99回告白したけどダメでした

Joker0808

67話

 そういえば電話すると言われていたと、誠実は今更ながらに思い出し、そのまま電話に出る。

「も、もしもし?」

『あ、もしもし? 誠実君ですか?』

 電話の向こう側から、栞の元気で優しい声が聞こえてきた。
 誠実は、チラチラと美奈穂の方を見ながら、栞に応える。

「そ、そうですけど、先輩は何かありましたか? 」

『はい、久しぶりにお父様が嬉しそうに今日の出来事を話すんです。もう子供みたいに……』

「そうですか、それは良かった」

 なんだかんだで、上手くいっているようで良かったと誠実は感じた。

『伊敷君のお父様を気に入ったようで、それは楽しそうに話すんです。本当に、あんなお父さんを見たのは生まれて初めてで……』

「せ、先輩?」

 よほどうれしかったのか、栞は言葉を詰まらせ、泣いている。
 ちゃんと話せたようで、本当に良かったと誠実は感じながら、あとで忠志にもこのことを伝えてやろうと思う。

『ごめんなさい……うれしくてつい』

「いえ、よかったです。先輩も元気が戻ったようで」

『貴方は誰に対しても優しいですね……』

「いや、そんな事無いですよ。普通ですよ」

『いえ、そうやって謙遜なさるところがお優しい証拠です』

 栞に素直に褒められ、誠実は気恥ずかしくなり、顔が熱くなるのを感じる。
 しかし、誠実はハッと思い出す。
 現在誠実の部屋には美奈穂が居る。
 しかも、あんなことがあった後の為、なんだか気まずい。
 誠実は横目で美奈穂を見ると、誠実に背を向けたまま何かをしている。

『伊敷君? 伊敷君?』

「あ、すいません。なんでしたっけ?」

『もしかして、今お忙しかったですか?』

「いえ、そんな事……」

「おにぃ~、そういえばこの巨乳エロ本さ~」

「お! おい馬鹿! 今そんな大声で!」

 誠実が電話しているところに、美奈穂はわざと大声を出し電話の相手にも聞こえるように「エロ本」の部分を強調して言う。
 誠実は慌ててスマホのマイク部分を押さえ、口元に手を人差し指を当て、美奈穂に静かにするように言う。
 しかし、美奈穂は言葉を発するのを止めない。

「それと、さっき私の胸を! 揉みしだいた件について、話が終ってないんですけど~」

「もう帰れよ! お前!!」

 誠実は涙目になりながら、美奈穂に訴える。
 しかし、美奈穂はそんな誠実をあざ笑うかのように、悪い笑みを浮かべて舌を出す。

「あ! せ、せんぱい! これは違くてですね!!」

 誠実は電話の事を思い出し、スマホを耳元に持っていき弁解を始める。

『うふふ、兄妹仲がよろしいんですね……ところで伊敷君?』

「は、はい?」

 前半の方は優しかった栞の声が、後半にはどこか沈んでいた。
 誠実は何か恐怖を感じ、緊張した様子で応える。

『いくら妹さんが可愛くても、胸を揉むのはどうかと思いますわ~』

「い、いや…だからそれは事故で……」

『重要なのは、揉んだかどうかです……揉んだんですか?』

「し、信じて下さい! 違うんです! あれは……」

『揉んだんですか?』

「………はい」

 なぜか急に機嫌が悪くなってしまった栞に、誠実は恐怖を感じ、簡潔に一言そう言う。
 すると数秒の間返答は無く、代わりに何かが割れる物音が聞こえてきた。

「せ、先輩?」

『……そうですか、伊敷君は変態さんですね~』

「いや、だからそれは!」

『もしかしたら、私が今日のお礼をしたいと言ったら、エッチな事を要求されるんでしょうか?』

「し、しませんよ!」

 先ほどの恐怖を感じた口調から一変し、栞は悪戯っぽく笑いながら、誠実にそう言う。
 本心でないとわかっていても、女子にそんなことを言われ、顔を赤く染める誠実。
 しかし、栞はそんな誠実などお構いなしに続ける。

『すみません、残念ながら私はそこまで胸は大きい方では……』

「だからしませんから! からかうのはやめて下さい……」

『うふふ、やはり伊敷君とお話するのは楽しいですね。でも、そろそろ私は入浴の時間なのでこれまでにしましょう』

「からかうのはやめて下さいよ~」

『うふふ、嫌です。だって困った伊敷君は可愛いですから』

「う……ま、またそうやってからかって!」

『いえ、これは本心ですよ。それではまた明日、学校で誠実君』

 そういって栞は電話を切った。
 電話の最後で、栞が自分の事を名前で呼んだことに、誠実は若干驚いたが、別に気にするほどでは無いと思い、スマホを机に置く。
 そして誠実は、もう一つの問題と向き合う。

「……で、お前はなにしてるの?」

「ん? 別になんでも……」

「クローゼットの中を物色しながら言うセリフか!」

 誠実が美奈穂の方に振り替えると、美奈穂は誠実の部屋のクローゼットの中に頭を入れ、中を物色していた。
 まだエロ本を探しているようで、机の下も物色された形跡があった。
 しかし、そんな危機的状況にも関わらず、誠実は落ち着いていた。

「なぁ、もう部屋戻れよ。時期に晩飯だろ?」

「あんたの部屋からエロ本探し出して、全部灰にするまで止めない」

「んなもんもうねーよ」

 誠実の言う通り、誠実の部屋にはもうエロ本は無い、出しっぱなしにしていたエロ本以外を誠実は春の廃品回収で、すべてこっそり処分したのだ。
 高校入学でそっちの方も新規一転しようと、一冊だけを残しその他はすべて捨てた後だった。
 誠実は呆れた様子で美奈穂に言いながら、ベッドの上の誠実唯一のエロ本を回収する。

「ほんとにそれ以外無いの? 毎晩毎晩アンタが自家発電する声が聞こえてくるんだけど?」

「適当な事言うな! 最近はしてねーよ!!」

「あ、やっぱりしてるんだ」

「こ、この野郎~」

 かまをかけられ、誠実は青筋を立てながら、美奈穂を見る。
 そんな中、美奈穂が誠実のクローゼットから、何やら雑誌の詰まった段ボールを発見する。

「なんだ、やっぱりあるんじゃない、一体どんな……」

「あ! そ、それは!!」

 段ボールの中身は、女性向けのファッション雑誌だった。
 美奈穂は最初、カモフラージュか? と思ったが、中を見てすぐにそうではない事に気が付いた。
 そして、なぜ兄が女性向けのファッション雑誌を買って、保存していたかもわかった。

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