99回告白したけどダメでした

Joker0808

37話

「それで、誠実と山瀬さんはまだ戻ってこないのか?」

「そうだな、そろそろ戻ってきても、よさなもんだが……」

 話を聞いているうちに、いつの間にかそれなりに時間がたってしまった。
 誠実と綺凛がいつまでたっても戻ってこないので、3人は誠実と綺凛が消えていった路地の方に視線を向ける。

「もう10分くらいか?」

「なぁ、健よ。誠実の奴どんな顔で出てくんだろうな」

「あの雰囲気からして、誠実の喜ぶことじゃないのは確かだ。からかうのはやめよう、あいつは今まで真剣だったんだ、今回は流石にやりすぎた……」

「そうだな、あいつが今日、いつも通りだったんで、忘れてたが……昨日で一応、諦めるって決めてたんだよな……無理してたんだろうな」

 面白半分で誠実を尾行し、振られた相手まで連れてきてしまったことを反省する、健と武司。
 明日、ボーリングにでも誘って、励ましてやろう。
 そんな事を話していると、誠実が速足で戻って来た。

「せ、誠実……大丈夫か?」

 恐る恐る尋ねる武司。
 しかし、心配とは裏腹に、誠実は満面の笑みで3人に早口で言った。

「おう! 俺は大丈夫だぜ! じゃ! 俺、戻るからよ! 美奈穂から電話なりまくりでさ~、待たせるのもあれだからよ! じゃあ、お前らも早く帰れよ!」

「あ、おい! 誠実!!」

 誠実はそう言い終えると、今度はファミレスの方に足早に戻って行った。
 残された3人は一体何があったのか、不思議に思いながら、誠実の背なかを見送った。
 誠実がファミレスに戻って直ぐ、綺凛も戻って来た。

「……伊敷君は?」

「行っちゃったわ……綺凛」

「何?」

 戻って来た綺凛の顔は沈んでいた。
 悲し気な表情で、今にも泣きそうだった。
 そんな綺凛に、美沙は真剣な顔で話始める。

「綺凛がなんで伊敷君の告白に付き合い続けたのかわ知らない……でも、コレだけは言っておくね」

「どうかしたの?」

 美沙は、どこか覚悟を決めたような様子で、綺凛に話始める。

「私、伊敷君の事、入学した時から好きだったの」

「え……」

 綺凛はもちろん驚いた。
 美沙と綺凛は高校に入学して仲良くなり、まだあまり互いを良く知らない。
 綺凛と美沙はどこか気が合い、今まで仲良くしていた。
 しかし、美沙が誠実を好きだという事を話すのは始めてだった。

「入学式からずっと……それで、やっとチャンスがやって来た。綺凛は何とも思ってないんだよね? 伊敷君の事」

「……うん」

「私は綺凛が羨ましかった。伊敷君に毎日、好意を持って接してもらえて……」

 女の戦いが始まったと思い、武司と健は隅の方で小さくまとまっていた。
 美沙は真剣だった。
 対する綺凛は戸惑っていた。

「……なんで、今それを?」

「うん、やっと来たチャンスだから。私が伊敷君もらってもいいよね?」

「……えぇ……私は彼をなんとも思ってないから」

 そんな女の会話の脇で、健と武司はコソコソ話をする。

「決めるのは誠実じゃね?」

「いや、笹原ならわからん……意外と無理やり」

「でもよぉ~、他の3人もスペック高いぜ? それに比べて笹原はよぉ~」

「あぁ、普通だな」

 コソコソ話をしていた健と武司だったが、美沙に聞こえてしまったらしく、美沙が笑顔で2人の方を見て言う。

「そこの2人~、黙らないと、2人はホモだって女子生徒中に流すわよ~」

「「すいませんでした!! 黙ります!」」

 恐ろしいことを言われ、健と武司は黙って女の戦いを見守ることにした。

「綺凛がなんであそこまで付き合うのか、私は分からなかった……でもね、何回かの告白の時に、気がついたのよ。綺凛はどこか、伊敷君を利用してるんだなって……」

 美沙の表情は、真剣なままだった。
 一方の綺凛も沈んだ表情のままだった。
 美沙は綺凛を責めるのではなく、ただ単に自分の気持ちを話していた。

「まぁ、今日のあの言い方は少し酷かったかもしれないけど……これですっきり出来た?」

「えぇ……自分がどれだけ酷い人間だったか、よくわかったわ……」

「……そっか……じゃあ、次は無いように気を付けないとね……」

 綺凛を慰めるように、美沙はそういう。
 いつかは、こういう時が来る、それを綺凛も美沙も知っていた。
 しかし、きっかけが無かった。
 そんな時に、この状況がやってきた。
 美沙は良い機会だと思った、自分が誠実を好きだと打ち明けるのにも、綺凛が本当の事を打ち明けるのにも……。

「綺凛、これから私頑張るから……」

「えぇ……応援するわ……私が言えた立場じゃないけど……」

 お互いに、今までの隠し事を打ち明ける事が出来、少女2人はどこかスッキリした表情で言葉を交わす。
 綺凛は誠実に対して、申し訳ない気持ちで一杯だった。
 しかし、今まで隠していた事を彼に打ち明ける事ができ、体が軽くなるのを感じた。
 これで本当に誠実とは終わりだ、そう思うと綺凛はどこかで寂しさを感じた。

「あのぉ~、俺らも一応当事者なんで……」

「説明をしてほしい」

 先ほどまで、少し離れたところで小さくまとまっていた武司と健が、美里と綺凛に尋ねる。

「あ、ごめんごめん! そうだよね、2人も気になるよね! 綺凛、どうする?」

「良いわ、伊敷君の友達なら、知りたいと思うのも同然だもん……私がなんで彼の99回の告白を受け続けたか、教えるわ」

 健と武司は、ついに真相が知れると思うと、なんだかドキドキした。
 毎回毎回、誠実の告白を受けては、丁寧に断る。
 そんな彼女が、健と武司は不思議だった。
 30回か辺りからは「きっと優しい人なんだろう」と、2人は勝手に決めつけ、それ以降あまり気にしていなかったが、こうして改めて言われると、告った方もそうだが、告られた方も良く付き合ったものだと再確認する。

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