99回告白したけどダメでした

Joker0808

151話

「え~、誠実君は、お姉さんみたいな年上の女性は嫌いなの?」

「いや、今はそう言う事では……」

「散々可愛いだの、自分じゃつり合わないだの言った癖に~」

「な、なんで今その話しを持ち出すんですか!!」

 恵理は小悪魔のような笑みを浮かべながら、誠実に尋ねる。
 ちらっと沙耶香と美沙の方を見ると、なにやら殺気立っていた。
 そんな二人を見て、恵理は海で聞いた話を思い出す。
 誠実が返事を保留中という女の子二人であると。

「へ、へぇ~誠実君、その人にそんな事言ったんだぁ……」

「さ、沙耶香さん……笑顔なのに目が笑ってませんよ?」

「誠実君、痛いのと恥ずかしくて死にたくなるのとどっちが良い?」

「その二択は一体何なんだ、美沙!」

 黒い笑みを浮かべながら、沙耶香と美沙は誠実に言う。
 表情と感情が比例していない二人に、誠実は冷や汗をかきながら、なんとかこの場を収めようと考える。
 しかし、そんな誠実の努力を裏切るように、恵理は言葉を続ける。

「昨日は家にも来たしね、そう考えると、お姉さんは誠実君に狙われてるのかな?」

「そう言う冗談は、今洒落になれないのでやめてください!!」

 恵理の言葉に反応したのは、誠実だけでは無かった。
 美沙と沙耶香も、恵理の言葉に反応し、更に機嫌を悪くする。
 恵理は満足したのか、笑みを浮かべる。

「じゃ、私はこの辺で、課題しなきゃだから」

「え、恵理さん! 爆弾落として逃げないでくださいよ!!」

 他の席に向かい始める恵理に、誠実は文句を言う。
 しかし、そんな誠実の声は届かず、代わりに沙耶香と美沙が誠実の肩を掴んで離さなかった。

「誠実君」

「は、はい……」

「場所変えようか?」

「……殺さないで」

 その後、誠実は二人に連れられカラオケボックスの個室に連れて行かれた。
 一方の恵理はと言うと、誠実達が居なくなったのと同時に、ファミレスの席で、一人先ほどまで自分は一体何をやっていたのかと、一人反省会の、真っ最中だった。

(あぁ~!! 一体私は何をしてるんだあぁぁぁ!! 何人の恋愛事情をかき乱してるのよ! あれはじゃあ、私が誠実君の事……)

「って! 違う!!」

 思わず叫んでしまい、周りから注目してしまった。

「す、すみません……」

 恵理は周囲の他のお客さんに頭を下げ、顔を赤くしながら席に座る。
 そして、ペンを握りながら、再び考える。

(そ、そもそも誠実君があんなことを言うから……)

 昨日の帰り道の事を思い出しながら、恵理は更に顔を赤く染める。

(だから違うでしょ! 誠実君なんて! 誠実君なんて……)

 考えながら、浮かんできたのは、誠実の顔だった。
 楽しげに話しをする表情も、困ったような表情も、最近知った彼の表情だが、恵理の頭から離れなかった。
 今まで、異性に対してこんな感情抱いた事なんて無かった恵理。

(私は何がしたいのよぉ~……)

 その日は全く、課題が進まなかった。



*


「あ、あさから……酷い目にあった……」

 誠実はようやく沙耶香と美沙の誤解を解き、家に帰る途中だった。
 あの後、二人に質問攻めにされながら、誠実は小一時間、二人から文句を言われ続けた。

「そもそも、恵理さんがあんなことを言わなければ……」

 そんなことを考えながら、自宅に帰る誠実だった。
 家に着く頃には、丁度お昼になっており、誠実は帰宅と同時に昼飯の用意を始める。
 夏休みに入ってから、昼に母親が居ないときは、昼飯を自分で作って食べるようにしている誠実。
 美奈穂も今日は居ないようなので、簡単な物で済ませようと、素麺を取り出す。

「折角料理出来ても、材料が無いと結局意味無いよな……」

 素麺をを茹でながら、誠実はそんな事を呟く。
 そんな事をしていると、家のインターホンが鳴った。

「ん? 客か?」

 丁度、素麺が茹で上がったところだったので、誠実は一旦調理をやめ、玄関に向かう。

「はーい、どちらさまで……って、蓬清先輩どうしたんですか?」

 玄関のドアを開けると、そこには栞が私服姿で立っていた。

「お久しぶりです誠実君」

「あぁ、どうもお久しぶりです。今日はどうしたんですか?」

「先日、家族でハワイに行きましたので、そのおみあげを持って来たんです」

 そう言って、栞は誠実に高級感あふれる箱を手渡す。
 誠実は、その箱の高級感に、一体何が入っているのだろうかと驚き、視線を箱に集中させる。

「わ、わざわざすいません……ちなみにこれは?」

「ハワイらしく、マカデミアナッツにしました」

 中身を聞いて、誠実はひとまず安心する。
 あんまり高い物だったら、簡単に受け取れなかったからだ。

「あ、そうなんですか、わざわざすいません。良かったら上がっていきませんか? 俺以外誰も居ないので、たいしたおもてなしは出来ませんが」

「それは願ってもな……いえ、それでは失礼します」

「?」

 誠実はリビングに栞を案内した。
 麦茶を出し、ソファーに対面になように誠実と栞は座った。

「夏休みはどうですか?」

「まぁ、それなりに楽しくやってますよ。バイトも始めましたし」

「そうですか、私は生徒会の仕事で、度々学校に行かなくてはならなくて、大変で……」

「副会長は大変ですね、俺なんて、夏休みだから気が緩み切っちゃって、毎日お昼頃まで寝てます」

「それは行けませんね、ダメですよ、生活リズムを崩してしまっては」

 軽く夏休みに何をしていたかなどを話す、誠実と栞。
 栞のハワイでのお土産話を聞いたりしながら、誠実は栞との久しぶりの会話を楽しんでいた。

「へぇ~、先輩のお父さんが……」

「はい、前より接しやすくなりました、これも誠実君のお父様のおかげです。その節は本当にお世話になりました」

「いやいや、うちの親父はただ話し相手になってただけだから、そんな大した事はしてないですよ」

「でも、お父様は誠実君のお父様を大変気に入っていますよ? ハワイのおみあげもチョコでなんかじゃ無くて、宝石類の方が良いんじゃないかと、最後まで悩まれて……」

 本当に宝石じゃなくて良かったと、誠実は心の底から安心した。
 そんな物を貰ってしまったら、お返しに困ったところだ。

「でも、お母様がお父様を止めたんです。そんな高級品送られても迷惑だろうって」

「あはは、確かにそれは困りますね……」

 栞のお母さんが、常識人で良かったと心の底から誠実は思った。

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