【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

資金ブースト

今日はまだそれほど暗くなっていなかった。マヤと二人で韮山タシアナの孤児院を訪ねている。韮山タシアナは、パシリカを受けて独り立ちの時期が来たから、近々孤児院を出て行く事になったらしい。今の孤児院も院長が高齢で、韮山タシアナが一番年上で、下に10歳の女子が二人と6歳の双子の男子と5歳の女の子が一人の子供が6人で住んでいる。なぜ、僕とマヤが訪ねたかと言うと、韮山タシアナが独立に併せて、今度立ち上げるギルドで働く事にする。その上で、院長に話をするのに付いてきた。
「ゴメンね。リン君・マヤちゃん。」「いいよ。宿に戻ってもやることなかったからな。」
孤児院の院長も、昔僧兵隊マルクトで隊長をやっていたほどの人だが、反骨精神が旺盛で口も悪かったから上官に嫌われて、左遷された先で、横領の濡れ衣を着せられた事を発端にしてやめてしまって、それからスラム街で孤児院をやっているらしい。スラム街でも、それほどの人には敬意を払っているのか、ここの子供たちには優しく接してくれているのが救いだと言っていた。
孤児院の訪問は、すんなり終わって、韮山タシアナがギルドで働く事に関してはすぐに了承を貰えた。その上で一つお願いがあると言われた。「リン君。そのギルドと言うのは誰が代表になるのかな?」「・・・・。」そういえば決めてなかった。「その顔は考えていなかったって感じだね。」「はい。僕としては、フェムかイリメリがやればいいと思っています。」「そうだね。君達の話を聞くとそれが自然の流れのようだけど、パシリカを受けたばかりの子供では甘く見られたりしないか?」「・・・・。はい。そうですね」「うん。君は頭の回転がいいね。」「ありがとうございます」「うん。それで、私をそのギルドの代表として雇わないか?」「「「!!!」」」「条件に関しては、後ほど決めればいいけど、代表は私のような人間の方がいいだろう?」「「「・・・」」」「これでも、スラム街やニグラ街では顔が売れているし、力技も出来るからね。」「・・・・すごくいい話だとは思いますが、すぐに報酬が支払えるようになるとは思えませんし、僕一人で承諾するわけには行きません。」「うん。良い答えだね。報酬に関しては、出せるようになった時でいいよ。その代わり、孤児院の子供達をギルドで雇って欲しい。」「「「!!!」」」「そんなに驚く事でもないだろう?タシアナが一緒なら他の子も安心するだろうからな。」「そうですね。すぐに返事できないのが心苦しいのですが、前向きに皆を説得したいと思います。」「うん。返事は急がないからじっくり相談してくださいね。」そうニッコリを笑われてしまった。確かに言っている事は正しい。子供だけの組織よりも代表が大人であり、その人の立案だということの方がしっくりくる。それに、アドラからの”有名になる”に合致する体制が作れそうな感じがしてくる。・・・。ん、待てよ。ミヤナックにお願いして、コボルト魔核を幾つか買い取ってもらって、ニグラ街で仲間が住める場所を用意して、そこに孤児院やギルド本部として役割を持ってもらえばいいんじゃないのか?少し考える必要はありそうだが、このまま行くとポルタには住めそうにないし、ニグラ街なら人も多いから身を隠すには丁度良さそうだな。まさか、僕達が資金チートで家を用意出来るとは考えないだろう。宿を中心に探している可能性もあるだろう。既に、真命やジョブを改竄しているから、見つかる可能性は低いがリスクを低減させることは良いことだと思う。
「院長。この孤児院は、スラムである必要は有るのですか?」「ん?場所の事なら、どこでも問題はない。支援者が用意したのがスラム街だったし、孤児が多いのもこの街だから、場所は問題にはならない。」「そうですか、解りました。少し考えて、仲間と話をしてきてから返事をしたいと思います。」
そう言葉を残して、『夜の蝶』に戻った。まだ、みんな残っていた。そこで提案された話をしたら、概ねOKとの事だった。資金的な問題は、皆考えていたが答えが出ないままだったようだ。そこで、熱川ルアリーナにお願いして、もう一度ミヤナックに会えないかと話をしたら、外で待っていた従者がミヤナックに伝言を伝えて返事を持って帰ってきた。「ハー兄様も丁度。リン君に会いたかったらしい。”一人・・で屋敷に来て欲しい”らしいけど、リン君どうする?私が付いていくには問題ないと思うけど....。」「いいよ。一人でと強調されているからには何か有るんだろう、僕一人で行ってくるよ。マヤもここで待っているか、宿屋で先に寝ていて」
マヤに念話を繋げた『マヤ。行ってくる』『うん。ここで、イリメリとかと話しているよ』『そうだね。タシアナとの話しも皆に説明しておいてくれると嬉しい。』『解った。気をつけてね。リンは弱いんだからね。無理しないでね。』
念話を切って、「それじゃ行ってくるよ。表の従者に話をすればいいんだよね?」「うん。ハー兄様に何言われても怒らないでね。お願い。」熱川ルアリーナに懇願されてしまったが、こちらからお願いしている立場なのは解っている。笑って手を振って従者の所に急いだ。
ミヤナック家は、第一壁ファーストウォールの内側にある。検問で札を貰って中に入る。従者が手際よくやってくれたので、検問自体はすぐに通過する事が出来た。札は魔道具になっていて、承認印の様に訪ねた家で印をもらわないと、外に出ることが出来ない。ミヤナック家は、王城の近くに邸宅としてあった。ポルタの領主アゾレムの邸宅が成金主義の邸宅なら、ミヤナック家は伝統と格式がにじみ出る様な邸宅だ。門で、従者が暫くお待ち下さいと言う事だったので、待っていると・・・・。本邸とおもしき所ではなく、別宅と思われる屋敷から、気楽な感じで一人の男性が歩いてきた。「やぁリン君。こんな時間に申し訳ないね。」「いえ、ミヤナック様。こちらこそ、夜分に申し訳ありません。」「いやいや気にしないでくれ。君の話を聞く前に、立ち話と言うわけにも行かないだろう、別宅になってしまって申し訳ないが、僕の館に来てくれると嬉しいな」「はい」前を歩くミヤナックに付いて行く。屋敷の説明をしてくれている。本邸には、元領主と妻達と熱川ルアリーナが暮らしているらしい。ミヤナック自身は別宅で仕事をしている。弟は、反対側の別宅で住んでいて、そちらは、警備兵も駐屯しているとの話だった。ミヤナック自信は結婚はしているが、子供はまだ居ないらしい。二人の妻と仲良く暮らしているとの事だった。後継者が欲しいっと言われているが、ミヤナック自信があまり権力を欲する事もなく、次男である弟の所に子供が生まれたら、その子に伯爵家を継がせても良いと思っているとまで聞かせてくれた。屋敷に入ると、二人の妻が出迎えてくれた。この屋敷でも女中や執事は居るらしいが今日はもう下がらせたから何の遠慮もなく寛いで欲しいと言われた。ミヤナックの執務室に通されて、妻の一人が紅茶を運んでくれた。
「君はエールを飲まないらしいから、紅茶にしたが良かったかな?」「はい。ありがとうございます。」「うん。僕の話の前に、君の話を聞かせて欲しい。何か僕にお願いがあるらしいね。ルナの事以外なら話を聞いてあげるよ。」「・・・ありがとうございます。」隣に座っている妻が「ゴメンなさいね。この人。ルナちゃんの事になると途端に馬鹿になるんですよ。それに、昨日、ルナちゃんが帰ってきて、君の事を嬉しそうに話していたのを見てすごく拗ねてしまって大変だったんですよ」「君は黙っていて、僕はリン君と話をしているのですよ。」「はいはい。私は下がりますね。何かあったら呼んでくださいね。」そう言って、妻は席を外してくれた。ドアから出たのを見計らって、今日訪ねた理由を説明した。
「ほぉコボルト魔核を持っているんだね?」「はい。偶然手に入れました」「それは、ニノサから渡されたものなのか?」「いえ違います。僕とマヤが偶然。マガラ渓谷で手に入れました」「そうか、入手は問題にならない。見せてもらえるかな?」「はい。」魔法の袋マジックポーチから、コボルト魔核を取り出して、ミヤナックに渡した。
ミヤナックが手元にあった鈴を鳴らした。執事らしき人がすぐに現れた「おぃローザスはまだ居るか?居たら呼んできてくれ。」暫くしたら、先程の執事と均整の取れた男性が一人入ってきた。「ハーレイなにか用か?」いきなり伯爵の愛称で呼んでいる事から、ローザスという人もかなり近い人間なんだろう。「あぁ悪いけど、これを見てくれ。」そう言って、コボルト魔核をローザスと呼ばれた人物に渡した。「!!ハーレイ。これは本物だぞ。」「本物なのは解っている。価値はどのくらいになる?」「王家に献上でもするのか?」「いや、そこに居るリン君がこれを持ってきてね。便宜を図ってほしいと言う事なんだよな。」「お前。それは受けろ。これほどの物はなかなか手にはいらないぞ。価値としては、8,000万レインでも欲しがる奴は居るだろうな。俺が買い取るなら、7,500万レインと言う所かな。オークションにだしても不思議じゃない物だぞ。おい坊主。これは一個だけなのか?」「・・・。」「ハーレイの知り合いみたいだから悪いようにしないから言ってみろ」「っはい。コボルト魔核は全部で74個あります。」「「!!」」「おい。ハーレイ。想定外だ。一個なら買い取ってオークションに出せばいいと思っていたし、3個程度なら2つをオークションにだして、一個を王家に献上しろと言うつもりだったんだが....74個もあると、買い取れないな。」「ローザス。リン君がして欲しい事は、孤児院に使えそうで、組織の本部を置けるような邸宅で、できれば、10人程度が寝泊まり出来る物が欲しいと言う事だよ。後は、20人程度の人間が数ヶ月から1年程度暮らせる資金があればいいって事だったよね」「・・・はい。」そう頷いた。ローザスと呼ばれた人は少し考えて....「4個だけ、コボルト魔核を預けてくれないか?」「??」「君が何をしたいのかわからないから正確な数字は出せない。でも、暫く活動するだけの資金が必要だって事は解る。4個のうち、一つはすぐに用意する。それ以外の3つに関しては、王家主催のオークションに出品する。手数料で一割をもらうがそれでいいか?」「はい。でも、僕はレインで貰っても、邸宅を入手する伝手がありませんし、内装の変更や家具を揃えたりする伝手もありません。この辺りをしていただけたら助かります。」「あぁまかせろ。後は何か必要なのか?」「そうですね。皆の意見を聞く必要はありますが、僕達がやりたいことにはある程度の人手が必要になってきます。受付が出来そうな人物や出来れば警備も欲しいです。」「坊主。いや、リンとか言ったな。商人の伝手はないのか?」「一人、セトラス商隊の娘さんが計画に参加してくれています。」「あぁセトラス商隊か、たしかに奴らではコボルト魔核を処理するのは難しいだろうな。でも、家具や内装に関しては、彼らを頼るのがいいだろう。喜々として用意するだろう。」「ありがとうございます。でも、良いのですが?商売敵じゃないのですか?」「クックククク。おい。ハーレイ。この小僧面白いな。」「だろ、とても今年パシリカを受けた小僧とは思えないだろう。そんな奴らが10人位集まっているみたいだぞ。」「そりゃぁびっくりだな。」「おい。リン。俺は別に商人じゃないぞ、たしかに、鑑定持ちで商人の真似事もやるが基本は、ハーレイの食客でこいつにアドバイスをしている立場だからな」「え”そうなんですか?」「多少まとまった金を動かせる立場には居るけどな。」そういってローザスは笑っていた。何者なのかは詮索しないほうが良いみたいだった。「そうだな。人手が必要なら、ハーレイの所から出す事は出来るだろうけど、そうなると、他の貴族が煩く言ってくるかもしれないな。坊主。お前がやろうとしている事を簡単に説明しろ」勢いで言われて、ミヤナックが居る事から大丈夫だろう。そう思って、ギルドやクラウンの事を簡単に説明した。要するに街の便利屋スイーパであると説明した。「ハーレイ。これは、お前の差し金か?」「いや、違う。ルナから昨日聞いてびっくりしていたんだ」「そうか....リン。それなら、受付や護衛に奴隷を雇ったらどうだ?」「奴隷ですか?」「そう、購入資金はある程度必要だけど、その後は主人に逆らわない人材として有益だとおもうよ。」「そうですか、たしかに一考の価値はありそうですね。でも、僕には奴隷商人の伝手がありません。誰でも行ってすぐに買える物では無いでしょ?」「ハーレイ。お前の名前使っていいか?」「あぁアッシュの所を使うんだな。いいぞ。」「リン。問題ない。邸宅は、俺が用意してやる。人数が人数だから、それなりの大きさが必要になるだろうな。丁度、商人地区と工房地区の間に2軒続きの邸宅があるぞ。」「!!。ローザス。あそこは、お前が商店を出す時の為に押さえていたんじゃないのか?」「あぁそれよりは、坊主に乗っや方が面白そうだからな。あの2軒なら大きさも問題にはならないし、そのギルドとやらをやるにも丁度いい立地だろう?」「それはそうだけど、多少まとまった金額が必要になるんじゃないのか?」「そうだな。リン。どうする?ハーレイが話した通り場所はすこぶるいいし、物件の広さも申し分もない。部屋数も30以上あるから今の人数でも全員住めるぞ。もともと店舗に使うための物だから、内装工事もそれほど必要ないかもしれないからな。」「どのくらいですか?」「そうだな。賃貸で月に金貨2枚って所だな。購入なら、大金貨2枚でいいぞ。」こりゃぁ安く見られているな。ふっかけている雰囲気もないし、これからの付き合いを考えると最初に甘く見られるよりはいいだろう。「解りました。2軒を購入します。これで良いですか?」魔法の袋マジックポーチから、大金貨を二枚取り出した。「「!!」」「おいおい。即決の上に即金かよ。ハーレイ。この小僧は何者なんだ?」「クッククク。ローザスのそんな顔見れただけでも満足できるな。このルナにつきまとう害虫は、ニノサの所の小僧だ」「っあ....そうか、あいつまだ生きていたんだな。でも、ニノサの所のガキなら解るな。」「だろ。」「あぁ悪い。リン。解った、大金貨二枚で売ろう。それと、内装もそのまま使っていい。鍵やその他の物は準備して明日にでも届けさせる。どこに泊まっている?」「朝の夢という宿に泊まっていますが、届け物なら、夜の蝶のフェム宛にして貰えたほうがうれしいです。」「解った、ハーレイの従者に持って行かせる。」どうやら本拠地とニグラ街での住処が手に入ったようだ。それにしても、ニノサは何をしたんだ?
「あぁ奴隷だけどな。流石にこの時間じゃもう難しいから、明日にでも一緒に行くか。宿に行けばいいんだろ?」「はい。お願いします。」
それから、手続きは従者に任せるという事だった。コボルト魔核を渡して、7500万レインを受け取った。これで暫くの活動資金を得る事が出来た。残りも、近々行われるオークションに出品して売れたら、すぐに届けると言われた。もしかしたら、ポルタの里に戻っているかもしれないと伝えると、そうしたら、購入した邸宅に届けさせるとの事だった。僕の話が終わった頃には既にお茶も冷めきっていた。喉を潤すつもりで一口のんだ。

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