99回告白したけどダメでした

Joker0808

伊敷美奈穂の思い

 私、伊敷美奈穂は兄が好きだ。
 異性として、一人の女として、伊敷誠実という男性を好きになった。
 きっかけは今考えると単純だったと思う。
 兄は昔から優しくて、私が泣いているといつも傍に来て笑ってくれた。
 そんな兄を好きだと自覚したのは、小学5年生の頃だ。
 小学校の5年生ともなると、色恋に興味がわいてくる。
 私の周りもそんな感じで、誰が誰の事を好きだとかで盛り上がっていた。
 私は周りよりも容姿が良いと評判らしく、この時期から頻繁に男子からアプローチされるようになった。

「い、伊敷! お、俺お前のことが!」

「ごめん、好きな人居るから」

「早くない!?」

 こんな感じで、放課後に呼び出されては、私はいつも告白を受けていた。
 私が兄を好きだったのは、この時期からだった。
 でも、そのことを誰にも言わなかった。
 兄妹は結婚できない、それを知ったからだった。
 普通は兄弟で恋愛関係にはならない、なってはいけない。
 それを知ったから、私はこの思いを胸にしまい続けていた。

「美奈穂さ~、また告白されたんでしょ?」

「うん、三組の堀君」

「え! あのカッコいいって噂の? なんで断ったの~もったいない」

「私はまだそういうの良いから」

「やっぱり大人だなぁ~美奈穂は……」

 本当はそうじゃない、恋愛にだって興味があるし、実際好きな人もいる。
 でも、それがいけない事だから、私は興味のない風を装っている。
 最近では、兄を思うことが多くなり、話すのも恥ずかしくなり、あまり家でも話をしなくなってしまった。
 友人と別れ、家に着いた私は家のドアを開けて中に入る。

「ただいま」

「あら、お帰り美奈穂。ケーキ食べる? 安かったから買ってきたの」

「うん、食べる。ランドセル置いたら、戻ってくるよ」

「あ、じゃあお兄ちゃん起して来てくれない? どうやら寝てるみたいなのよ」

「わかった」

 私は自分の部屋に戻り、ランドセルを置いた後に、隣の兄の部屋に向かった。
 コンコンと二回ノックをし、中に入る。

「おにぃ?」

 兄はベッドの上で大の字になって寝ていた。
 なんでこんな兄が好きなのだろう、私はそう考えながら兄の元に近づき、兄の顔を見る。

「……アホ面」

 間抜けな表情で、寝息を立てる兄の顔を見ながら、私はつぶやく。
 さて、どう起こしたものだろうか。
 私はとりあえず、声をかけて起こしてみようと思い、兄の耳元で少し大きめの声をで兄を起こす。

「おにぃ、おやつ! さっさと起きる!」

「……うぅ……もう少し……」

 まぁ、これぐらいで起きないのは分かっていた。
 今度は体を揺らしてみよう、そう考えて兄の体に手をかけた瞬間、枕元に写真が置いてあることに気が付いた。
 なんだろう?
 私は写真を手に取り、なんの写真か確かめる。
 そこには、兄と見知らぬ少女がツーショットで写っていた。

「………」

 私はなんだか急にイライラしてきた。
 この女は誰なのだろう、どんな関係なのだろう、そんなことを考えながら、アホ面で寝息を立てる兄の顔を見る。
 そして……。

「えい!」

「はぅ!! な! なんだ! 急におなかにものすごい衝撃が……」

 思いっきり兄のおなかを殴った。
 一気に目を覚ました兄は、おなかを押さえてベッドの上で丸くなっている。

「おにぃ、おやつだって! 早く降りてきてよね!」

「え! 美奈穂? この腹の痛みはお前の仕業か!」

「起きないおにぃが悪い、じゃあ私は先に行くから」

 なんだか胸がモヤモヤした。
 あの子は誰なのだろう、なんでツーショットだったのだろう。
 そんなことを考えながら、私は再び写真を見ながら一階に降りていく。
 そして、冷静になって気が付いた。

「あ……持ってきちゃった」

 兄の部屋からツーショット写真を持って来てしまったことに気が付いた私。
 早く戻さなければ、そう思った私は写真を持って、兄の部屋に戻ろうとする。
 そこで、もう一度写真を見た。
 兄は笑顔でこちらに向かってピースしており、よく見ると隣の女の子は泣いていた。
 場所はしかも教室で、夕焼けが写っていることから、放課後に誰もいなくなった教室で撮られていることがよくわかる。

「……なんか、不思議な写真……」

 兄は満面の笑みなのに、女の子は号泣していて、どんな状況なのかよくわからない。
 写真の裏にも何か書いてあるようで、私は写真を裏返して、なにが書いてあるのかを見る。
 そこにはマジックで一言「ありがとう」と書いてあった。

「……本当に誰よ……この子」

「あぁ、この前転校していった友達だよ」

「っ! お、おにぃ!!」

 階段に座り込んで写真を見ていた私の後ろから、兄が声をかけてきた。
 私は驚き勢いよく兄の方を振り返る。

「無いと思ったら、お前が持ってたのか」

「あ、あとで返そうと思ってたのよ……」

「まぁ、それなら良いけど」

 私は兄に写真を返し、立ち上がる。
 兄は写真を見て寂しそうに笑うと、写真をポケットにしまい、階段を下りていく。

「ほら、おやつ食いに行こうぜ、俺腹減っちまった」

 私は、写真の子が誰なのか気になり、兄に尋ねる。

「おにぃ、その子誰? おにぃが女の子とツーショットなんて珍しいじゃん……」

「だから友達だよ、もう遠くに行っちまったけど……」

 嘘だ。
 私は兄が嘘をついていることに気が付いた。
 少なくとも兄は、友達とは思っていない。
 さみしそうに笑う兄の表情から、兄にとって友達以上の大事なそんざいだった事に気が付いた。
 胸が苦しくなるのと、同時にホッとするような感覚が私の胸にはあった。

「嘘、おにぃその子の事好きだったでしょ」

「………」

 思わず口に出して言うと、兄は何も言わなくなってしまった。
 きっと図星だったのだろう、あまりこういう事を思うのはいけないと思うが、正直私はその子が転校して良かったと思っていた。

「美奈穂……人を好きになるって、難しいな……大人になったら、もっと違うのかな?」

「え……」

「最後の日、何も言えなかったんだ……恥ずかしかったのもあるけど、言っても意味が無いって思ったら、何も言えなかった………告白って、難しいな!」

 そういう兄の瞳には涙が溜まっていた。
 無理やり笑顔を作り、私にそういってきた。
 この時、私は思ってしまった。
 兄はきっと、私をなんとも思っていない、何か恋愛的な感情を持って入れば、こんな表情を兄が他人に見せるわけがない。
 それは妹の私がよく知っている。
 それからだ、私は兄を好きでいるのをやめようと思い始めた。
 兄と極力話をしないようにし、兄への思いを忘れられるように、モデルをやってみたり。
 でも、私は兄への思いを忘れることが出来なかった。
 いつも優しくて、面白くて、本当に大好きだった。
 兄が高校に上がった時だ、また兄に好きな人が出来たらしい。
 近くの高校に、一人の女生徒に何回も告白をしている男子生徒が居る。
 そういう噂が、私の通う中学にも流れてきた。
 私は直ぐに兄だと気が付いた。
 理由は簡単だ、高校に入学してからニヤニヤしていることが増えたし、急に柔道をしてみたり、学年一位の成績をとったり、料理に目覚めたり。
 また私じゃないのか……。
 私は悲しかった、兄にとって私は家族でそれ以上を期待できない、してはいけない。
 気持ちが沈んでいたそんなときだ、私の家に芸能プロダクションのプロデューサーがしつこく勧誘してきた。

「さっさと帰れ! しつこいって言ってんだよ!!」

 兄がその勧誘を怒鳴って追い返してくれた。
 恋心というものは単純だ、困っている時に好きな人から守ってもらっただけで、更にその人を好きになってしまう。
 私はその日の夜、久しぶりに兄と二人きりで食事をし、決意した。
 どんな結果になっても良い、やるだけやってみよう。
 何もやらずに諦める方が後悔する。
 その日から、私は兄の心を掴むために動き出した。
 そして現在……。

「なぁ……美奈穂」

「何? あ、テレビ変えてよ、ドラマみたいの」

「いいけど、そろそろどいてくれない? 結構重た……」

「なんか言った?」

「いえ……何も……」

 私は兄の膝を枕にして、ソファーに寝ころびながらスマホを弄っていた。
 食事を終え、お風呂から上がった時に、兄がリビングのソファーでテレビを見ていたため、私は兄の隣に行き横になったのだ。

「あの……俺そろそろ部屋に戻りたいんだけど……」

「ドラマ終わるまで付き合ってよ、あんたの膝枕が丁度いい位置にあるんだから」

「んなもん他で代用しろよ!」

「まぁまぁ、良いじゃない」

「よくねーよ! お前も年頃なんだから考えろ!!」

「何おにぃ? 風呂上がりの妹に興奮しちゃうの~?」

「あほか! んなわけねーっての…って! いてぇな馬鹿! なんでつねるんだよ!」

「別に、ほら早くチャンネル変えて」

「なんなんだよ……全く」

 私はあきらめない。
 ライバルも多いし、私には大きなハンデもある。
 いつかは兄が誰かに取られてしまうかもしれない、でも私は何もしないで兄を渡すのは嫌なのだ。
 私は普通の妹ではない、兄を本気で好きな妹などいないだろう。
 でも、好きなのだから仕方ないのだ。
 私は今日も兄にアプローチを続ける。

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