99回告白したけどダメでした

Joker0808

49話

 どうなんだろう、誠実は考えれば考えるほどわからなくなっていった。
 綺凛を助けたところで、自分には何のメリットも無い。
 でも、何とかしたいと思っている自分が誠実の中には確かにいる。
 
『別に意地悪言ってる訳じゃないけどさ、そこのところどうなのかなって、そう思っただけ、別に綺凛に言うのは良いよ。私も友達の事だし』

「あぁ、そうか……ありがとう」

 美沙は友人だから、そういう理由で綺凛に注意を呼び掛けようとしている。
 誠実はそれだけいうと、電話を切り、ベッドの上に座り、体から力を抜くようにゆっくり倒れていく。

「……なんでだろう」

 誠実はそうつぶやきながら、再び考える。





 翌日の朝は快晴だった。
 誠実は美奈穂との約束があるので、休日にも関わらず、朝早くにベッドから起き上がり、身支度を始めていた。

「こんな時に、俺は何をしてるんだか……」

 昨日の事があった後で、妹とショッピングなど、実に平和であり、昨日の事がまるで嘘の様で、誠実は違和感を覚える。

「あぁ~眠い……」

 大きく伸びをしながら、誠実はそんな事をつぶやく。
 着替えを終え、一階のリビングに向かうと、そこには既に着替えを済ませ、朝食を食べる美奈穂の姿があった。

「ん、おはよ」

「おはようさん、ただの買い物の癖に、随分気合入って無いか?」

「そんな事ないわよ、おにぃの気のせい」

 誠実から見た美奈穂は、なんだか普段と違って可愛らしく思えた。
 大人っぽい感じがするのだが、それでも服装は年相応だった。
 薄っすら化粧をしているからだろうか?
 などと誠実は考えるが、それだけでは無い感じもしていた。

「あんたら2人で出かけるなんて、珍しいわね」

 母の言葉に、誠実はため息を吐きながら応える。

「無理矢理駆り出せれたんだよ」

「そうよ、おにぃはただの荷物持ち」

 誠実の言葉に続いて、美奈穂が母に言う。
 そんな2人を見て、母は短く「そう」と答えてそのまま家事に戻る。

「何時に出るよ?」

「今が9時半で良いわよ、あんまり早いと電車も混むし」

「ちなみに、今日は何軒回るんだ?」

「目についたところ全部」

「鬼か……もう少し計画を立ててだな……」

「計画なんて立てても意味無いわよ。どうせ目移りして、他の店に行っちゃうんだから」

 今日の買い物は、精神的にも肉体的にも疲れそうだと、誠実は考えながら、トーストをかじる。
 なんだか行く前から気が滅入ってしまった誠実。
 時間になり、美奈穂と2人で家を出る。
 考えてみれば、こうして一日2人で出かけるのは初めてで、誠実はなんだか違和感を覚える。

「なんか変な感じだな、お前と買い物って言うのも」

「そう? 私は別に何とも、それはそうと、おにぃも一応ちゃんとした格好は出来るのね……」

「お前は俺を引きこもりか、ニートだと思ってるのか?」

 誠実の服装をじろじろと見る美奈穂。
 一通り見終わり、小声で「良し」とつぶやくと、元の位置に戻って行く。

「何が良しだよ……」

「あんまりダサいと私が全身コーディネートし直さないといけないでしょ?」

「何その使命感……自分の服くらい自分で選ぶっての、今日はお前の服を買いに行くんだろ?」

「まぁ、そうだけど、おにぃも見たいお店とかあったら言ってよ」

「俺は良いよ、どうせ金もあんまり無いし」

 誠実はため息交じりに美奈穂にそう言う。
 全くの無一文と言う訳ではないが、財布の中身が少ないと気分まで萎えてしまう。
 そんな誠実に美奈穂はニヤニヤしながら言う。

「中学生の私よりお金ないなんて、おにぃは一生彼女なんて出来ないかもね~」

「うっせ! 今はそれを言うな、大体お前はモデルやってるから、そんなに金持ってんだろ? 俺はバイトすらしてないんだぜ……」

「ならバイトすれば? 学校で禁止されてる訳じゃないでしょ?」

 美奈穂にそう言われ、誠実は考える。
 確かにバイトは良いかもしれない、金も入るし、社会勉強にもなる。
 学校外で友人が出来るかもしれないし、暇な時間に働いて金になるのはうれしい。

「なるほどな……考えてみるか、どうせ毎日暇だし」

「本当に、暇なんだ……」

「おい、妹よ。あんまり兄にそんな冷たい視線を向けるな、傷つく」

 そんな事を話しているうちに、誠実達は駅に到着した。
 改札を抜け、電車に乗って2人は目的地に向かう。
 数分ほど電車で揺られ、誠実達は大きなビルやショッピングモールなどが立ち並ぶ街に到着した。

「人多いなぁ~、休日の朝から何をやってんだか……」

「おにぃが引きこもりすぎなのよ、まずはあの店に行くわよ」

「あ! おい待てよ!」

 美奈穂はさっそく入る店を決めると、吸い込まれるようにそのお店に入って行く。
 誠実は離れないよう、美奈穂の後ろについて行く。
 最初に入ったのは、女性向けの洋服専門店だった。
 いきなりの女性ばかりのお店に、誠実は冷や汗をかく。

「お、おれ…外で待ってても良いか?」

「なんのために来たのよ。ほら、行くわよ」

「ばか! 襟を引っ張るな!」

 2人そろって店に入ると、女性の店員が笑顔で接客を始める。

「いらっしゃいませ~、本日は何かお探しでしょうか?」

「そうですね……」

 美奈穂が店員と話始め、誠実はその後ろでジッとその様子を見ていた。
 早く終わってくれないかと思いながら、ただひたすら待つ誠実。

「これなんてどうですか?」

「う~ん、私には大人っぽすぎると思うな~」

「そんな事ありませんよ~、彼氏さんもそう思いますよね?」

「え?」

 急に店員に話を振られる誠実。
 彼氏と勘違いされ、誠実は「まぁ、無理もないか」などと思いつつ、特に弁解もせずに短く応える。

「あぁ、良いんじゃないっすかね?」

「もぉ~駄目ですよ? 可愛い彼女さんなんですから、ちゃんと見てあげなくちゃ!」

 フレンドリーな感じの店員にそう言われ、誠実は少し面倒になってしまった。
 彼氏では無く、兄だと言ってしまった方が楽かもしれない、誠実はそう思い弁解しようとするが、先に美奈穂が話出す。

「そうよ、なんのために連れて来たんだか」

 美奈穂が兄弟だと言うのかと思った誠実だったが、そうではなく自分が責められてしまった。
 このままこの彼氏設定貫くのか?
 などと考えながら、とりあえず感想を言う。

「んな事言われてもな……何着ても似合うやつに、どれが一番良いかなんてわかんねーよ」

 誠実がそう言うと、美奈穂は頬を赤らめる。
 そんな誠実と美奈穂を見て、フレンドリーな対応の店員さんは、ニヤニヤしながら楽しそうに次の服を選び始める。

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