99回告白したけどダメでした

Joker0808

181話




 海から帰宅した翌日。
 誠実はバイトに勤しんでいた。
 
「あぁ~暑い……」

 厨房でフライパンを持ちながら、誠実は呟く。
 朝から気温が高く、冷房の無い厨房の中はまさに地獄だった。

「誠実君、オムライスとサラダ追加ね!」

「はい、わかりました」

 また追加の注文が入り、誠実は手を動かす。
 丁度お昼の時間になり、お客さんは増していく一方だった。
 なんで厨房には、自分以外の人間が居ないのだろうと誠実はこの店の人員不足を恨みながら、卵を割っていた。

「誠実君、サンドイッチ出来てたら、コーヒーと一緒に持って行っちゃいたいんだけど」

「あぁ、出来てますよ。はい」

 誠実は店長にサンドイッチを手渡し、オムライス作りに戻る。

「いや~、綺凜ちゃんと誠実君が居ない日は大変だったよ……やっぱり人材不足は問題だねぇ……」

「そう思うなら、厨房の人材増やして下さいよ」

「う~ん、今の経営状況なら人も雇えるんだけど……募集しても来るかどうか……」

「ネットに乗せれば、すぐに来るんじゃんないですか?」

「う……でも、面接とかしたこと無いし……」

「じゃあ、木崎さんはどうやって雇ったんですか……」

「店をオープンする前に、その辺でバイトしたそうにしてたから、スカウトしたんだよ」

「どんな雇い方ですか……」

 そんな話しをしている間に、またしても注文が来てしまい、話しは中断された。
 現在、この店に居る従業員は、店長を含めて四人。
 最近忙しいこの店にとって、人員不足は早急に解決しなければいけない問題事項だった。
 長いお昼のピークが終わり、誠実は暇な今のうちに、厨房で水分補給をしていた。

「はぁ……結構きついな……」

「いや~お疲れ様、誠実君」

「木崎さん、フロアは落ち着きました?」

「うん、今はお客さん一人だけだよ」

 木崎も休憩のようで、厨房の冷蔵庫にしまっていた、ペットボトルの飲み物を取りに来ていた。

「にしても、綺凜ちゃんはお客さんに人気あるわね~。男共の見る目が私と全然違うわ~」

「アハハハ……そうなんですか」

「綺凜ちゃん、私みたいなおばさんと違って、可愛いもんね~」

「木崎さんもまだ二十代じゃないですか?」

「誠実君覚えておきなさい、女の二十代は前半で終了なのよ……それ以降はおばさん…」

「悲しげな表情でそう言う事言うのやめて下さい……」

 厨房に置かれた丸いすに座りながら、誠実と木崎は話しを続ける。
 一方の綺凜は、店長と共に店内の掃除をしていた。
 
「海は楽しかったかい?」

「はい、帰りは災難でしたけど、楽しかったです」

「そうかい、それはよかった」

 カウンター席を掃除しながら、綺凜は店長に笑顔でそう言う。
 店内には、従業員以外には常連のおじいさんが一人だけ。
 今のうちに、誠実達従業員は交換で休憩を取るのだ。

「え? 求人を出すんですか?」

「うん、流石に厨房が誠実君だけっていうのも心配だからね」

「あ、確かに誠実君が休んだら大変ですもんね……主に店長が」

「そうなんだよ! 僕が厨房に入って出来る事と言ったら………サラダを盛り付ける事しか……」

「店長、不器用ですもんね……」

 この店の店長は、コーヒーを入れるのは上手なのだが、それ以外の料理が全くダメなのだ。
「そういう訳で、ネットにバイト募集の求人を乗せてみようと思ってね、出来ればフリーターみたいな子が理想なんだけど、今はそんな事を言ってられないから、とりあえずとんでもない変人じゃ無い限り、採用しようと思って」

「確かに、この人数じゃキツいですもんね」

「うん。あ! もし綺凜ちゃんの友達で、バイトしたいって子とか居たら、声掛けてよ。人数は多いに越した事はないから」

「はい、わかりました」

 そんな話しをしている二人の元に、休憩を終えたのであろう木崎がジト目で店長を見ながらやってきた。

「店長は若い子が好きなんですね、このエロ親父」

「人聞きの悪い事を言わないでくれよ……僕からしたら、木崎さんも十分若いから」

「変なフォローは要らないので、早いとこ人員増やして下さいよ。全く……」

 木崎はそう言い残すと、店先の掃除に向かった。

「店長と木崎さんって、ずっとこんな感じなんですか?」

「アハハハ、まぁね……あれからもう……一年経とうとしてるんだなぁ……」

「? 一年ってなんですか?」

「このお店がオープンして一年って事だよ、木崎さんはその頃から、働いてくれてるからね」

 木崎と店長の出会い、そしてお店のオープン。
 綺凜はなんだか話しを聞くうちに、木崎と店長の出会いを知りたくなった。

「木崎さんって、普通に面接に来たんですか?」

「違うよ、えっと……最初は僕一人でお店をやってたんだ……」

「そうなんですか?」

「うん。会社勤めで溜めてお金を元手に、昔からの夢だった喫茶店をオープンさせて、僕は頑張っていたんだ。でも、綺凜ちゃんも知っての通り……全然お店は流行んなくてね……そんな時に、木崎さんはお客として僕の店に来たんだ。それが、最初の出会いかな?」

「え、木崎さんって最初はお客さんだったんですか?」

「俺も聞きたいです、その話!」

「え、誠実君……君も休憩終わり? 二人とも別に面白い話しでも無いよ?」

 話しを聞き、誠実も厨房から現れた。
 店長はそう言うが、ここまで話しを聞いたら、最後まで聞きたくなってしまうのが自然。
 誠実と綺凜は、店長に続きを聞く。

「えっと……とは言っても、僕が木崎さんにコーヒーを振る舞って、それから商店街で何度かあって、バイトしない? って誘ったのがきっかけってだけなんだけど……」

「え? それだけっすか?」

「だから言ったじゃないか! 面白いことなんて無いって!」

「なんか、もっとなんかあるのかと思ってました……すんません」

「そんな残念そうな顔しないでよ! なんか僕がショックじゃないか!」

 誠実と店長が言い合っている中、綺凜は一人、今の話しに疑問を抱く。
 なぜ店長は、木崎と何度も商店街で合ったのだろう?
 店長が商店街にあるコーヒー豆の専門店で、いつも吟味して豆を買っている事は知っている。
 おかしいの木崎の方だった。
 前に綺凜が木崎に、どの辺りに住んでいるのか尋ねた時、木崎は駅から二駅離れたところのアパートに一人で暮らしていると言っていた。
 買い物で商店街に来ていたとしても、木崎さんの住んでいる場所には、スーパーもコンビニもあり、お店が充実している。
 ここまで買い物に来る理由は無いはずなのに……。
 綺凜はそこが引っかかっていた。

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