シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
51話 「人形にできること」
ドタドタドタ。
私は屋敷の廊下を急いで駆ける。
「ヤバい、早くここから逃げねぇと」
廊下の一室であったおぞましい出来事を思い出す。
私が部屋を開けて見たとき姉の心春が他の姉妹の体をバラバラに解体していた、それは親父の命令でしているらしい。最後に心春は私を絞め殺そうとした。
「急いでこのことを知らせないと」
廊下の左右別れているところまで来た。
「ちょっと待て、急いで知らせると言っても誰から知らせればいいんだ?」
知らせる相手は大我か繭のどちらか二人だ。
廊下の右側に行けば繭の居る部屋へ行ける、そして特に根拠はないが左側は大我が居るお風呂に続いていると思った。
「私はどちらを選べばいいんだ?」
知らせに行っている間にどちらか片方が心春の手によって犠牲になるかも知れない。
心春は大我のことが好きだから手をを出さないと一瞬思ったが自分の妹を平気でバラバラにする精神の持ち主なのできっと大我も無事にすまないと考える。
そして一方の繭だが、こちらは確実に只ではすまない。理由として非常に嫌なことだが大我は私という存在がいるのに繭に気のある素振りをする。そして繭もまんざらでもない態度を取る。
それがきっと心春の嫉妬心を煽り殺意が沸いて殺されるかもしれない。その際一緒にいる妹の夢見鳥も犠牲になるだろう。
私は大我を愛していているので真っ先に大我の方に向かって歩き出した。
ズキっ。
しかし歩いた途端胸に痛みを感じすぐに立ち止まる。
本当にそれでいいのか?
私の中で疑問が沸く。
繭は私の恋仇だが何故か簡単に無視することができない。さらに妹の夢見鳥も最初はうっとおしく感じていたが今はたった一人の妹なので大切にしたいと思っている。
早く決めねぇとどちらも犠牲になる……大我も大切だ、だけど繭は過去に海で私のことを守ろうとしてくれた、そんな奴を見捨てていいのか? 夢見鳥はどうするんだ!?
「はぁはぁ」
呼吸が荒くなってくる。
「はぁはぁ……よし」
決心して一歩を踏み出した。
私は左の大我を選択した、その際自分が最低な人形になったと思って再び胸がズキっと痛んだ。
繭と夢見鳥すまない! 私はお前達を見捨てて大我の所に行く……私は大我に無事でいてもらいたいんだ!
向かっている途中で嫌な情景が浮かぶ。
───
「うっ、あっあ、心春ざん……どうじで? く、くるじい」
ギチギチ。
「わたくし大我様のことが好きなんですぅ、けど大我様は繭様が好きみたいで……だから邪魔なんで○します」
心春は上になって繭の首を絞める。繭は心春の手を掴んで抵抗するがその力は弱く最後に繭の手は床にポトリと落ちた。
「うわぁぁぁぁん繭が死んじゃったぁ! 心春お姉ちゃんのバカぁ! どうしてなのぉ!?」
それを見て夢見鳥が心春の背中をポカポカ殴る。
心春は全く痛がる素振りも見せずに立ち上がって振り替えると同時に夢見鳥の体を突き飛ばす。
「あう……ううぅ繭ぅ」
夢見鳥はうつぶせに倒れる。
「全くさっきからうるさい妹ですねぇ、そんな悪い子はバラバラに解体しちゃいますわぁ」
「え、そんな嘘でしょ? や、やめて心春お姉ちゃん!」
心春は無言で近づくと夢見鳥の腕をがっしりと掴む。
「いや、痛いやめて、助けて胡蝶お姉ちゃああああん! いやああああ!!」
───
夢見鳥の悲鳴で私の思い描く情景は終了した。
「くっ、すまない」
私は逃げるように進む速さを上げた。
……。
「こっちが風呂だ、間違いない」
私は進むうちに屋敷の中の部屋の配置が分かるようになりどこの位置に風呂があるか把握した。
なんでだ? 私は始めてこの屋敷に来たのにどこに何があるのか分かる、まるで以前ここに住んでたみたいだ……今は考えるのをやめよう。
「ここだ!」
私は風呂を発見すると急いで扉を開けた。すると湯気が出てきたがすぐに消えてなくなり裸の大我とその両隣に裸の姉妹がいるのが見えた。
姉妹はボタンとバラだと瞬時に理解する。何故なら大我にちょっかいを出そうとするのはこの二人しかいないからだ。
怒りが頂点に達しすぐさま大我の正面に詰め込むと同時に顔面に私の本気の拳の突きを叩きこんだ。
バシャーン。
大我は殴った衝撃で湯船に倒れたので私も湯船に入り大我を掴んで無理やり引き上げる。
「おい貴様、貴様はいったいなんなんだ? この大変な時にまた浮気して女と風呂に入るなんて、しかも相手はよりによって私の大嫌いなボタンとバラだと? 貴様死にたいのか? あぁ!?」
大我は気絶していたので私の言葉に反応しなかった。
「胡蝶、何で分かったの?」
ボタンが私に質問する。
「あ、おいボタンてめぇ! って今はそれどころじゃねえ……ぐぬぬぬ、大我の野郎超重い」
私は大我の背中から腕を回してつかみ持ち上げる。
「おい、バラちょうどお前の所に大我の足があるから持ってくれ」
「え、え? でもこの位置で私が足を持ち上げたら目の前に大我様の大事な部分が見えて……」
「な!? 大我のを見んじゃねえよ! っいいから急いで持て」
「胡蝶、バラの方が姉なんだから命令しないでよ!」
バラは文句を言いつつも大我の足を持ち上げてくれた。
「あなた何をそんなに急いでるの?」
バラは偉そうに腕を組んでいる。
「ふん、てめぇら姉妹は気に食わねぇが忠告してやる、今すぐこの屋敷を逃げろ」
「どういうことかしら?」
「信じられないかもしれないが心春が狂った」
「えっ?」
「心春が他の姉貴達をバラバラに解体していた、しかも親父の命令でだ、だからここにいたら私たちも解体されて殺される、だから逃げるんだ」
「……」
ボタンは私の忠告を聞いたのに黙って動こうとしなかった。
「ぷっ……くくく、あーはははははは!」
「おいボタン緊急事態なのに何で笑ってんだ?」
ボタンは口とお腹を押さえて笑う。
「あはは、胡蝶あなた最高におもしろいわ!」
「……何が可笑しい」
「くくく、いい胡蝶よく聞きなさい? 心春お姉様が他のお姉様をバラバラにした理由は私達の体を整備するためよ」
「はっ?」
───
私は大我をボタンとバラの力を借りて部屋まで運び布団に寝かせた。
一応下着を履かせてさらにタオルケットも掛けたので風をひくことはないと思う。
……。
「心春、本当にすまない」
大我を寝かせた後は心春の部屋へ行き、勘違いしたことを土下座して謝る。
「ううう、胡蝶ちゃんはわたくしのことをデブなサイコパス女だと思ってたんですね、悲しいですぅ」
心春は白ネグリジェに着替えていて私が土下座して謝るととても悲しそうに落ち込んだ。
私は慌てて心春にもう一度謝った。
「私は体を分解されたことがなかったからビックリしたんだ、だから悪気はなかったんだ許してくれ」
「……グスっ」
心春は悲しそうにそっぽを向く。
「どうしたら許してくれくれるんだ?」
私が問いかけると心春が真剣な眼差しを私に向けて言う。
「わたくしに心春お姉ちゃん大好きって言って抱きついてください」
「はぁ!?  ダメだそんな恥ずかしいことできるか!」
「……グスっ、やっぱり胡蝶ちゃんはわたくしが嫌いなんですね」
「うっ……」
心春の言うことを聞かないと今夜は終われそうにない。
「だぁー! わかったよ、やれば良いんだろ!」
私は覚悟を決めた。
「こ、心春お姉ちゃん大好きぃ!」
「きゃ」
私は思いきって心春の腰に抱きついた。
「ぐへへ、全く胡蝶ちゃんは甘えん坊ですねぇ、そこまで言うなら仕方ないんでお姉ちゃんが抱っこしてあげますぅ」
そう言って心春は私に抱きついた。私は我慢した。
「さて、夜も遅いですしもう寝ますか、胡蝶ちゃんはお姉ちゃんと抱っこして寝んねしましょうねぇ」
「おい」
心春のが甘ったるい声で不穏なことを言うので私はすぐに抱きつくのをやめる。
「そこまでするって言ってないだろ?」
「胡蝶ちゃんやっぱりわたくしのこと……」
「あああ、面倒くせぇからその顔やめろ! 私が悪かったよ、だから今日だけだかんな?」
「胡蝶ちゃんありがとうございますぅ!」
私は心春のに抱っこされて寝ることにした。因みに決して女同士でエッチなことをするわけではない。
灯りを消して心春と布団に潜る。
「ふふふ、実はわたくしいつも夜は一人で寝て寂しかったんですぅ、けど今日は胡蝶ちゃんがいるから大丈夫ですわ」
心春が後ろから抱きついて言う。
「そうか、ならよかったよ」
私は心春の言葉を聞いて考えた。
私みたいなラブドールは心春みたいに寂しがりやな人達が孤独を感じないように一緒にいてあげるのが本来の目的なのかも知れない。
「胡蝶ちゃん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ心春」
心春はもう寝るようだ。
全くこっちは抱きつかれて眠れねぇ。
「はぁ」
大我は孤独で寂しかったから私を買ったのかな……だとしたら私があいつにしてあげれることは大我の側にいて孤独を感じさせないようにする事かもしれない、けどそれはいつまでできるんだ?
私は大我に友達が沢山できて欲しいと思っている、それが大我のためになるとおもうからだ。
実際に黒田と繭は大我の友達になった、そして親父や心春と他の姉貴達と繋がりを持てた。
このまま行けばいずれ大我は孤独じゃなくなるだろう、しかしその時大我は私をまだ必要としてくれるんだろうか?
……。
「いや、私はもう必要ないな……大我には繭がいる」
この際認めてしまうしかない。大我が浮気してしまうのは私の事が元から好きではなかったからだ。
だから私以外の人形と二人きりで部屋でイチャつく。だから私以外の人形達と楽しく遊ぶ。だから私以外の人形達と風呂に入る。だから……。
人間の繭に心を動かされる。
もう、大我を私に縛り付けるのはやめよう、私は嫉妬深いから大我を独占しようとして傷つけてしまう、そうなれば大我は余計孤独になってしまう。
愛する男の為に身を引かなければならない。
「……う、うぅ、大我ぁ」
私は一つの決心をして眠りについた。
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