99回告白したけどダメでした

Joker0808

159話

 そんな事を話している間に、料理が運ばれてきた。
 腹が減っているせいもあってか、ラーメンも焼きそばも、いつも以上に美味しそうに見えた。

「なんでだろうな、こんな普通の焼きそばなのに、海とか外だと数段美味しく感じる」

「周りの雰囲気が違うからじゃない?」

「人間って単純だよな、場所を変えただけで、そう思えるんだから……」

「女の子が水着になっただけで、男の子がムラムラしちゃうのと一緒だね」

「そういう事を言うなよ……否定はしないが……」

 誠実と美沙は、話しをしながら食事を進める。
 疲れている時は、しょっぱい物を食べるのが良いとは言うが、少し味が濃すぎるのでは無いかと思う高志。
 しかし、なぜだか、高志はそのしょっぱい位の焼きそばを食べる手が止まらなかった。

「やっぱり海と言ったらラーメンね」

「インスタントだろうけどな」

「それは言わないでよ……焼きそばも美味しそうね……」

「食うか? ほら」

 誠実は、焼きそばの皿を美沙の方に寄せる。
 しかし、美沙は焼きそばに手を付けようとせず「うーん」と悩んだ後に、誠実の方を向いて口を開ける。

「あーんして」

「断る」

「即答!?」

「自分で食え、その代わりラーメンを貰う……」

 そう言って、誠実が美沙のラーメンに箸を持っていくと、美沙がラーメンを自分の元に引き寄せる。

「あーん、してくれないならあげなーい」

「おい…」

 溜息を吐きながら、誠実は思った。
   女子はなんでそんなに食べさせ合うという行為が好きなのだろうかと。
 沙耶香とのデートの時も、相当恥ずかしかった。
 今回もそんな恥ずかしい思いをするのは、誠実は嫌だった。
 その上、ここは海の家だ、人も大勢居る。

「まぁ、いいや……焼きそば食ってればいい訳だ………お前なにやってんだ?」

「あーん、してくれないなら、どっちもあげない」

「片方は俺のなんだが?」

 焼きそばまで、美沙から奪われてしまい、誠実は呆れながら文句を言う。
 しかし、腹が減っているのも事実なので、誠実はなんとかして取り返そうと考える。
 
「よし、あーんしてやろう、口を開けろ」

「おぉ、なんか素直だね、まぁいいや……あ~」

「はいよ」

「ん! ふぁやいよ!」

「口に物を入れたまま話すな~、ラーメンも上手いな」

 誠実は、美沙の口の中に焼きそばを放り込み、美沙が食べている間にラーメンも奪い取った。
 ロマンもへったくれも無い、「あーん」と言うにはほど遠い行為に、美沙は不満を漏らす。

「全然あーんじゃないよ! ただ口の中に放り込んだだけじゃない!」

「食えたんだから文句言うなー」

「む~……」

 不満げに頬を膨らませながら、誠実を見る美沙を他所に、誠実は食事を進める。
 やがて、二人の皿は空になり、満足そうにお腹をさする。

「美味かったな~、満足満足~」

「私は不満だよ……」

「まだ根に持ってるのかよ……」

「女の子にあの仕打ちは酷い」

「はいはい、悪かったよ、じゃあそろそろ行くか?」

「その前にかき氷食べてく!」

「はいはい」

 不満そうに頬を膨らませたまま、美沙は誠実に言う。
 時間もあるし、まぁ良いかと、誠実は美沙に最後まで付き合う事にした。
 美沙はメロン味のかき氷を注文した。
 手間がかからないからか、すぐに商品は到着し、美沙は幸せそうな顔でそれを食べていた。

「うん、おいし~い」

「それだけ練乳乗ってればな…」

 プラス30円で乗せる事が出来る練乳も合わせて頼んでいた美沙。
 よくラーメン食った後に、かき氷なんて食えるなと、誠実が見ていると、美沙が一口分のかき氷が乗ったかき氷を誠実の方に向けてくる。

「はい、あーん」

「いらねーよ、腹一杯だし……」

「物欲しそうな目で見てた癖に~、本当は食べたいんでしょ?」

「さっき食ったからいい」

「私のは練乳乗ってるんだよ?」

 正直誠実は、練乳の乗ったかき氷を少し食べたいと思っていた。
 それに、先ほど沙耶香が言っていた、かき氷のシロップが全部同じ味だと言う話しも気になっていた。
 しかし、こんな人の多い場所で「あーん」なんてしたくない。
 何より、恥ずかしい。

「いいの~? 美味しいよ~?」

「う……」

 少し、練乳の乗ったかき氷も気になる誠実。
 このまま欲望に負けてしまおうかと考えたが、誠実は結局……。

「すいませーん、かき氷のイチゴ味、練乳付きで!」

 追加注文した。





「はぁ~、誠実君は頑固だよぉ~」

「美味かったなぁ…かき氷」

 結局、あの後誠実もかき氷を食べ、店を出た。
 現在は店を出て、戻る途中だった。

「はぁ、腹もいっぱいだし少し休むかなぁ……」

「誠実君、さっきから泳いで無くない?」

「そう言えばそうかも……海にすら入ってないな……」

 美沙に言われて、誠実は気がつく。
 海に来てから、色々な事があって、海に入る暇がなかった。
 
「海来たんだから、海に入らなきゃ損だよ?」

「確かにそうだな……軽く泳いでくるか……」

「いやいや、私と水遊びって選択肢は無いの!?」

「無い」

「また即答!?」

 そんな誠実の態度が気にくわなかったのか、それともただ遊びたかっただけなのか、美沙は誠実を海の方につれて行く。

「ほら、いくよ」

「なんで、俺がお前と海に入らなきゃならねーんだよ! うわっ! 冷てっ!」

「あはは~、それは私が誠実君と遊びたいからだよ~」

「水を掛けるな! この!」

 笑いながら、美沙は誠実に水を掛ける。
 誠実もやられっぱなしは嫌なので、美沙にやり返す。

「きゃっ! 女の子にぶっかけるなんて何するのよ~」

「そういう言い方をすんな! 誤解を受ける!」

 なんだか、バカップル見たいなことをやっているなと感じながら、誠実は美沙に水を掛ける。

「はぁ…疲れた……そろそろ戻って良いか?」

「え~もう?」

「体も冷えたし、少し休むよ」

 誠実は海から上がり、自分たちの陣取った場所に戻って行く。
 美沙も誠実に続いて海から上がる。

「ねぇ……電話で言ってた事って……いつ言ってくれるの?」

 美沙の言葉に、誠実はドキッとして立ち止まった。
 不安そうな表情で美沙は誠実の背中を見ていた。

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