99回告白したけどダメでした

Joker0808

171話

「ん? これは貝殻で出来てるのか……」

 誠実が見つけたのは、貝殻でキーホルダーだった。
 貝殻に色とりどりのガラス細工の装飾が施されており、中々可愛い。

「先輩と恵理先輩はこれにしようかな……値段も丁度良いし…」

 誠実は二人へのお土産を決定し、貝殻のキーホルダーを二つ手に取る。

「えっと……家とバイト先には同じお菓子で良いし……後は……あ、美奈穂にも一応買っていくか」

 美奈穂にも、バイトの事などで世話になったので、誠実は美奈穂にも何か買っていこうと再び土産物屋を探し始める。

「何が良いかなぁ……」

 栞と恵理と同じキーホルダーも考えたが、一応身内だし別な物を上げることにした誠実。
 何か良い物は無いかと、店内を物色する。

「う~ん……これか?」

 誠実が手に取ったのは、貝殻で作られた華の装飾が付いた髪留めだった。
 値段はキーホルダーよりも少し高いが、これ以外に良い物がおもいつかず、誠実は美奈穂のお土産を髪留めに決定する。

「これで全部だな」

 誠実は改めて買った物を確認し、買い忘れが無いかを確認する。

「よし、これでオッケーだな、あの二人はもう買い終わったかな?」

 誠実は会計を済ませ、美沙と沙耶香の方に向かう。
 二人はまだ何を買うかで悩んでいるらしく、先ほどの場所から動いていなかった。

「沙耶香、決まったか?」

「う~ん……やっぱり藁人形は多い方が……」

「………」

 なんとなくそっとしておいた方が良いと思い、誠実は沙耶香の元を離れる。
 美沙の方に行くと、美沙は買い物を終えた様子で袋を片手に先ほどと同じように、竜の巻かれた剣を見ていた。

「美沙は終わったのか?」

「うん……でも、これを機にもう一個買っていくべきかな?」

「好きにしろよ……」

 結局その後誠実は、二人を二十分も待つことになってしまった。
 ようやく二人も買い物を終えたところで、誠実達は旅館に戻り始めた。
 荷物を持って帰ろうとする道すがら、誠実はこの旅行で言おうと決めていた事を言おうと決意した。
 あとは旅館に荷物を取りに行き、買えるだけ。
 当事者が揃っている今がチャンスだった。

「あのさ……ちょっと良いか?」

「ん? どったの?」

「誠実君、どうかした?」

 旅館に戻る途中の海沿いの道で、誠実は立ち止まり二人の方を見る。
 困ったような、複雑そうな顔を向ける誠実を見て、美沙と沙耶香はなんとなく何か大事な事を言われる事を察した。

「あのさ……本当はこんなところで、こんな事を言うべきじゃないのかもしれないけど……」

 誠実が言おうと決めていた事、二人に言わなければと思っていた事。
 誠実がずっと考えていた、二人の気持ちに対する答えを誠実は口にする。

「あのさ、もう俺の事は諦めてほしいんだ」

「え……」

「………」

 申し訳なさそうな表情を浮かべる誠実。
 沙耶香は驚きで声を漏らし、美沙は来てしまったと言うような表情で、誠実から視線を反らす。

「俺は多分、まだ前の恋を完全に諦めきれてない……だから、二人の想いに答える事が出来ない。いつまでも答えを保留にするのもいけないと思って、今日言おうと思ってた……ごめん」

 誠実はそう言って、二人に頭を下げる。
 二人がどんな顔してるか、誠実はなんとなく予想が出来た、だから顔を上げるのが恐かった。
 行ってしまった、そうも思った。
 しかし、言わなければいけない、そうも思った。

「……」

「……」

 二人は何も言わなかった。
 誠実は、無言の二人が気になり、恐る恐る顔を上げる。 
 美沙も沙耶香も、泣いてはいなかった。
 しかし、表情は悲しげで、正直見ているのが辛くなってしまった。

「そ、そっか……フラれちゃったんだ……私」

 最初に口を開いたのは沙耶香だった。
 無理に笑顔を作っている事が良くわかった。
 誠実はそんな沙耶香に何も言うことが出来なかった。
 
「ま、そんな事だと思ったけど……結構きっついなぁ……」

 美沙も無理矢理に笑顔を作っていた。
 誠実はそんな二人に心を痛める。
 誠実もフラれる事のつらさを知っている。
 だからこそ、二人の悲しさを知っている。

「……ごめん」

「あ、謝らなくて良いよ! し、仕方ない……し……」

「そ、そうだよ! ……本当は……なんとなく気がついてたから……」

 誠実が綺凜にフラれた後も、二人は綺凜に無意識のうちに視線を送る誠実を見ていた。

「……戻るか」

 沈黙が続いた後、誠実の言葉で、三人は旅館に戻る。
 旅館には既に戻っていた残りのメンバーが居た。
 気を使って、美沙も沙耶香もいつも通りに振る舞っていた。
 そして、全員で旅館を後にし後は帰るだけになった時、バス停で誠実は言う。

「俺はここで別れるわ、ちょっと野暮用があって、行かなきゃ行けないとこがあるんだ」

「え、こんなところに?」

 尋ねたのは志保だった。
 誠実は不思議そうな表情を浮かべる志保に、誠実は笑顔でそう言い、皆に別れを告げ、その場を離れた。

「………はぁ……」

 当然、誠実には何の用事も無い。
 ただ、二人と一緒に居るべきでは無いと思ったから、誠実は皆から離れたのだ。
 
「もう一泊していくかな……」

 前から二人にこの旅行で話す事を決めていたので、誠実は少し金を余分に持ってきていた。 一人でゆっくり考えたいと思った事もあり、誠実はもう一泊分の宿代と、近くのビジネスホテルを事前に探していた。

「さて……行くか」

 ベンチに座りながら、海を眺めた後、誠実は荷物を持って立ち上がる。
 その瞬間、誠実のスマホが音を立てて鳴り始めた。

「着信? 相手は……山瀬さん?」

 綺凜からの突然の電話に戸惑う誠実。
 不自然に皆から離れたから、何か感づいたのだろうか?
 などと思いながら、誠実は電話に出る。

「も、もしもし?」

『あ、伊敷君? 山瀬だけど…』

「あぁ、どうかした?」

『今どこに居ますか?』

「えっと……さっきのバス停から少し歩いたところだけど……どうかしたの?」

『あ、実は旅館に忘れ物をしてしまって、それで私もバスに乗らなかったんです。なので近くに居たら、一緒に帰らないかと思って……』

「あ、そ…そうなんだ……でも、俺は用事が……」

「あ! 伊敷く~ん!」

「あ……」

 用事があると行って、合流を避けようと思った誠実だったが、その瞬間に後ろからやってくる綺凜に見つかってしまった。

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