シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

44話 「抱っこして」


 ザパーン!
 
 「こら、夢見鳥! ゆっくりお湯をに入らなきゃダメよ」
 「あぅ、繭ごめんなさい」
 
 体を洗い終えた夢見鳥がお湯に飛び込んだので私は注意した。その後、ゆっくりとお湯に浸かり空を眺める。
 
 「綺麗な星」
 
 地下温泉の天上には大きな穴が開いていてそこから夜空が見える。さらに星がはっきりと輝いて見えた。
 
 「こんなの都会の空じゃ見れない景色ね、何だかちょっぴり贅沢な気分」
 
 私は一人で呟いた。
 
 「……繭、空が綺麗だね」
 
 夢見鳥が私から少し離れた場所で体を仰向けにした状態でお湯に浮かびながら言う。
 
 夢見鳥は人形の体だけど水に浮かぶのね。
 
 「んっ」
 
 夢見鳥は少し声を出して急に沈んだ。
 
 「え、夢見鳥?」
 
 ……ザバァ!
 
 「きゃっ」
 
 夢見鳥が沈んだかと思ったが急に私の目の前に潜って移動し飛び出てきた。
 
 「えへへ、繭驚いた?」
 
 夢見鳥はそういって私に抱きついた。
 
 「もう、夢見鳥ったら」
 
 夢見鳥、裸なのに私に抱きついて……ちょっと恥ずかしいな。
 
 私はさりげなく夢見鳥から離れる。
 
 「……あれ?」
 
 私が離れることに対して夢見鳥はどうして? といった表情をした。そして元気無く俯いてしまった。
 
 「違うのよ夢見鳥、ちょっと暑かったから離れただけなの」
 
 私は嘘をついてしまった。
 
 「繭、夢見鳥に嘘をついてる」
 「えっ?」
 
 私はドキッとした。
 
 「本当は夢見鳥のことまだ怒ってるんでしょ? 嫌いになったんでしょ?」
 
 夢見鳥が涙声で言う。
 
 夢見鳥、もしかして私がキツく叱ったことをまだ気にしてるのかしら。
 
 「夢見鳥、落ち着いて聞いて、確かにあなたをキツく叱ったけどもう私は気にしてないわ」
 
 気にしてないと言っても二度と私の下着を嗅がないでほしいのだけれど。
 
 「うそ、嘘嘘嘘嘘! 繭は夢見鳥をここに置いていくんでしょ!?」
 「どうしたの夢見鳥? 落ち着いて!」
 
 夢見鳥が興奮しだしたので私は慌てて側に寄る。
 
 「お父さんが最初に言ってた……夢見鳥が繭と一緒にいると障害になるって」
 「そんなことないわよ」
 「嘘、繭は本当はそう思ってる、だから繭は夢見鳥をここに置いて行くんでしょ?」
 
 夢見鳥が悲しそうに私を見つめてくる。
 
 「夢見鳥、信じて、私はそんな風に思ってないわよ?」
 
 何とか夢見鳥の誤解を解こうとするが私のその気持ちは中々伝わりそうにない。
 
 「……繭が大我お兄ちゃんを追いかけ行くときね本当は行ってほしくなかったの」
 「……うん」
 
 夢見鳥が私に思いを伝えようとしてるのを感じて私は少しでも落ち着いて話ができるように夢見鳥の頭を撫でてやる。
 
 「だけど夢見鳥は我慢して繭を見送ったの、そしたらやっぱりとても悲しくて寂しくなっちゃたの……繭が遠くに行っちゃいそうで嫌だったの!」
 「っ、夢見鳥……ごめんね」
 
 私は夢見鳥の切実な思いを聞いて涙が溢れてきた。 
 
 「繭を少しでも感じたいからまた繭のおパンツの匂いを嗅いじゃった……ごめんなさい、ごめんなさい! うわああああん!!」
 
 夢見鳥は思いが押さえきれずに泣き出してしまった。
 
 夢見鳥、そんなに私のことを思ってくれてたのね。
 
 私は夢見鳥の為に行動に出ることにした。
 
 「夢見鳥、抱っこしてあげるわ」
 
 私はできるだけ本気だと言うのをわからせる為に真っ直ぐ夢見鳥の目を見て言う。
 
 「え、抱っこしてくれるの?」
 「ええそうよ、だから前を向いて座って」
 
 夢見鳥は私の言うことを聞いて私に背中を向けて座った。この時なるべく平然を装ったが内心とても緊張した。
 
 うわぁ、私ったら何を言ってるんだろう、でもここまで来たら夢見鳥の為にやらなくちゃ。
 
 私はどうせ夢見鳥を抱っこするならできるだけお互いに肌が重なった方がいいと思い夢見鳥の後髪を全てまとめて夢見鳥の肩越しに前に持っていく。
 
 そして夢見鳥の腰に手を置き私にもたれ掛かるように勢いよく抱き寄せる。
 
 「うわっ、繭?」
 
 夢見鳥が不安そうな声で私を呼ぶ。
 
 あああ! 恥ずかしい、今私お風呂で女の子どうしで裸で引っ付いてる。
 
 「えっと、夢見鳥、抱っこしてるけどどうかな?」
 
 私は恥ずかしいので夢見鳥を見ないようにして感想を聞いた。
 
 「うん……繭に包まれて安心する」
 
 夢見鳥は恥ずかしくないのかしら?
 
 普通に感想を答える夢見鳥に少し拍子抜けしてしまった。
 
 「そう、ならよかったわ……夢見鳥これから私の言うことをよく聞いて」
 「うん」
 
 私は夢見鳥を抱っこしたまま語りかける。
 
 「私は夢見鳥が大好きだから抱っこするの、けっしてあなたをここへ置いていかないわ」
 「本当? 夢見鳥とずっと一緒にいてくれる?」
 「もちろんよ、じゃないとこんなことしないわ」
 
 私は夢見鳥に自分の気持ちを伝えるには言葉だけでは足らないと思い体を使って思いをぶつけた。
 
 「夢見鳥、これから先また寂しくなるときがくるかも知れないけどもしその時になったら今日のこの瞬間をおもいだしてね、私はあなたとずっと一緒にいると約束する」
 「うん、わかった! 繭、夢見鳥とずっと一緒にいてね」
 
 どうやら夢見鳥に気持ちが伝わったようだ。
 
 夢見鳥が元気になって良かったわ。
 
 安心した時だった。
 
 「ぎゅ」
 「きゃあ!」
 
 突然誰かが私の背中に抱きついた。
 
 私は驚いて夢見鳥を離し振り返る。後ろにいたのは胡蝶ちゃんタイプの子だった。
 
 「……抱っこ」
 「え?」
 
 もしかしてこの静な感じの子はガマズミちゃん?
 
 「えっとガマズミちゃんだったかしら?」
 「そう……次、私を抱っこして」
 「ええっ!?」   
 
 ガマズミちゃんは私に向かって手をのばす。
 
 「……イヤ?」
 
 ガマズミちゃんが首をかしげながら私を伺う。
 
 うっ、かわいい。
 
 「ちょんちょん」
 
 また誰かが後ろから私に触ってきた。
 
 「えっと、もしかしてキンセンカちゃん?」
 
 後を見ずに尋ねてみる。
 
 「そう……私はキンセンカ」
 「もしかしてキンセンカちゃんも私に抱っこしてほしいの?」
 「そう……だから抱っこして」
 「あはは」
 
 私は苦笑いをしながら振り返る。
 
 すると私に向かって手をのばすキンセンカちゃんがいた。
 
 ……どうしよう。
 
 「もうお姉様達、繭様が困りますからやめて下さい!」
 
 この真面目感じはヒガンバナちゃんね。
 
 だいぶ夢見鳥の姉妹達の特徴がわかってきた。
 
 「そうですよ! ……でも抱っこは羨ましいかも」
 「スイカズラ、今何か言った?」
 「いえ! 私は何も言ってませんよヒガンバナお姉様」
 
 ヒガンバナちゃんもお湯に入ってきた。

 私はその時ヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんの体を見てあることに気が付いた。

 「あれ、ヒガンバナちゃんとスイカズラちゃん、体が傷だらけだけどどうしたの!?」

 彼女達の胸、お腹そして背中は傷だらけだった。

 「あ、これは!」
 「繭様、何でも無いんで気にしないでください!」

 ヒガンバナちゃん達は何かを隠そうとしている、気にしないなんて無理だ。

 「もう、お姉ちゃん達、繭が夢見鳥を抱っこしてくれてたのに邪魔しないでよ!」
 
 問いただそうとしたら夢見鳥が怒ったので聞くタイミング損ねた。
 
 「あら? 夢見鳥ちゃんいつからお姉様に向かってそんな口をきくようになったのかしら」
 
 ヒガンバナちゃんがとびきりの笑顔で言う。
 
 「あ……繭ぅ」
 
 夢見鳥が怯えて私の後ろに隠れる。
 
 「あはは」 
 
 私は笑ってこの場を誤魔化すことしかできなかった。
 
 「お? 姉ちゃん達何してんの?」
 「なんか面白そう、私達も混ぜてよ」
 
 ヒマワリちゃんとツキミソウちゃんもきた。
 
 私の周りに姉妹達が集まり賑やかになってきた。
 
 ということはそろそろ胡蝶ちゃん達もくるのかしら?
 
 「おい、繭、ちょっと確かめたいことがあるんだがいいか?」
 「あ、胡蝶ちゃん……確かめること?」
 
 私の予想通り胡蝶ちゃんが来た。

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