シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
30話 「微笑ましい光景」
「とうちゃーく」
「私達に着いて来るなんて兄ちゃんすごいねぇ!」
ヒマワリとツキミソウが自転車から降りてケラケラ笑っている。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……なかなか鬼畜だろ……ぜぇ、はぁ」
俺は自転車に乗ったこの姉妹を走って追いかけた。普段ランニングをして鍛えてはいるが私服と普通の靴で長距離を走るのはきつい。
息を整えて尋ねる。
「……で、ヒマワリとツキミソウは俺をどこに案内するつもりなんだ?」
「どこって、ここだよ兄ちゃん!」
「駄菓子屋だよ!」
そう言われて辺りを見回すと確かに駄菓子屋が合った。姉妹と一緒に店に入って行くと、店主のお婆さんが声をかけてきた。
「おや、古家さんとこのヒマワリちゃんとツキミソウちゃんかね? はぁよう来たねぇ」
「ばあちゃん遊びに来たよ!」
「今日は兄ちゃんを連れて来たよ!」
そう言われてお婆さんは俺を警戒して見てくる。
「おや、あんた初めて見る人だねぇ、どこから来なさったの?」
「あの、俺は〇〇の方から古家さんに会いに来ました、名前は久我大我っていいます」
「あーそうねぇ、それは随分遠くから来なさったねぇ」
とりあえず正直に伝えることでお婆さんの俺に対する警戒は解かれたようだ。走って来て喉が乾いたのでここで飲み物を買うことにした。
……。
「……はいありがとね、ところであんた男前だねぇ、どっちの彼氏なんだい?」
「ぶふぅっ! ごほ……」
俺はお婆さんの質問に思わず飲み物を吹き出してむせた。
「いや、俺は」
「私達はどっちも兄ちゃんの彼女だよ」
「兄ちゃんったら私達に俺にはどっちかなんて決められねぇ、両方俺のものだって言うんだから」
俺が言葉を発する前にヒマワリとツキミソウがお婆さんに嘘を言った。
うおーい! なんつうことを言うんだコイツら!
「おい、俺はそんな優柔不断な野郎じゃねえぞ! それにそんなこと言った覚えは無いしお前らを彼女にする気はねえ!」
慌てて否定した。
「「兄ちゃんひどーい!!」」
二人が俺の左右の腕に抱きつき抗議する。それを見て聞いたお婆さんが険しい表情をしながら俺に厳しい口調で言う。
「あんたこんなに可愛い子達をたぶらかして恥ずかしくないのかい!?」
「いや……あの、これは違うんです」
「黙りんさい! だいだいなんだいどっちか決められないって、あんたそれでも男かい!? いいかい昔の男はねぇ…………」
「……はい、……はい……」
俺は何故かお婆さんに説教された。ヒマワリとツキミソウはそれぞれ俺の隣で腹を抱えて笑っていた。
コイツらやりやがったなぁ!
「あ、ヒマ姉ちゃんとツキ姉ちゃんだ!」
突然声のする方を向くと店の入口に小学校低学年くらいの髪を短く二つに結び白のワンピースとポーチをさげた女の子が立っていた。
「お、楓ちゃん」
「今日は一人で来たの?」
姉妹が女の子に話かける。どうやら知り合いのようだ。
「ううん、違うよ……あ、来たみたい、おーい龍ちゃーん! ヒマ姉ちゃんとツキ姉ちゃんがいるよー!」
楓ちゃんが呼んですぐに楓ちゃんと同い歳くらいのティーシャツと半ズボンにサンダルをはいた男の子がやって来た。
「うるせーよ楓! そんなに叫ぶんじゃねーよ!」
「こら龍太郎! 楓ちゃんにそんな酷いこと言っちゃダメだぞ……そらっ!」
「悪い奴にはこうしてやる……うりうりぃ!」
「うわぁ! ヒマ姉、ツキ姉やめろよ!」
ヒマワリが龍太郎を抱き上げてツキミソウが頭を拳でグリグリした。姉妹はひとしきりじゃれて龍太郎君を下ろした。
「龍ちゃん大丈夫?」
「バカっ、やめろよ!」
楓ちゃんが心配そうに龍太郎君の頭を撫でるが龍太郎君は嫌がって楓ちゃんの手を払いのけた。
「恥ずかしがっちゃってぇ」
「うふふ、二人ともかわいいなぁ」
ヒマワリとツキミソウはそんな二人の光景をニヤニヤしながら見ていた。
俺も微笑ましくその光景を見ていると、龍太郎君が俺の存在に気付いて声をかけて来た。
「……あんた、だれ?」
おいおい、いきなり見ず知らずの人をあんた呼ばわりかよ。
俺は自分に相手は子供だと言い聞かせて大人として対応する。
「俺は久我大我、さっき君をいじってた姉妹の家で厄介になってるんだ」
俺の言ったことに龍太郎君はたいして反応をしなかった。
「龍太郎、あんたも来たんかね、それよりあんたの好きなヒマワリちゃんとツキミソウちゃんがこのお兄さんに取られちまうよ」
お婆さんが突然そんなことを言い出した。
「ばっ、ばあちゃんなに言ってんだよ! べつに好きじゃねーよ!」
龍太郎君が顔を真っ赤にしながら否定する。
「ええ! 龍太郎は私達のこと嫌いなんだ」
そう言ってヒマワリがニヤニヤしながら後ろから龍太郎君に抱きつく。
「龍太郎がそんなうふうに思ってたなんて、お姉ちゃん達悲しいなぁ」
続いてヒマワリがわざと悲しそうにしながらしゃがんで龍太郎君の胸によりそう。
「ぅう、うわぁ………」
龍太郎君は刺激が強すぎるせいか声を出せずに真っ赤になりながらあたふたしている。
「もうヒマ姉ちゃん、ツキ姉ちゃん!」
楓ちゃんが声をあげた。
「あ、ごめんごめん、ちょっとからかい過ぎちゃったね」
「楓ちゃん安心して、私達は龍太郎を取らないから」
「なっ、そんなんじゃないもん!」
姉妹の言葉に対し楓ちゃんもあたふたと否定した。
俺はボーッとその光景を見ていた。
なんだこの微笑ましい光景は、そういえば昔に俺もこんなことが…………無かったな。
龍太郎君羨ましいぞ! 俺も君ぐらいの時に歳上の美人なお姉さん達にからかわれたかったぞ、しかも可愛らしい幼なじみまでいるなんて充実しすぎだろ!!
心の中で悔しんだ。
「ねえ龍太郎、楓ちゃん、これから私達と遊びに行かない?」
ヒマワリが二人を遊びに誘った。
「え、べつに俺はいいけど……楓はいいか?」
「うん、『龍ちゃん』と一緒だったらいいよ」
楓ちゃんは龍太郎君の名前を強調して言った。
しかし龍太郎君はそれについてあまり気にしていないようだった。
「ねえヒマ姉、ツキ姉もしかしてそこの人も一緒に遊ぶの?」
龍太郎君が嫌そうに俺を見てヒマワリ達に尋ねる。
龍太郎君、あからさまにそんなふうに態度で示されるとお兄さん悲しくなるよ。
「そうだけど、もしかして龍太郎は兄ちゃんと一緒にいるのイヤ?」
ヒマワリがしゃがんで龍太郎君と同じ目線になって首をかしげるながら言う。
「うっ、……ヒマ姉がそう言うなら俺はいいよ」
龍太郎君やられたな……まったくこの姉妹は恐ろしいな、こんな小さな男の子にまで色仕掛けするとは。
「……これだから男の子って! 龍ちゃんのバカ」
楓ちゃんが顔を膨らまして怒っていた。
「それじゃあ行こうか!」
ツキミソウがそう言って出ていこうとした。
「ちょっと待てよ、いったいどこに行く気だよ?」
「川に行くんだよ!」
ツキミソウが体を大の字にしながら言う。
「川? 何でそんなところに?」
「暑いからに決まってんじゃん、だから川に行って涼んで遊ぶんだよ兄ちゃん!」
そう言ってツキミソウが可愛らしいポーズを取る。
相変わらずテンションたけえな、でも川に涼みに行くのはいいな。
まだ外の気温は高く暑かった。
「いいなそれ」
「そうでしょ?」
俺は川に行くことに決めた。
「あんたら川に行くんかね、気をつけなさいよ……あんたが大人なんだからしっかりこの子達を見るんだよ」
俺達はお婆さんにそう言われて見送られた。
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