シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

31話 「男の勝負」


 駄菓子屋を出てしばらく歩いた。するとコンクリートから熱気が伝わって来て余計に暑く感じる。
 
 今が調度暑さのピークを迎えたぐらいか?
 
 俺はそんなことを考えながら額の汗を拭った。
 
 「兄ちゃん早くしてよぉ」 
 
 ヒマワリが俺を急かす。
 
 「まぁ待てよ、そんなに急いで行く必用もねえだろ」
 
 何でコイツはこの暑さでこんなに元気なんだ?
 
 「兄ちゃんそんなにガタイいいのにへばってんの? かっこわるーい」
 
 ツキミソウがそう言って目を細めて俺の乳首の部分を人指し指でグリグリして挑発する。
 
 「あん……って止めろバカっ!」
 
 俺はツキミソウの頭を軽くチョップした。
 
ツキミソウは痛いと言って頭を押さえ、それを見たヒマワリがケラケラ笑った。
 
 だいぶこの姉妹と打ち解けたな。
 
 俺はヒマワリとツキミソウとの距離が縮まったことを感じた。
 
 「……なあ、あんた駆けっこ得意?」
 
 突然龍太郎君が俺に尋ねて来る。
 
 「あはは、龍太郎君、俺のことは『あんた』じゃなくて『お兄さん』だろ?」
 「うるせえよ、それよりさっきの質問に答えろよ」
 
 く、このガキぃ……。
 
 「龍ちゃん大人にそんなこと言っちゃいけないんだよ!」
 
 楓ちゃんが龍太郎君の頭を軽く叩きながら注意する。
 
 ムキになるな俺、相手は子供だ冷静になって大人な対応をしろ。
 
 「龍太郎君、さっきの質問の答えだけどお兄さん毎日走ってるから駆けっこは得意だよ」
 「ふーん、けどあんた体がでかくてノロそうだけどな」
 
 龍太郎君が俺をバカにするように言った。
 
 やっぱこのガキムカつく!
 
 「なになに龍太郎、兄ちゃんと何かするの?」
 「あ、ヒマ姉これからコイツと駆けっこで勝負をしようと思うんだ」
 「えー何それ面白そう!」
 「それでさヒマ姉……俺がこいつに勝ったらその、ヒマ姉から俺にご褒美くれない?」
 
 うわ、このガキ俺とヒマワリとであからさまに態度が違う。
 
 「ど、どうかな?」
 
 龍太郎が息を飲んだ。
 
 「うーん……いいよ、それじゃあ勝った方にご褒美としてキスしてあげる」
 「ええ! ヒマ姉のき、キス!? ……ヒマ姉俺頑張るよ!」
 「なんかヒマワリだけずるい、私もご褒美にキスしてあげる!」
 「ツキ姉まで!? よしぜってえコイツに負ねえ!」
 
 このマセガキがぁ! ……けど大人と子供だと絶対大人が勝つよな、わざと負けるか?
 
 「龍ちゃん……」
 
 考えていると楓ちゃんが悲しそうに龍太郎君の名前を呟いているのが聞こえた。
 
 ……よし決めた俺は龍太郎に勝つ……勘違いするな俺が負けたら龍太郎がキスされてるところを楓ちゃんが目撃して悲しむ、だから勝つ……決して龍太郎がムカつくからじゃない。
 
 俺は自分にそう言い聞かせる。
 
 「それじゃあルールを言うぜ、あそこの川に架かっている橋に先に着いた方の勝ちな」
 
 そう言って龍太郎が指で指した方を見て橋の位置を確認した俺は唖然として龍太郎に尋ねる。
 
 「ねえ龍太郎君あそこの橋までちょっと距離があるけど大丈夫か?」
 
 今いる地点から橋まではおよそ二百メートル近くあった、さすがにこの距離は小学生にはきついと思った。
 
 「うっ、そんなのかんけえねえよ! 男に二言はねぇ!」
 「そうか、ならハンデをやる、俺は十秒待ってからスタートしてやる」
 「ハンデなんかいらねーよ!」
 「……勝ちたくないのか?」
 「……わかったよ」
 
 俺は龍太郎にハンデをやることにした。これで勝っても文句言われないだろう。
 
 「じゃあ私達は先に行って待ってるからね」
 
 そう言ってヒマワリ達は先に向かう。
 
 「龍ちゃん……頑張ってね、応援してるよ」
 「おう楓、しっかり応援しろよな」
 
 楓ちゃんはどこか寂しそうにうなずいた。
 
 楓ちゃん本当は龍太郎君に勝ってほしくないのに……なんていい子なんだ! それに引き換え龍太郎の野郎は……。
 
 俺はますます勝つ気が起こった。
 
 「兄ちゃーんいつでもいいよー!!」
 
 ヒマワリとツキミソウのどちらかがゴール地点で叫ぶ。
 
 「ふ、俺はいつでもいいぜ、ぜってえにあんたに勝ってやる」
 「ふ、ほざけマセガキ、お前にキスなど十年早いわ!」
 
 俺と龍太郎はお互いに挑発しあってスタート地点に着く。
 
 「「位置について……ヨーイ!!」」
 
 向こう側からヒマワリとツキミソウの位置につく号令が聞こえた。
 
 「「スタート!!」」
 
 龍太郎が走り出す。
 
 へぇー結構早いじゃないか。
 
 龍太郎は小学校低学年にしては確かに足が早かった。
 
 俺は十秒数えた。
 
 龍太郎はゴールまで半分の位置まで来ていた。
 
 俺は首と足首をゴキゴキとならして余裕を持ってスタートする。
 
 ゴールまであともうちょっとだろうその位置で俺は龍太郎に追い付いた。追い抜かす時に龍太郎の驚いた顔が見える。
 
 龍太郎、お前は確かに早い、恐らくもう少し距離が短ければお前が勝っていただろう……しかし残念、この勝負は俺の勝ちだ。
 
 龍太郎に満面の笑みを向けてゴールした。
 
 「わぁ兄ちゃんはやーい! あっという間に追い付いちゃったよ」
 
 ヒマワリが俺に喝采を送る。
 
 「けど兄ちゃん子供相手に大人げなくない?」
 「ぐわぁ!」
 
 ツキミソウのつっこみが胸に突き刺さる。
 
 やめてぇ! それを一番気にしてたんだから!
 
 「はぁ、はぁ、はぁ……ちくしょう! はぁ、はぁ、」
 「龍ちゃん大丈夫?」
 「はぁ、はぁ、……大丈夫だよ楓」
 
 楓ちゃんが息を切らしている龍太郎を心配して背中を擦っていた。
 
 「はぁ、もう大丈夫だ楓、ありがとな」
 「うん!」
 
 楓ちゃんはどこか嬉しそうだ。
 
 「にひひ、それじゃあ兄ちゃんにはご褒美として私達がキスしてあげよう」
 「ありがたく受け取ってね兄ちゃん!」
 「ちょっと待て、俺は別に……」
 「「チュッ、」」
 
 俺は有無を言わさず二人から両方の頬にキスされた。その後俺はただ呆然として両頬を擦った。
 
 「うわぁぁ! ちくしょおおおぉ!」
 
 その光景を見た龍太郎が心のそこから悔しそうな声をあげて泣いた。
 
 「龍ちゃん泣かないで……どうしよう」
 
 楓ちゃんが龍太郎を慰めようとしておろおろしていた。
 
 さすがに大人げ無かった。
 
 そんな風に思っているとヒマワリとツキミソウが龍太郎に近づいて言った。
 
 「もう龍太郎なにも泣かなくていいじゃん」
 
 ヒマワリが龍太郎の頭を擦る。
  
 「だってヒマ姉とツキ姉がアイツに……ぐすっ」 
 「ええ、駆けっこで負けたことじゃなくてキスしたこと!?」
 
 ツキミソウがつっこみを入れる。
 
 二人はしょうがないなぁと言ってしゃがんだ。
 
 「龍太郎、おつかれさん」
 「走ってる時の龍太郎かっこよかったぞ」
 
 そう言って二人は龍太郎のおでこにキスをした。その瞬間龍太郎はピタリと泣き止んで固まった。
 
 「もう龍ちゃん私も龍ちゃんが頑張ったご褒美にキ、キスしてあげるからこっち向いて!」
 
 楓ちゃんはそう言って無理やり龍太郎を自分の方に向けて目を瞑り口を突き出した。
 
 「……楓、お前のはいらねぇ」
 「なっ!?」
 
 龍太郎の無慈悲な一言に楓ちゃんは固まった。
 
 「……龍ちゃん……バ……」
 「あ? なんだよ楓、聞こえなかったぞ」
 「龍ちゃんのバカぁ!!」
 「おごっぉ!!」
 
 楓ちゃんの右ストレートがもろに龍太郎の左の頬を打ち抜いた。
 
 「龍ちゃんなんてもう知らない!」
 
 楓ちゃんはそう言って殴って倒れている龍太郎から離れて行った。
 
 龍太郎は頬を押さえながら信じられないものを見たかのように見送っていた。
 
 ヒマワリとツキミソウは大笑いしていた。俺もつられて笑った。
 
 こんなに楽しいのは久しぶりだ。俺はさらに大きく笑った。
 

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