99回告白したけどダメでした

Joker0808

75話

「ぐっ! お、お前!」

 誠実の拳はそのまま駿の頬に直撃する。
 しかし、駿にダメージはほとんどなく、一方で殴った方の誠実は息を荒くしながら、フラフラとその場に立っていた。

「ふん!」

「ぐあっ!!」

 駿は誠実を睨みつけ、誠実を殴り返す。
 誠実は再びその場に倒れてしまった。
 駿は、誠実を見下ろし、そのまま誠実の頭を踏みつける。

「お前みたいな馬鹿見てると、本当にムカついてくるんだよ! 昔の馬鹿な自分を見ているようでなぁ!」

「う…うぅ……」

 誠実は地面に顔をこすりつけながら、それでも再び立ち上がろうとする。
 しかし、誠実にはもうそんな体力残っておらず、立ち上がるはおろか、その場から動くこともできない。

「お前に良いこと教えてやる。今、綺凛がこっちに向かってるからよぉ、お前のぬれぎぬ晴らしてやるよ……ま、でもお前の大好きな綺凛は相当傷つくだろうな~、信じていた相手に裏切られて、利用していた男から助けられる。最高にわくわくする展開だなぁ!」

「ぐふっ……」

 駿は言葉の後に、誠実の腹部を思いっきり蹴り飛ばす。
 誠実がもう動けない事を悟った駿は、健の方を向いて歩みを進める。

「さ~て、そろそろ終わらせようか……あとはそこのイケメン君だけだしな」

 誠実が健の方を見ると、健も息を荒くし、立っているのがやっとの様子だった。
 先ほどまでは無傷だったはずなのに、今の健はボロボロだった。

「はぁ……はぁ……や、やれるもんなら……やってみろ」

 ボロボロに無りながらも、ヤンキーたちに敵意を向ける健を見て、ヤンキーたちは恐怖を感じていた。
 そんな中駿だけが、恐怖を感じず健に近づいていく。

「おいおい、この数相手にまだ勝てると思ってるのか? お前はこの件に一番関係ないだろ? なんでそこまでするのかね~」

「……同じ……馬鹿だからだ……」

「は?」

「お前は……俺たちを舐めすぎてる……お前も自分自身自負するなら、覚えておいた方がいい……行動的な馬鹿ほど……」

「うぉりゃぁぁ!!!」

 健と駿が話をしているスキに、早々に倒れた武司が立ち上がり、駿に向かって思いっきり飛び蹴りをしてきた。
 そして健は、そんな武司の様子を見ながら、口元をにやりと歪ませて言葉を続ける。

「……厄介な奴は居ない」

「がはっ!! な、なんでお前が……」

「あんなパンチ一発で、俺がやられるわけねーんだよ! 通信空手舐めんな!」

 武司は、頭から流れる血をふき取りながら、地面に倒れる駿に向かって言う。
 残っている敵の数は駿を含めて五人。
 健も誠実もボロボロだが、武司はまだ余裕がありそうだった。

「頭がクラクラして少し休んでたけど、もう大丈夫だ! おい、誠実! お前もいつまで寝てんだ! 早く起きて、こいつらをかたずけねーと、山瀬さん来ちまうぞ!」

 武司は駿達に囲まれながらも、決してあきらめたは居なかった。
 それどころか、余裕の笑みさえ見せながら、ヤンキーたちに拳を振るっていた。 
 誠実は武司の言葉に、笑みをこぼし、体を無理やり起こして立ち上がる。

「寝てねーよ馬鹿! ちょっと休憩してたんだっての!」

「なら、そこで倒れてるサル山の大将は任せたぞ! 俺と健はこの髪型しか個性のないモブ共の相手をすっからよ!」

「なんだとおらぁ!!」

「テメェ死にてーのか!」

 武司がヤンキーを刺激し、自分に注意を向ける。
 怒りに身を任せ、ヤンキーたちは武司に一斉に殴り掛かってくる。
 武司は四人を相手にしようと、構える。
 しかし、殴り掛かたヤンキーのうちの二人は早々に倒れてしまった。

「通信空手、カッコつけすぎだ……俺もまだいけるぞ」

「無理すんなっての、はぁはぁ言ってるくせによ。あと通信空手って呼ぶな!」

 健は武司に遅い掛かったヤンキー四人のうち、二人を持っていたペンライトで思いっきり殴ったのだ。

「誠実! 早くしろよ、山瀬さんが来ちてしまうからな、こっちは俺と通信空手が抑える」

「だからやめろっての!!」

 健と武司はそう言い終えると、再びヤンキーたちと対峙する。
 四対二という状況に加え、健の疲労が激しいうえに、武司もそれほど強くない。
 状況の悪さは変わらないが、健も武司も負けるなんて思っていなかった。
 その理由は簡単で二人は同じことを信じて疑わないからだ。
 それは……。

(誠実が山瀬さんの事で負けるわけがない!)

 健も武司も、ずっと誠実の告白を近くで見てきたし、その思いの強さも知っている。
 誠実は綺凛の為に色々な事をしてアピールしてきたことも知っている。
 だからこそ、二人は誠実を信じられた。
 山瀬綺凛の為に戦う伊敷誠実という男は、絶対に負けないという事に……。

「まだ、立ち上がれるのか……なんでだ、なんで勝てないのにそこまで頑張る? なんで綺凛の為にそこまでできる! なんでだ!」

 駿は立ち上がり、誠実と対峙しながら、声を荒げて誠実に言う。
 すると誠実は、拳を構えながら駿を睨み、ゆっくりとその理由を言う。

「好きだからだよ!」

 そう誠実は言った瞬間、素早く駿の懐に潜り込み、駿の顎めがけて拳を振り上げる。

「ぐはっ! この…こいつ!」

「がはっ……ま、まだまだ!!」

 誠実と駿は交互に殴り合った。
 顔面・腹・脇・腕、あらゆるところをに拳をぶつける。
 しかし、お互いに倒れずギリギリのところで踏ん張り、倒れまいとしていた。
 そういうルールなど存在しなかったが、お互いが同じことを思っていた。
 倒れたら、それは敗北と同じだと。

「ふん!」

「ぐ! このぉ!!」

「が! 調子に乗るな! この野郎!!」

「が……あ……ふん!」

 駿に殴られ、一瞬倒れそうになる誠実。
 しかし、誠実は耐えた。
 負けたくない、綺凛の為にも負けたくないと、強く思って居たからだった。
 そして、お互いに限界が近づき、殴り合うペースが落ちてきたころ。
 誠実と駿は肩で息をしながら、互いを睨み言葉を交わす。

「い、いい加減……倒れろ……」

「お、お前…こそ……早く……しないと……山瀬さんが……」

 自分の体力の限界を誠実も駿も感じていた。
 次の一撃で、勝負が決まる。
 二人はそう感じていた。
 
「一つ聞かせろ……なんでお前は……綺凛が好きななんだ……」

「はぁ……それを話すとなると、一時間以上かかる……それでも良いか?」

「いや……もういい……」

 駿も誠実も動かないまま、話を続ける。

「じゃあ……教えろ……なんで俺に喧嘩を吹っ掛けた!」


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