見張りをしているのに、見張りではなく一緒に居たはずの人間が居なくなっているのです。隊長と同じように、荷物が残されて....。」
「良くはないが、それはいい。それで、ウォルシャタが採掘した場所は何もなかったのだな?」「はい。酒精の入っていたであろう樽が残されていただけです。」「そうか、そうか、ウォルシャタが裏切ったのだな。たしか、サレムはゴーチエの所からの紹介だったな。」「・・・はい。」「それにワーウルフで確認したわ!確か、ゴーチエの息子が、テイマーで白いワーウルフを召喚していたよな?」「・・・はい。」「これで全部繋がった、ウォルシャタの奴。俺を捨てる気だな。」
「だっだっ男爵さまぁぁ」「どうした?」「ったったったった大変です」「だからどうしたのだな。」「宰相閣下の使いの方が来られて、これを男爵様に渡せとの事でございます。」「なにぃぃそれで使いの者は?」「はい。これを男爵にと言われて、すでに帰られています。」
(タイミングバッチリだな。どこかで見ているようだ。あの書類には、アゾレムの不誠実な行いを弾劾する事が書かれている。同時、すでに渡している全ての金貨の返還を求める事になっている。採掘は、宰相が別の者に責任持ってやらせる旨が書かれている。事実上の領地の没収にあたる。それに合わせて、村の人間が居なくなっている事への説明と、採掘が実際に行われている場所への、領主自らの案内。それに合わせて、今まで採掘している鉱石の引き渡しが要求されている。一つでもできなかった場合には、王国法に基いて裁く事が明記されている。もう一枚には、宰相が受けた屈辱への説明と謝罪が要求されている。マノーラ家から、宰相に正式に謝罪要求が来ている事や投資の返還を求められている事。その総数が大金貨72枚を即日返還するからすぐに持ってくるように書かれている。期日は、10日以内となっているはずだ。)
男爵がわなわな震えだしている。
「宰相が俺を切り捨てるつもりなのか?今まであんなに尽くしてきた俺を....なぜだ、おい。隊長。俺が何をした、なんで宰相は。」「・・・・」「男爵様。宰相にどのようにお返事しましょう?」「あ”ぁぁぁ!?採掘はしていませんでした、レインはもうありません。村の人間も逃げ出しています。なんて事が言えると思うか?お前なら言えるのか?」「今から採掘してなんとか....」「そんな事出来るのか?魔物の巣窟だって言ったのはお前だろう?守備隊ももう30も居ないんだろう?どうやって採掘するんだ?それに、大金貨72枚もどこにあるんだ?マノーラの小僧が全部悪いのか?」「・・・。いえ・・・」「違うのか?」「いえ、そうです。」「そうだろ?そうだろ?」「・・・・あっっはっはい。」「そうだ、マノーラの小僧が宰相に対して無理な事を言わなければいいんだ。そうだ、アイツに言ってレインを出させれば、そうだ、あの小僧は俺に従っていればいいんだ。侯爵だかなんだか知らないが、俺は代々の男爵家の当主でアイツは成り上がりだからな。そうだ、そうだ、俺はあの小僧を支配していいんだ。しているんだ。」「・・・・」「おい。お前達。」「・・・・」「お前たち3人だ」「・・・・」「今から書簡を書く、マノーラの小僧に持っていけ。お前たち、すぐに準備して戻ってこい。そうだな、その時に、家族を連れてこい。」「・・・なぜ家族を」「当たり前だろう?お前たちの変わりに、俺の為に尽くさせないとな。名誉な事だろう?」「・・・・」「早く行って来い。マノーラの小僧から金を奪ったら、そのまま宰相の所に行って話をしてこい。いいな。俺は悪くない。悪いのは、マノーラの小僧とウォルシャタだからな。いいな。間違えるなよ。」「・・・・。」「何をしている。さっさと準備しろ!!」
「「「かしこまりました」」」
(終わったな。リン様の予想通りだけど....。さて....)
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守備隊の隊長に眷属が話しかける。出てきた所を捕まえて、話をすれば呼び込めると言われているが、実際にその通りになってしまった。他の執事バトラーや隊員に関しても、同じだ。マノーラ家の使いの者である事を告げての交渉だが、皆がもうアゾレムを見限っている。もう終わったと思っているようだ。だが、殺すまでは思っていない。今までの恩義があるから、それが出来ないようだ。リン様に連絡をして判断を仰ぐ。今までは考えられなかった事が出来るようになっている。リン様は、この魔道具では不満の様だが、儂らに取ったらこれがあるだけでも作戦行動が楽に出来るようになる。この場で数日待た無くても良くなっている。
隊長が儂に面会を求めてきている。代表して話がしたいという事だ。儂は、今イスラ街道沿いに作った小屋?の中に居る。アゾレムからは1日程度の距離にはなっているが、眷属同士の念話で転移が使えるものが居るので、連れていくが良いかと言う事だが、流石にわからないので、リン様に連絡して確認したら、小屋じゃなくて、監獄街に移動して話をしてと言われた。家族の安全は保証するから、まずは隊長だけで連れて、監獄街に行って、安全だと思ったら、家族も転移して連れてくるようにして欲しいと言われた。万が一があるから、家族や関係者は今の所じゃなくて、アゾレム街から出た所で待機してもらう事にはした。
儂も、小屋から監獄街、、、イスラ街と命名される事になっているようだが・・・。監獄街に転移して貰った。
ドライアドのマロアドが待っていてくれた「アッシュ殿。ようこそ。」「お久しぶりです。マロアド殿。下の会議室を借ります。」「解りました。どうぞお使い下さい。」「ありがとうございます」
この監獄街の中心の塔は監視塔となっているが、ドライアドの二名のどちらかが居る事になっている。そして、エントの二体が守護している。正直最初に来た時には、リン様の常識を疑ったが、もう驚かないことにしている。
暫く会議室で待っていると、オルト殿が入ってきた。「しばらくぶりですね。アッシュ殿」「本当ですね。オルト殿。確か、今度准男爵になられるんですよね?」「えぇ本当にびっくりしていますよ。私が...それもこれも、リン様のおかげです。」「リン様の"せい”でもあるんですけどね」「全くです。最初は、本当に恐ろしかったですよ。それから、さんざん脅されましたからね。」「そうだったんですね。」「えぇ今ではあれも夢じゃないかと思うくらいですよ。」「そうでしょうな」「この監獄街も、ここが監獄なら、今まで住んでいた所は何だったんだろうって本気で思いますからな」「えぇそうですね。あぁそれで、今日はどのような...」「リン様から連絡が有ってアゾレムの守備隊の隊長が監獄街でアッシュ殿と面談するとお聞きしたので、顔見知りですし、説得の手助けが出来ればと思いましてな。」「そうだったのですか、ありがとうございます。でも、説得の必要は無いかと思いますよ?」「そうなのですか・・・??」
オルト殿に手短にアゾレムの館での事を話した。
「あぁこれは.....ここまでになってしまっているんですね。お館様も悪い人では無いのですけどね。何か見えない物を追いかけて、見なくてはならない物を見ていなかったのでしょう。」「そうですね。でも、領主の責務を果たしている間は良かったのでしょうね。」「まさにそうですね。どこで歯車が狂ったのでしょうね。」「多分、ニノサ殿とサビニ殿を殺害してしまった辺りだとは思うのですけどね。」「・・・・その話は本当なのですか?私の隊だった者にも聞いたのですが、知っている者は居なかったですからね」「・・・そうですよね。私も調べては居るのですが、一向に出てこないのですよね。生きている情報も出てこないのですけどね」「・・・・。」「・・・・。」
「あぁ来たようですね。」「そのようですね。」
「アッシュ殿。隊長をお連れしました。よろしいでしょうか?」「あっはい。大丈夫です。」
映像珠で見ていたアゾレムの隊長が入ってきた。身奇麗にしてきたのだろう、武装も解除して居る。
「なっなっオルトがなんでここに居るんだ?」「隊長。お久しぶりです。私は、今、この監獄街の守備隊の隊長をしております。近々、街を一つ任される事になります。」「??どういうことだ?お前は、魔物との戦闘で死んだと報告を受けているぞ!!」「はい。そうなっていると思いますが、マノーラ家に拾われまして、今はここで生きています。」「??」「まぁどうぞお座り下さい。私は、マノーラ家の者ではありませんが、侯爵から委託されて情報部門をまとめております。アッシュ・グローズといいます。アッシュとお呼びいただければと思います」「・・・これは、私は、アゾレム領守備隊の隊長を努めておりました。アルド=ウー・ランベクといいます。アルドとお呼び下さい。」「丁寧にありがとうございます」「それよりも、ここは何処なのですか?一体どうやって来たのですか?そして、何がなにやら.....」「そうでしょうね。家の大将はちょっと常識はずれな所が有りますからね。」「アッシュ殿?リン様は、ちょっとと言うレベルではありませんよ。私も慣れるまでに時間がかかりましたからね。まして、急展開な隊長なら余計にそうでしょう。」
「オルト殿。アルド殿も混乱していらっしゃるし、朝から何も食べていないでしょうから、何か食べる物と飲み物を持ってきた方が良いのでしょうか?」「そうですね。隊長。何か、食べられますか?」「あぁぁぁそう言えば、朝から何も食べていないが、どうしてそれを....。」「まぁそれも合わせてアッシュ殿が説明してくれます。」
オルトが壁のボタンを押すと、1人の女性が入ってきた。「すまないが、人数分の”炭酸飲料”と”サンドイッチ”そうだな”カツサンド”と”エッグサンド”を頼む。あぁそうだ”ポテトフライ”を多めに持ってきてくれ。」「はい。えぇぇっと・・・・」「全部で、2,500GRだろ?」「あっありがとうございます。そうです。」「アッシュ殿。今日は私が...。」「あ、そうですか、ありがとうございます。」「いえ、それではこれからお願いします。」「はい。ありがとうございます。飲料は味はどうしましょうか?」「あっ私は、ジンジャーでお願いします。最近、あれにハマっていましてね。」「それじゃ私は”みかん”でお願いします。隊長は....わからないと思いますので、今日は”ミックス”でお願いします。」「かしこまりました。”ジンジャー”と”みかん”と”ミックス”ですね。」「うん。頼む。」
女性が出ていった。「なんだ、今のやり取りは?」「ん?食事と飲み物の注文ですよ?」「それは解ったが聞いた事がない物ばかりだったぞ。」「えぇそうですね。この街で少し前に人気だった物ですよ。今は、”こめ”が人気なのですが、流石に話しながら食べる物では無いですからね」「・・・。まぁいい。それでアッシュ殿?私達はどうなるのでしょうか?」
「そうですね。最初に、アルド殿に謝っておきます。」「何をですか?」「うちの大将が悪ふざけをしてしまった事をです。」「??」「マノーラ家から帰られる時に、部下の方が徐々に減っていったと思いますが・・・。」「あぁぁ今のようにしたんだな?!」「はいそうです。隊長にわからなように、念話を使って話しかけまして、この監獄街に招待していたのです」「・・・でも、家族もいなくなっていたぞ?」「はい。その後ご家族も一緒にここに移り住んでおります。後で、ご案内致します。」「解りました。」「・・・・。」「・・・・・。」
「来たようですね。まずは、喉とお腹を満たしましょう。」
飲み物は、木で作られたコップに入っている。氷も浮かんでいる。コップの下部にはゴムが贅沢に使われていて、テーブルの上でも滑らないようになっている。「隊長。初めての飲み物だと思いますので、絶対にびっくりしないでください。驚いて手を離してしまった人間を何人も見てきています。」「あぁぁ(これは氷なのか?飲み物に氷を入れるのか?)」
あぁぁやっぱりびっくりするわな。
「オルト。これはなんだ!」「なんだと言われましても、”炭酸飲料”です。味は、いろんな果実を調合した物で甘くて美味しいと思いますよ。少し、炭酸が弱いので、最近では好まれませんが、初めてならそれがいいでしょう。」「味は解る。複雑だが、甘さの中に酸っぱさがあって高級な飲み物だと解る。だが、この口の中を刺激する物は?お前に言われていなかったら驚いてコップを落としてしまう所だ。それに、これは氷なのか?」「そうですね。これは、リン様達が考案した”炭酸飲料”と言う物で、エールの泡が飲み物の中に溶け込んでいると思って下さい。」「そう言われると、エールの刺激にも似ているな。全然こっちの方が強いけどな。」「はい。そして、隊長が言われた通り、氷が入っております」「そうだよな。この氷だけでも、銀貨が必要なんじゃないのか?」「いえ.....それがですね。そこに並んでいる食べ物と全部で、2,500レインです」「は?25,000ではなくてか?」「はい。2,500です。」「意味がわからん。」「まぁその辺りの説明もありますが、まずは、サンドウィッチを食べてみて下さい。」
カツサンドはいつ食べても美味しい。揚げ物と言っていたが、こんな調理方法があるとは知らなかった。それに、このポテトフライも最高なんだよな。あの根菜がこんな美味しい物になるとは誰も知らなかったと思う。リン様。特に、フェム様とタシアナ様が根菜を見つけた時に、大喜びされていたのを覚えている。それから、マガラ神殿の地下二階で栽培を初めて何度か”品種改良”を行って栽培も楽だし大量に出来るので、監獄街での栽培も始めたと言う事だ。リン様が言うには、連続で栽培したりすると畑の栄養がなくなるから、数回栽培したら畑を休ませるか、家畜をそこで飼うように言われている。
オルトがアルドにサンドウィッチの説明をしている。その後、監獄街とマノーラ家・ギルドの説明をしている。オルトも慣れているのか、淀み無く説明していく、そりゃぁそうだよな。今では、家族を含めて、3,000名近い街になっている。これがイスラ大森林のど真ん中にあるなんて誰も信じないだろうな。
「アッシュ殿?」「なんでしょうか?」「オルトの言うことだから嘘はないと思っています。」「はい。間違いないです。」「それで、私は、私達はどうしたらいいのでしょうか?」「はい。大将からは、『好きにしていいよ』と言われています」「??」「そうですね。もう少し説明します。マノーラ侯は、アルド殿が家族や部下の人たち一緒に監獄街に住んでくれる事を期待していますが、無理強いするつもりは無いようです。」「はぁ。貴族なのに命令しないのですか?」「はい。そういう方です。私も命令された事はありません。」「私もですね。最初の時には、脅されましたが、命令はなかったですね。」「・・・。あっそれで?」「すみません。アルド殿が監獄街に住んでくれるのなら、今のオルト殿と同じ待遇で良いと言われています。住まない事を選択した場合には、ご家族と一緒に、行きたい所までお送りするとおっしゃっています。」「行きたい所とは?」「そうですね。制限はありますが、トリーア王国ならどこでも、トリーア王国以外でも、近隣諸国ならお送り出来ます。後日になりますが、アゾレム領内で住んでいた家もそのまま移築する事も出来ます。」「・・・・。」「アッシュ殿。隊長が住むとしたらどの地区になるのですか?」「あっそうですね。今、眷属の皆さんが西側に街を広げています。そこをお願いしたいと言っております。」「おぉ湖地区が出来るのですね。」「はい。そうです。」「確かに、代官候補が居なくて拡張できなかったのですよね。その許可が出たのですか?」「はい。そうなります。もし、アルド様がお断りになったら、暫くは遊ばせておけと言われています。」
「・・・・。」「隊長。是非、お願いします。」「話が見えないが、勘違いでなければ、俺が住む場所を今作っていると聞こえたんだが?」「はい。概ね間違っておりません。アルド様だけじゃなくて、ご家族や監獄街に住む事を了承してくれた部下の方やアゾレムで働いていた人たちです」「・・・・??」「隊長が、街の代官になって収めて欲しいと侯爵が言っているのですよ。」「!!俺がか?」「そうです。隊長がです。」「お前がやればいいんじゃないのか?」「私はすでに領地を持っています。今度、準男爵になるのです」「!!!!!!!はぁ?」「侯爵が推挙してくれているのです。」「侯爵からは、アルド様がお受けいただいて、街の住人が100名を越えた位でアルド様も準男爵に推挙すると言葉を頂いています。」「俺もなのか?」「はい。寄親は、エベンス様やオイゲン様になろかと思います。」
「わからない。混乱していると言うのが正直な気持ちだ。つい先日まで敵だと思っていた方から話があると言われて来てみたら、元部下はいるし、条件が破格すぎるし、何か騙されているのではないかと思ってしまいそうだ。」「えぇわかります。それではどうでしょうか?お試しで暫く監獄街の中心に住んでみてはどうでしょうか?ご家族や部下の方々と一緒に、その為の施設もございます。」「・・・・そんな事が出来るのか?」「はい。そうですね10日程度住んでいただければ解ると思います。10日後にもう一度お話を聞かせてください。あぁそれと、うちの大将からは、もしそうなったら侯爵の名前で保証する書簡を作成すると言っております。10日後に、アルド様が拒否なされた時でも、ご家族共々命や財産は保証すると言う書簡です。後で、宿舎にお届けに参ります。」「・・・・。」「オルト殿。案内お願いしてよろしいですか?後、多分皆さんギルドカードを持っていないと思いますので、申し訳ないのですが、ギルドカードの発効だけはお願いいたします。」「わかりました。そうですね。正直、10日もいらないと思いますけどね。3日あれば十分わかってもらえると思いますよ。それじゃ隊長。ご家族や他の者を迎えに行きましょう。」「あぁ・・・。そうですね。家族に相談するにしても、ここを見てもらった方がいいだろうな。解りました。アッシュ殿。オルト。頼みます。」
その後、眷属にお願いして、全員を連れてきてもらって、塔の近くに立っている宿舎に案内した。元々はギルド職員や商隊が止まる為の施設だったが、ギルド職員が全員監獄街の住民に切り替わって、商隊も監獄街に本拠地を持つようになったので、使われなくなっていた。そこを、外部から来た人が街に慣れてもらう為の施設に使うようになっている。マガラ神殿から来た者でもない限り、かなりのギャップが存在している。その為にそういう施設がこの街には必要なんだと言う事だ。
その後、オルト殿の言っていた通りに、3日後にアルド殿から面会の申込みがあって、監獄街に来てみると、アルド殿と奥方が一緒に来られて、街の代官を受けると言ってくれた。これで、一つの心配事が片付いた。
アルド殿が言うには、住んで二日目には奥方と息子・娘から説得されたんだと言う。そして、決定的だったのは、ここが安全だと言う事と、息子と娘に教育を受けさせる事が出来ると言う事だ。双子では無いが同い年の二人はまだ7歳で奥方が足し算や引き算を教えていたと言う事だが、オルトから学校の事を聞いて、島の学校を見学してきたんだと言う。偶然、イリメリ様が居て説明してくれたんだと言う。それが決め手となって、アルド殿が代官を引き受けてくれた。そして、部下全員と家族全員。他にも、アゾレムの屋敷で働いていた者達も全員移り住んでくれる事になった。これで、人数的な障害もなくなって、リン様からは住む場所が出来て、全員が落ち着いたら、アルド殿を准男爵にする事になった。

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