【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

責任追及

宰相を伴って、執務室に入った。部屋の前で待っていたメイドに人数分の飲み物をお願いした。
部屋に入って、ソファーに座って、対面に宰相を座らせた。
「それで、宰相閣下は、僕に何かいい解決策を授けてくれるのでしょうか?」「・・・やはり、解っていましたか?」「えぇ腹の探り合いもたまにはいいのですが、毎回だと胃もたれしてしまいますからね。それに、ダンスホールでは、ローザスとハーレイが居ましたから、僕だけを誘ったと言う事は、宰相閣下もご身分を明かすつもりだったのでしょ?」「いえ、侯爵の出方次第だと考えていました。」「そうですか?それで、僕は合格ですか?」「いえ、不合格です。今日、うまく行けば、貴方をローザス殿下やミヤナック家から引き剥がそうと思っていたのですが、それは難しいようです。」「そうでもないですよ。別に僕は、ローザスやハーレイに義理立てしているわけじゃないですからね。より良い環境を整えてくれる方を支援するだけですからね」
後ろで『え”』と言う声が聞こえるが、これはウィンザーなんだろうな。ミルは、僕以外はどうでもいいし、エミールは多分読めているのだろう。
「侯爵。貴方は怖い人ですね。本当に、去年パシリカを受けたばかりなのですか?」「えぇ本当ですよ。それに、宰相閣下が僕なんかを恐れるわけないじゃないですか?」
「・・・・・」「・・・・・」
沈黙を破ったのは、ドアをノックする音だ。メイドが飲み物を運んできた。日本茶正確に言えば、慣れ親しんだ静岡茶の味だ。
宰相が一口飲んで「ほぉこれもまた....。」「気に入って頂けましたか?」「えぇ」
「・・・・」「・・・・」
「侯爵。単刀直入に言います。いつから気がついていたのですか?」「最初からです。アデレードとウォード家のマルティン嬢が誘拐された事件をご存知ですか?」「もちろんです。あれで、派閥を形成する貴族の資金源が幾つか潰れてしまいました。」「そうだったのですね。あの事件のときに、捕えた人間の中に、アゾレムの守備隊の隊長が混じっていました。その隊長が、助命と引き換えに、アゾレムがやろうとしている投資の話を知る限り話してくれたのです」「・・・・でも、それでは、まだわかりませんよね?」「いえ、その情報だけで判断できます。」「なぜですか?」「なぜと言われましても....幾つかの断片的な情報のつなぎ合わせですが、まずアゾレムは窮地に陥っていた。これは、僕の父親のニノサとサビニが調べた文章に起因します。」「・・・・。」「その話は別の話ですので、置いておきますが、間違いなく困っていたでしょう。その証拠に、アロイの街に干渉し始めていました。新たなポケット抜け道を探すためだったのでしょう。」「・・・・・」「アゾレムが地道にしっかり統治を進めるのなら、ウォルシャタ当りを村長にした村を新たなに作って、そこで何か特産になるような物を栽培させたり、武力に自身があるのなら、傭兵隊でも組織すればよかったのです。それをせずに、出るか解らない、鉱石の採掘を始めると言い出して、その為に、レインを募って、配当を行うと言っているのです。」「・・・・それだけでは、まだ判断できないと思いますが・・・。」「いえ、この時点で、これは詐欺。又は、それに類する行為だと思ったのです。」「・・・・それは?」「採掘するのがアゾレムなら、アゾレムが責任持って、レインを集めればいいのですが、それを宰相閣下や教会の名前でやろうとしていたからです。」「・・・そうだったのですね。儂の名前を使った事で、アゾレムが何か有ったときに、逃げる気だと考えたのですな。」「そうですね。確信に変わったのが、投資させていた人間の素性をアゾレムが調べ始めたからです」「え?」「ご存じなかったのですか?」「・・・・。」「宰相閣下が説明会を行った時に、僕の仲間を数十名潜り込ませたのですが、その全員に尾行が着いていました。尾行を尾行した所、アゾレムの屋敷に入っていきました」「そういう事でしたか。」「えぇそうですね。」「証書を買い取っているのも本当ですか?」「えぇ本当です。お見せしましょうか?」「いえ結構です。」「宰相閣下は、どうなされますか?」「それこそ、”どうにも”できません。」「僕は、アゾレムには一言ではすまないくらいの恨みがありますが、宰相閣下には思う所は一切有りません。これは本当です。派閥の方々も、お願いしてきてくれれば、ギルドの設置やマガラ神殿の通過に関しても許可しています。」「・・・」「改めてお聞きします。宰相閣下はどうなされますか?」「マノーラ侯爵。儂は、王国が良くなればと思っております。私心がまったくないとはいいません。娘の子供が皇子に推薦されればとも思っています。しかし・・・・。」「えぇ解っています。宰相閣下が権力の亡者だったりしたら、多分今日来られていないでしょう。」「・・・・」「よろしければ、僕の提案をお聞きいただけないでしょうか?」「お聞きしましょう。」「僕が今持っている証書の合計は大金貨で80枚近くになります。約定通りなら、大金貨72枚をご用意いただく事になります。しかし、失礼なら、宰相閣下個人や派閥の方々の屋敷を全部処分して、足りるかどうかだと思われます。」「えぇそうですね。そもそも、買い手が現れないでしょうし、買い手も侯爵以外には居ないでしょう。」「そうですね。そこで、僕が大金貨72枚を用意して、宰相閣下にお渡し致します。その代わり、5つの事を約束いただければと思います。」「5つですか?」「はい。ひとつ、次の御前会議から6ヶ月間は公務を停止して下さい。面会も控えて下さい。ひとつ、6ヶ月後に、アゾレムの領主が居なくなっていた場合に、現アゾレム領地をマノーラ家に与える口添えをお願いしたい。ひとつ、トリーア国内で紛争が勃発しても、どこの陣営にも属さないで下さい。ひとつ、紛争が発生した時の為に、僕の属している陣営が正規軍だと言う証明が出来るようにしておいて下さい。ひとつ、紛争終結後に、ローザスが勝ち残ったら、ローザスの配下として尽力して頂きたいどうでしょうか?」「もし、儂が断ったら」「宰相閣下は断りません。」「なぜそうお思いなのですか?」「宰相閣下が、トリーア王国を愛しているからです。」「・・・・。侯爵のおっしゃりようだと、紛争が発生すると聞こえますが....」「えぇ発生します。もういつ勃発しても不思議じゃないと思っています。」「紛争を起こさないで終わらせる事はできませんか?」「ご自分ができない事を他人にやらせるのは間違っていると思います。少なくても、僕にはその方法が思いつきません。」「そうですか、ひとつ教えてください。」「なんでしょうか?」「儂が途中で裏切るとはお考えにならないのですか?」「裏切るのですか?」「いえ、約定を交わした後に違える事はいたしません。」「えぇそうですね。正直にいいましょう。裏切るのならそれでも構いません。その時には、宰相閣下を含め全ての敵対組織を潰すまで戦い続けるだけです。」「・・・・。そんな事・・・」「出来るわけがないとお思いですか?」「いえ、先程の獣人達を見れば、不可能でないことはわかります。」「えぇそうですね。彼らは僕の力の一部でしかありません。」
「・・・・・・・解りました。侯爵のご提案をお受けいたします。」
エミールが5つの約定が書かれた書類を二通持ってきて、僕と宰相が各々にサインを書き入れて、割り印をしてお互いに一通づつ持つことにした。契約魔法を使っても良かったのだが、そこまでしなくても『裏切って』も『裏切らなくて』もどちらでも良いと言うスタンスを貫く事にした。
それなら、ウィンザーに言って、全部の証書を持ってこさせた。全部を確認してもらった後に、御前会議が終了した後で、宰相の館に送る約束をした。手元に証書が届いてから、6ヶ月の公務停止をお願いする事になる。
宰相が執務室から出ていくときに「侯爵。」「はい。何でしょう?」「いえ、なんでもありません。」「あっそうだ、宰相。ウォルシャタは準男爵になっているのでしょうか?」「えぇもう准男爵ですし、問題がなければ、次の御前会議に来られれば、男爵になるはずです。」「そうですか、できれば、ウォルシャタを男爵にして下さい。準男爵だと、旗印としては弱いでしょう。」「弱いとは?」「いえ、いろんな場所で紛争が起こるのも面倒ですし、どこかにまとまってくれると嬉しいのですよね。」「・・・・。解りました。特例的に、ウォルシャタ殿を男爵にするように働きかけます。」「お手間かけますがよろしくお願いします」
宰相は一礼して部屋から出ていった。外で待っているメイドに連れられて、遊技場に居るであろう、商人達と合流してからニグラに帰るようだ。おまけで、馬車もプレゼントする事にした。喜んでくれたら嬉しい。
宰相と入れ替わりで、ローザスとハーレイが執務室に入ってきた。「リン。本当にいいのか?」「何がですか?」「宰相だよ。」「あぁ大丈夫だと思いますよ。それに、宰相が旗印になってしまったら本当に、王国が割れてしまいますからね。」「どういう事だ?」「う~ん。宰相が旗印になってしまうと、宰相の娘やその子供に対しての処遇を考えなければならなくなりますよ?」「それはしょうがないんじゃないのか?」「しなくていい事はしない方がいいと思わないの?」「リン君は優しいね。」「ローザス。優しくはないと思うよ。面倒なだけだよ本当にね」「そういう事にしておくよ。でも、何もしないのでは問題になってくる」「そうでしょうね。丁度いい役職が有るのですけどね。受けてくれますかね?」「なに?」「海岸街の領主が居なくて困っていたのですよ」「あぁそうだな。丁度いいかもしれないな。貴族街の方だろ?」「そうなりますね」「解った、全てが終わった時にはそうなるようにしよう」「ありがとう。ローザス」「いや、こっちこそ悪いな。」
「ウィンザー。サレムを呼んできて。」「はい。」
しばらくしてから、ウィンザーに連れられて、サレムが執務室に入ってきた。「リン様。」「あぁサレム。ありがとう。これで話が進められる。」「いえ....それで・・・。」「うん。解っているよ。家族と家は、すでに監獄街に移動してある。向こうで生活を初めているよ。」「本当ですか?」「あぁ大丈夫だ。そこで、サレムにひとつお願いがある。」「なんでしょうか?」「悪い話ではないと思うぞ。サレムに、新しく作る監獄街に繋がる村の代官をやって貰いたい。」「私がですか?」「そうだ、サレムに引き受けてもらいたい。」「・・・・。他にも何人もいらっしゃると思うのですが・・・。」「新しい村は、今後、アゾレムの領内に移り住む者達で構成されているからな。おまえにやってもらいたい。」「わかりました。私に断ると言う選択肢はありません。リン様に従います」「うん。頼むね。あぁ後徐々にだけど、守備隊の人たちも行くから説明をお願いね。」「かしこまりました」「うん。あと、サレムと同じように、家族が居る場合には、特別に家族との移住を許可するって伝えておいてね。」「かしこまりました」
ミルにお願いして、サレムを監獄街の新しく作った区画に転移させた。家族はすでにそこで生活を初めているので、すぐに馴染んでくれると思う。そろそろ、監獄街も広げないとダメだろうな。
▲▽▲▽▲▽▲▽
正直、サレム殿には申し訳ないが、マノーラ侯爵の所に帰るつもりはない。あんなに恐ろしい気分になったのは初めてだ。領主の息子のウォルシャタ様と対峙した時は、たしかに威圧感は有るし勝てないと思ったが、逃げられるし生き延びられるという思いはあった。しかし、一瞬だけ見据えられた、侯爵からは逃げる事もできないのではないか、ここで殺されると本気で思った。一歩も動けなかった。頭では理解している、逃げなければ殺されると....。身体が心が諦めてしまったかのように動く事が出来なかった。獣人も確かに、脅威には違いない。獣人の100人よりも、侯爵が怖かった。
「隊長。どういたしましょうか?」「どうするもない。領主様にご報告しに戻るぞ。」「はっ・・・・サレム殿はよろしいのですか?」「どうしろと言うのだ?助けるなんて事はできそうにないぞ。」「・・・そうですよね」「それよりも、早急に領主様にご報告するのがいいだろう。」「はい」
隊列を組み直して、尾行が居ない事を確認して、アロイに置いてあった馬を乗り潰すつもりで、駆けていく事にした。途中で着いてこれない者も出るだろうが、それはそれで構わない。鉱石が偽物だったなんて、領主様は何を考えていらっしゃるのだろう。侯爵が子供だから騙せると・・・考えたのだろうか?
暫く走った所で一旦休憩を取る事にした。50名居た守備隊が42名にまで減っている、魔物が出ているわけではないが、いくら待っても合流する様子がなかった。小一時間位待ってみたが、来る様子がない。一本道だし、逃げるとしてもイスラ大森林の方に逃げるか、アゾレム山脈に逃げるしかない。逃げてどうにかなるとは思えないが、侯爵に敵対する事を考えれば逃げ出したくなるのもわからなくもない。
少し休憩している間に、また3人姿が見えなくなっている。音もなく、馬の鳴き声もしなかった。今までそこに居た者が消えてしまっているような感じがする。近くに居た連中に聞いても、気がついたら居なくなっていたと言うだけで、居なくなる所を見た者は居なかった。
39人にまで減った。ここに居ると危険だと判断して、場所を移動する事にした。暫く進むと、開けた休憩所がある。そこまで急いだ。今度は、誰も欠ける事なく移動ができた。やはり、逃げ出したと考えるのが正しいようだな。俺も、出来ることなら、職務を放棄して逃げ出したいが、逃げた事がバレたら、領主様に家族が殺されてしまう。あの人はそういう人だ。
「おい。」「はい。どうしました?」「あぁ残っている者を集めてくれ。今日の事とこれからの事を話しておきたい」「わかりました」
皆が集まってきた。「隊長。」「あぁ皆聞いて欲しい。すでに、11名の脱落者が出ている。逃げるなとは言わないが、俺と一緒に居てくれ。」「・・・はい。隊長。」「わかりました」「勿論です」「今日の事は、俺から領主様に報告する。」「はい。」「その前に、意見を聞きたい。」「意見とは?」「ミスリル鉱石が偽物だったのは疑いようがないだろう、あの商人は宰相閣下の紋章をつけていた。」「そうですね。宰相の息がかかった者だと思います」「あぁその者達が偽物だと言っていた。それも、おまえも見たんだよな?」「はい。鑑定のスキルを使って確認しました。」「どうだったのだ?」「・・・・偽物でした。正確には、ただの石にミスリルの欠片をくっつけただけの物です。」「そうか、と言う事は、鉱石が偽物だったのは間違いない。サレム殿も慌てていたので、知らされていなかったのだろう。」「そうだと思います。」「侯爵が言ったのは、7日間で戻ってきて、領主様の誠意ある返答を期待するって事だけど、ようするに謝罪しろって事だろう?」「えぇそうですが、領主様は....」「無理だろうな。」「どうしますか?」「そのまま伝える。」「紛争になろうかと思いますが、勝てますか?」「無理だろうな。」「ですよね」「あぁでも、俺が無理と言っても、無駄だろうな。」「そういえば、ウォルシャタ様は?」「彼の方も無理だろう。領主様は、息子のウォルシャタ様まで疑っているからな。」「そうですか....」「それに、書簡への返答を領主様にお伝えできないよな。」「私にはできません。」「俺も無理だな」
皆が黙ってしまった。
「皆。聞いて欲しい。領主様への報告は俺がする。」「はい。」「その上で、侯爵との紛争にならないように話をしてみるつもりだ。でも、どうなるか解らないのも事実だ。」「・・・・」「家族が居る者や恋人が居る者も居るだろう。もしかしたら、アゾレムはもう終わりかも知れない。俺たちと分かれて、宰相閣下の所に向かった守備隊が持っていった、鉱石が本物ならもしかしたらがあるかも知れないが・・・・。」
「隊長。先を急がなくていいのですか?」「あぁそうだな。少し考えさせてくれ。」「解りました」
どうするか、このまま急いで戻っても、結局は領主の判断を仰ぐことになる。サレム殿の事は気になるが、宰相閣下の所に向かった者を待ってからの方がいいのかも知れない。
「よし、今日はここで休息する。交代で見張りをするように。」「はっ」
交代で休む事になった。携帯食を食べて横になっていると
「隊長。起きていますか?」「なんだ?」「また数名居なくなっています。」「なんだと!?馬や荷物は?」「食料と水だけが残されている状態です」「は?普通逃げるのなら逆だろう?どういう事だ?それに何人居なくなっている?」「はっ。全部で9名居なくなっています。」「9名とも、食料や水は残されているのか?」「はい。馬もつながれたままです。」「?!どういう事だ。」「わかりません。」「そうか、疲れている所わるいが、全員をお越して集めてくれ。」「はい。そう言われると思いまして、すでに集まっております。」
皆が集まっている所に行くと、29名がそこに揃っている。周りは暗くなってきてしまっている。今から移動するのは命取りになりかねない。
「松明に周りに配置しろ。」
周りに松明を置いておけば、中から人が出ていけばわかる。そう思っていた、たしかに、それは間違っていなかった。確かに、中央に皆が集まった時には、29名が揃っていた。そして、松明を周りに置いた時にも29名揃っていた。でも、今確認したら、28名になっている。個々に確認をしていると、27名になっている。もう最初から27名だったと言われても信じてしまうかもしれない。本人の意思で消えているとは思えない。ただただ消えているのだ。
皆に、持っていた荷物の紐で身体を縛って繋げるように指示をした。そのまま今日は寝ないで夜明けを待つことになった。夜明けで紐が切れていない事などから安堵の空気で満たされるが、それも一瞬の事だった。27名から21名に減っているのだ。もしかしたら、自分たちは手を出してはダメな物と対峙しているのかもしれない。それに、昨日から街道を通る者も居ない。
「隊長どうしましょう....このまま....」「アゾレム街に戻るぞ」「っはい。」
『隊長。待って下さい。』「誰か呼んだか?」
馬に乗った1団がこっちに向かってくるのが見える。メルナで別れた分隊で、ニグラに向かっている最中だったはずだ。
「どうした?副長?」「はぁはぁはぁ隊長。持っていったミスリル鉱石が偽物でした!」「おまえの所もか?」「はい。」「それにしても早いな」「はい。隊長達と分かれてニグラに向かうときに、魔物に襲われて、時間がかかっていたら、メルナから来た商隊が居まして、宰相閣下の商隊でして、話をしたら、その場で鑑定を行う事になりまして、商人3人がミスリル鉱石を鑑定してくれる事になったのです」「あぁ・・・そうか・・・。それでも鑑定をした結果が偽物だったと言うわけか?」「はい。私達も信じられなかったのですが、そこに偶然通りかかった商隊の女性にもお願いして、鑑定してもらったのですが、全部が偽物だと言う事でして、なんと、そこに宰相閣下がご一緒でして、アゾレムに戻って領主に伝えろと言われてしまいました」「そうか、それで宰相閣下はなんと?」「『マノーラ侯からアゾレムに騙されたと訴えが上がっている。侯爵は、投資額の返還を求めている。どうなっているのか?大金貨で72枚の返還に応じなければならない。どういう事か説明しろ。儂に黙って、侯爵から投資を受けようとした事や儂の所にも偽物を送りつけた件をあわせて、釈明せよ』との事です」「・・・・終わったな。」「そちらも偽物だったのですか?」「あぁそれで、一緒に言ったサレム殿が、マノーラ侯に人質となって捕えられている。7日間だけ待って、それで納得できる返答がない場合には、然るべき処置を行うとおっしゃっている。」「え”今日で何日目なのですか?」「2日目だな」「・・・・。」
「お前たち、かなり数が少ないようだが、アロイやメルナに分かれたのか?」「・・・・いえ。何故かわかりませんが、徐々に少なくなってしまいまして・・・・。それも、いつ居なくなったのか解らないくらいでして....」「お前たちもなのか?」「隊長のところも?」「あぁ50名居たんだが、今では21名になっている。」「・・・・あぁこちらの分隊は最初は55名でしたが、今は17名です。」「そうか、お前たち、ここに来るまでに商隊やパシリカの子供を送る隊とすれ違ったりしなかったか?」「・・・・いえ。一回も・・・・。」「そうか・・・やはり何かがおかしくなっている。急ぐぞ。領主様にお伝えしなければ、アゾレムがまずいことになってしまうかもしれない。」
それから、合流して28名になった隊だったが、アゾレム街街が見えてきた時には17名までに人数を減らしていた。
街の中に入るために、守衛での検査を待っている最中に4人減って、13名になってしまっていた。すぐに、領主様の館に向かったが、すでに領主様はお休みになっていると言う事だったが、起こしてもらう事にした。緊急な要件で一刻もはやくお伝えしなければならない。しかし、帰ってきた返事は『うるさい。今日はもう寝る。』だった。再度お願いをしても、何分まっても、返事が帰ってくる事はなかった。家令スチュワードに伝言をお願いして、屋敷を後にした
「終わったな。アゾレムの歴史はこれで幕を下ろす事になるのだろう。」
▲▽▲▽▲▽▲▽
マノーラ神殿の屋敷に帰ると、イリメリ達が出迎えてくれた。
「どうイリメリ?」「うん。順調だよ。どのくらいになりそう。」「そうだね。全部で70~80名ってところだと思うよ。」「そうか、全部監獄街に送ってね。」「解っているよ。家族はどうするの?」「希望者は、家族も一緒にだね。」「それから、残った人たちの家はわかるの?」「どうだろう?サリーカ?どう?」「多分、解ると思うよ。もう、アゾレム街の入り口近くに眷属が潜んでいる建物があるからね。隊が到着したら、尾行を開始させるよ」「うん。ありがとう。」
「さて、アゾレム領主はどう出るかな?」「リン。楽しんでいる?」「そうだね。楽しくないって言うと嘘になるね。」「僕は、てっきり宰相にもっときつくするのかと思ったよ。」「え”僕ってそんなにえげつない事をしそう?」「うん。そう思ったから不思議だったの?」「ミルはその場に居たから解るだろうけど、宰相はローザスの為に必要な人だよ。」「どうして?」「反対意見が出ない組織ほど脆く愚かな行動に出てしまうからね。」「へぇそうなんだ」「うん。」「マノーラ家は大丈夫なの?」「どう思う?アデレード?」「急に妾に振られてもな。マノーラ家は大丈夫だと思うぞ。まず、リンがやりたいって事がそもそもしょうもない事が多い。」「おぃアデレード!」「まぁまぁリン。アデレードそれで。」「あぁしょうもない事は、妾やイリメリが止めればいい。それ以外の事もリンが実権を握っている事は殆ど無いからな。」「あぁ確かに、ギルドは、シュトライトだし、商売の方は、オイゲンやエルフリーデが主体だし、学校も次からはナッセが中心になるらしいし、それ以外でもナナが適度に出ているからね。」「だそうだよ。確かに、僕が好きに出来る事ってないんだね。ちょっとさみしいな」「リン。僕達が居るだけじゃ不満なの?」「そうだよ。それに、約30万の眷属が居るんだよ」「え”また増えたの?」「おかげさまでね。今、モルト達が各国を廻っているでしょ?」「うん。それに眷属も護衛でついて行っているよね」「そ、それで、魔物と遭遇したら片っ端から送ってくれているんだよ。」「えぇそのうち本当に大陸中の魔物が集まるんじゃないの?」「冗談じゃなくそうなってしまいそうだよ。」「まぁそうなったら、そのときに考えようよ。今、考えてもしょうがないでしょ」「そうだね。」
「リン。今日はもう休むの?」「うん。疲れたからね。それに、暫くは動きはないと思うからね。」
7日後が楽しみだな。

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