99回告白したけどダメでした

Joker0808

21話

「あ、やっと見つけました!」

「「「え??」」」

 言い合いをする三馬鹿の元に、男子生徒からの視線を集めて近づいてくる美少女。
 その美少女を見た瞬間、誠実は思い出す。
 長いロングヘア―の黒髪に、どこか育ちのよさそうな口調、そして何よりも忘れるはずがない、その可愛い容姿。

「あ、昨日の……」

 注目を集めていた美少女は、昨日誠実が助けた少女だった。
 同じ高校だと、言っていた気がしていた誠実だったが、まさかこんな有名人だとは思わなかった。

「昨日はありがとうございました。おかげで助かりました」

「い、いえいえ。それよりもあの後は無事に帰れましたか?」

「はい、迎えの者を呼びまして車で帰宅いたしました」

「そうだったんですか、良かった。そんな事より、この階に何か用ですか?」

 誠実はその時、栞が自分に会いにわざわざ一年生の教室の階に来るとは思っていなかった。
 きっと何か用事があってきたところに、偶然自分が居たのだと思い込んでいた。
 しかし、誠実の考えは全く当たっていなかった。

「はい、貴方に用があってきました」

「? 俺にですか??」

 すっかり空気になってしまった健と武司は、廊下の脇でひそひそと話し出す。
 誠実は、栞との会話に集中していて気が付いていなかったが、二人の視線はなぜ誠実の背後に向いていた。

「一体なんの用ですか?」

「昨日のお礼がしたくて……良ければ放課後、私の家に来ませんか?」

「え?」

「「「「な、なんだってぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」

 聞き返す誠実の言葉をかき消すように、その場に居た生徒(男子)が驚きの声を上げる。
 誠実は何事かと思い、周りを見ると、一年男子が誠実に怒りの視線を向けていることに気が付いた。

「くっそぉ~、誠実は山瀬さんに振られまくってる、俺らの仲間だと思ったのにぃ~」

「なんだ助けたお礼って! 羨ましいんだよ!」

「フフフフフ、呪いの人形を取ってこないと……」

 背中に寒気を感じながら、誠実はなぜみんながそんなに怒っているかを考える。
 しかし、答えは分からず、助けを求めるかのように健と武司の方を見る誠実だったが、当の二人は口をポカンと開けて、誠実の背後を見ていた。
 誠実は「何馬鹿な顔してるんだか……」と思い、二人に助けを求めるのをやめ、栞のお誘いの返事をすることにした。

「お礼って言われても、俺はそんな大したことしてないし、気を使わなくて大丈夫ですよ」

「いえ、貴方にとっては大したことはなくとも、私にとっては重要な事です。それに、父からも是非お礼が言いたいと……」

「「「「親公認だとぉ!!!!」」」」

(相変わらず、この学校の生徒は元気だなぁ……)

 最早、周りなど気にしなくなり始めた誠実。
 栞のお誘いに対する誠実の答えは変わらない、何せ大事な先約があるのだ。

「先輩すいません、今日は放課後は先約があるんです」

「まぁ、そうでしたの? でしたら、その用事が終わってからでも、こちらは構いませんよ?」

「いえ、大事な用事なんです。ちゃんと話をしなきゃいけないことで……ちゃんと考えなきゃいけないから……」

 誠実は話をしながら、沙耶香の事を考えていた。
 大事な友達だと思っていた彼女からの昨日の発言。
 それが一体何を意味するのか、誠実は確かめると同時に、これからの事をしっかり話さなければと思っていた。

「そうでしたか……無理強いさせてしまってごめんなさい、ではまた別日に改めましょう」

「ま、まぁ…それなら……でも本当にお礼なんて……」

「じゃあ、こうしましょう、私の家に遊びに来ませんか? 伊敷誠実君」

 笑顔をで話す栞のあまりの可憐さに、誠実は一瞬見惚れてしまった。
 栞が人気のある理由もわかる気がすると思いながら、誠実は笑顔で返答する。

「じゃあ、行きます。遊びに誘われたなら仕方ないですね」

「それでは、連絡先を交換しましょう。日にちなどが決まったら連絡します」

「いいですよ。じゃあさっそく……」

 誠実と栞はスマホを取り出し、連絡先の交換を始める。
 連絡先に女子の名前が増えるだけで、誠実はなんだか嬉しかった。
 周りの男子生徒は、そんな誠実を見ながら、何やらコソコソ話をしたり、呪いの言葉をささやき始める。

「それではまた、私は戻ります」

「はい、じゃあまた連絡します」

 そういって栞はその場を去り、自分の教室に戻って行った。
 誠実は、まさか二年の先輩、しかも女子の先輩と仲良くなれるなんて思ってもおらず、少し顔を緩ませながら、スマホの連絡先の画面を見ていた。

「おい、誠実! なんだよ、お前って蓬清先輩と知り合いだったのか?」

「ん? 知り合いって言うか、昨日助けたって言うか? 綺麗だよなぁ~、その上律義にお礼をしたいだなんて」

「なんでもいいが誠実、お前は後ろから視線を感じなかったか?」

「視線? 別に? なんで??」

 誠実の言葉に、健と武司は顔を見合わせため息を吐く。
 
「はぁ~、前橋も大変だわ……」

「ん? なんでそこで部長の名前が出てくるんだ?」

「これはお前にはきっと言えねーよ。それより、昨日何があったかちゃんと……」

 武司が言いかけたところで、武司の頭を誰かが教科書で軽く叩いた。
 健と誠実が、叩いた本人を確認すると、それは誠実たちの担任の小川智晴(おがわともはる)だった。

「こらこら、三馬鹿。チャイムとっくに鳴ってんぞ? 早く教室入れ」

「おがちゃん、いきなり叩くなよ~」

「その呼び方やめろ、なんかどっかのお笑い芸人を連想させる」

「てか、もうそんな時間か…」

「さっさと入るか」

 三人と小川は教室の中に入っていく。
 誠実と健、武司の三人は自分の席に座り、小川は教卓の前に立ってホームルームを始めた。

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