99回告白したけどダメでした

Joker0808

24話




 誠実は一日、勉強に集中出来なかった。
 沙耶香の一見の事ももちろん原因の一つだが、問題はその他にもあった。
 それは、男子生徒からの下心丸見えの絡みにあった。

「誠実く~ん、よかったら今度家に遊びに行ってもいいかな?」

「誠実、これ映画のタダ券なんだが、よかったら妹さんに渡してくれないか?」

「誠実、いやお兄様、美奈穂ちゃんって結構有名な学生モデルなんだな、今度結婚を前提に会わせてくれ!」

 授業の間の休み時間や昼休みになると、こうして美奈穂目的に誠実に近づいてくる男子生徒が後を絶たなかった。
 本当なら誠実は、放課後の事を考えるため、今日は極力一人でいたかったのだが、周りがそれを許してくれなかった。
 そして、現在はようやく放課後、誠実は男子生徒たちの追っ手から逃げ切り、現在は約束の4階の空き教室に向かっていた。

「はぁ……なんか今日は疲れた……」

 追いかけられすぎて体力的にも、精神的にも疲れていた誠実。
 結局放課後の事にあまり意識を集中できないまま、誠実は放課後を向かえてしまい、若干緊張していた。
 沙耶香とは朝以外では話をしていない、何を話して良いのかわからないのと同時に、今の状況では気まずくて、前の様には接することが誠実は出来なかった。

「まさか……今日ここで別な女子に会うことになるなんてな……」

 昨日、綺凛を呼び出したはずの四階空き教室に、今度は誠実が別な女子に呼び出されている。
 なんだか不思議なものだと考えながら、誠実は教室前で、ウロウロする。

「もう来てるのかな……いや、でもまだホームルーム終わってすぐだし……」

 なかなか中に入る勇気が出ず、誠実は教室前を行ったり来たりを続ける。
 四階には誠実以外の人間はみあたらず、誠実は廊下に座って考えこむ。

「はぁ……なんでこんなに気が重いんだ……」

 前までは、沙耶香を仲の良い友人として接していた誠実だったが、昨日の事で誠実の沙耶香に対する気持ちは、少しずつ変化し始めた。

「確かに、よく見ると可愛いんだよなぁ……」

 健と武司に昨日言われた通り、よくよく考えると誠実の好みのタイプにピッタリ当てはまる沙耶香。
 言われて初めて気が付いた誠実は、今日の授業中はチラチラ沙耶香を見ていた。
 そして気が付いた。
 確かに自分の好みの女生徒だという事に、しかし誠実は分からなかった。

「なんでだろ………なんかモヤモヤすんだよな……」

 誠実は胸を押さえて考える。
 確かに好みのタイプなのだが、何かが自分の心を邪魔して、恋愛的な感情を沙耶香に抱くことが出来ない。
 今の可愛いだって、テレビのアイドルを見て可愛いという感じと一緒だった。

「あ……そっか、俺……まだ山瀬さんの事……」

 昨日諦めたはずの女子生徒の名前をつぶやき、胸のモヤモヤが何なのか分かった誠実。

「……早く踏ん切りつけないと……山瀬さんにも部長にも悪いな……」

 誠実は決意を固めた。
 新しい恋に生きる。
 その事を胸に、誠実は空き教室のドアを開ける。

「部長……」

「あ、伊敷君……」

 今日室の窓際の席に沙耶香は座っていた。
 日に照らされた沙耶香のかわいらしい表情に、誠実は見とれながら、沙耶香の近くまで歩みを進める。




 誠実が空き教室に入った瞬間。
 階段の踊り場の影から、数名の女生徒が四階の廊下に姿を現した。

「どうやら、伊敷君も教室に入ったようね…」

「廊下でなんか悩んでたけど、部長大丈夫かしら?」

「私は伊敷君の貞操の方が心配よ……今の部長は、伊敷君に好かれるために必死になりすぎてる。何をするか……」

「ナニをするのかな?」

「ちょっとあんた黙ってなさい」

 廊下に姿を現したのは、料理部の面々であった。
 沙耶香が暴走しないように、部員全員で沙耶香の告白を見守りに来たのだ。

「私らが居なかったら、この階ってあの二人だけよね?」

「つまり、何が起こっても誰にも見られない……」

「そういえば、放課後のこの階で、変な声を聴いたって、私聞いたことある……」

 沙耶香の一番の友人である志保は、複雑な気持ちで空き教室を見つめていた。
 沙耶香と出会ったのは中学時代で、気が合ったのと、彼女の優しさが気に入り、何回か一緒に出掛けたりするようになり、徐々に仲良くなっていった。
 今では親友と言っても良いくらいに仲が良くなり、そんな親友が初めて好きになった男子が、どんな男性か、志保は気になった。

「ねぇ、あんたたちって、伊敷君ってどう思う?」

「え? いきなりどうしたの?」

「いや、なんか私じゃ良くわかんないから……顔は普通よりちょい良いくらいよね?」

「まぁ、顔は仕方ないですよ」

「顔はねぇ……」

「あんたらって、結構辛辣ね……」

 志保はそんな事を聞きたいのではなかった。
 誠実が男性として、どうなのか、人としてどうなのかを尋ねたかったのだ。

「そうじゃなくて……人としてよ!」

「人として? 変!」

「明るいストーカー」

「優しいストーカー」

「……まぁ、そうよね」

 誠実の99回の告白を知らない者はこの学校ではあまり居ない。
 彼の事を聞けば、この回答が返ってくることは容易に想像できた。
 親友が好きになった男子だ、どんな奴か気になるのは当たり前だ。
 その男子が、周りからストーカー認定されているのであれば、親友として止めるべきなのかと悩んだ事もあった。
 しかし……。

「でも、話すと面白くて良い人なのよね、ちょっとしつこいけど、なんていうか、本当に好きっていうのが伝わってくるし、好きな相手の事を結構考えてるし」

「今はもう諦めたんでしょ? じゃあストーカー卒業だし、普通に良い人じゃない?」

「女には尽くすタイプよね、なんでも言う事聞いて、浮気とかしなさそうだけど……」

 志保も部員の意見と同意見だった。
 誠実が料理部に仮入部しているとき、料理部の皆が彼の人の好さと彼が悪い人ではない事に気が付いていた。
 ただ一生懸命で、一途な彼に沙耶香が惹かれるのにも納得がいっていた。

「そうよね、悪い人じゃないものね……」

「志保、私らは見守りましょう。あの子なら大丈夫」

「そうだよ、私たちの部長だよ? 大丈夫大丈夫!」

「そうよね……じゃあ、見守りに行き……」

 志保が言いかけた瞬間、空き教室方で、何かが倒れる大きな音がした。
 何かあったのかと思い、料理部の面々は急いで空き教室に向かい、ドアの隙間から中の様子を伺う。
 

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