シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
33話 「娘がグレた」
大我から心春の匂いがしたので喧嘩してしまった。そして大我は無言で部屋を出て行った。
何でこうなってしまったんだ。
私は悲しくて情けなくなった。
「さて、ここから出て行こうか、胡蝶着いて来なさい」
親父が私に言ったので黙って親父に着いて行った。
「さあこの部屋だよ、入りなさい」
親父に促されて部屋に入る。そこは和風建築の屋敷には珍しい広い洋風の部屋だった。
床は赤い絨毯が敷き詰められていて壁には多数の本が収められた本棚ある。また中央にこの部屋にある本を読むのに適した大きさの机とゆったりとした背もたれがついた椅子が一つあった。
私は部屋の上品な気風に唖然としてしまった。
「ははは、驚いたかい? 僕のご先祖様は変わりものだったようでこんなに立派な和風建築の屋敷を建てたのに何故かこの部屋だけ洋風で建築したんだよ」
親父は楽しそうに私に話す。どうやらこの部屋をとても気に入っているようだ。
「ここは書斎として使っていてとても静かなところなんだ、ここでなら落ち着いて話しができるだろ?」
部屋には椅子が一つしかないため親父は私のためにもう一つ椅子を用意しに行くので待っているように言った。
「親父、別に気をつかわなくていいよ私は立ってるから」
私は親父の記憶がない。だから親父に対して遠慮してしまう。
「……そうかい、ならすまないが僕はこの通り歳でね、座らせてもらうよ」
親父は一呼吸着いて椅子に座った。
「さて胡蝶、久我君と喧嘩してたようだね、まぁ心春も関わっているようだけど……話してくれるね?」
親父は安心させるためか微笑みながら私に話しかける。しかし内容があまりにもアレなので正直に話すことに躊躇する。
「……」
「どうしたんだい胡蝶、遠慮しなくてもいいんだよ?」
「いや、その……」
「……もしかして僕が君と夢見鳥を売ってしまったことを許してくれてはいないんだね、だから僕に話したくないのかい?」
たしか親父は人形を売る会社の社長だったな。
「僕は社長だ、会社の利益を上げて社員達の生活を守る義務と責任がある」
親父は語り始めた。
「心春に命を持たせることに成功した僕はこれは売れると思って君達を造った……」
親父の話を聞いて以前の親父と今の親父は正反対の性格だと思った。
いったい何が親父を変えたんだ?
「僕は商品とはいえ造った人形達を全てを愛している……それでも売らなければならなかったんだ」
「……そ、そうなんだ」
私は元気なく俯く親父を見てうまく言葉が出せなかった。
「知っての通り最初に繭さんから購入の注文が入ったとき僕は特に理由なく君達姉妹の中で一番最後に造った夢見鳥を選んだ」
親父は私を申し訳なさそうに見つめる。
「……親父、気にせず続きを話してくれ」
私がそう言うと親父は続きを話す。
「そのとき他の娘達は離ればなれになりたくないと僕に言ってきたよ、中でも君が一番反対した……」
また知らない私のことだ……何で私はこのときの記憶を無くしているんだ?
「どうか夢見鳥を売らないでと言う君を僕は心を鬼にして無視した」
私は以前の記憶がないからだろうか、素直に親父の立場を理解して同情した。
親父、つらかっただろうな。
「次に注文が入ったとき君が真っ先に夢見鳥を探しに行くと言ってきたよ……こんなにお互いを思い合う姉妹を離れ離れにしてしまったことに僕は後悔したよ」
私は後悔の念に苦しんでいる親父が哀れになり、そのときのことが記憶にないため別に気にしていないことを伝えようと思った。
「親父、私は……」
「いいんだ胡蝶、僕はあのとき出荷するため君を直接箱詰めしたよ、そのときの君が僕を見る目は酷く冷めていて僕を恨んでいるのがよくわかった……本当にすまなかったね」
「いや、だからその……」
「けど以前の僕と今は違う、ちゃんと君達を愛しているしもう手放したりしない! 他の娘達ともまた絆を取り戻したんだ」
「お、おう」
「こんな都合の良いことばかり言ってすまない、だけどもう一度だけ僕のことを信頼して何が有ったか話してくれないか? ……頼む、君の父親になりたいんだ」
「……」
おい、どうすりゃいいんだこれ……なんか変な空気になってきたぞ。
私が無言でいると親父がしくしくと泣き出した。
「おい! どうしたんだ親父!?」
「……胡蝶、君は以前と違ってずっと乱暴なしゃべり方をしているね、もしかして僕のことを困らせる為にグレて不良娘になったのかな? そう考えると君をそこまで変えてしまった僕は何て罪深いんだろうと悲しくなって……うぅ、本当にすまなった!」
そう言うと親父は今度は号泣しだした。
うわぁ、そうきたか、ちょーめんどくせー。
「親父、もうわかったから、信頼するから顔を上げてくれ」
「……胡蝶、こんなあっさり僕を許してくれるのかい?」
「あぁ、許す」
私は正直、この家にいた時の事はどうでもいいと思っているので、とりあえず面倒を早く終わらせようと思った。
「じゃあ何が有ったか聞かせてくれるね?」
あのときの部屋での一件を思い出して最初は悲しかったがだんだん悲しみが怒りに変わってきた。
「……そんなに聞きたきゃ聞かせてやるよ親父、耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
私はこの怒りを発散させる為に気分を高めて言った。
「ああ! 勿論耳の穴かっぽじって聞くよ!」
親父は以外にノリがよく私と同じように言った。
「いいか親父! 姉貴の心春がな……」
「心春がどうしたんだい!?」
「心春がな……私の大我と寝やがったんだあ!!」
「はぁっ!?」
親父は驚いて椅子からずり落ちた。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか胡蝶、僕の聞き違いかな? もう一度言ってくれないか?」
親父はなんとか椅子に座り直そうとあたふたしている。私はそんな親父に容赦なく告げる。
「何度も言わせんじゃねえよ、心春が私の大我と寝やがったんだよ! あいつはクソビ○チだ」
「嘘だあああああ!!」
親父は叫ぶと歳に似合わず勢いよく椅子ごと後ろにひっくり返った。
「大丈夫か親父?」
「……」
親父は無言で這いずり立ち上がった。
「……親父?」
私は親父を心配して呼び掛けた。
「あの若造がぁ!!」
突然親父が憤怒の表情で怒りの声を上げた。そのときだった。部屋の外からドタバタと誰かが走って来る足音が聞こえた。その足音が部屋の前で止まると部屋の扉が勢いよく開いた。
「お父様ぁ大変ですぅ!」
部屋に来たのは心春だった。
「心春か……」
親父はそう呟くと心春に近づき前からそっと優しく抱き締めた。
「ええ!……お父様突然どうして?」
「いいんだよ心春、怖かったねもう大丈夫だから」
「全く話しがわからないんですがぁ……」
親父の謎の行動に心春が困惑している。
「心春、久我君に無理矢理乱暴されたんだね? そうなんだね!?」
「ええ!? 何を言ってるんですかお父様ぁ?」
あ、そういうことか親父は心春が大我を寝取ったことにショックを受けて自分の都合がいいように記憶をすり替えてるんだな。
私は親父と心春のやり取りを見てそう感じた。
「お父様ぁ今警察から電話が来まして久我様が警察に補導されました今すぐ迎えにいきましょう!」
心春は必死の表情で言う。
「なにぃ! それは本当かね? よしそのままブタ箱に詰め込んで貰うよう警察の方に頼みなさい」
親父はニコニコと嬉しそうに言う。
「何バカなことを言ってるんですかぁお父様ぁ!」
バシンっ!
「ぐはぁ!」
心春が親父の頭を思いっきり叩いた。
「大我が警察に補導されたってどういうことだよ?」
「私も事情までわからないわぁ、でも今すぐ迎えにいきましょう」
大我が警察に居るってことは私とはもう会えないのか? そんなの嫌だ!
私は心春に対する怒りを忘れて痛がる親父を無理矢理連れて大我を迎えに行くことにした。
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