シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
26話 「私の知らない私」
「確か大我様だったかしら、わたしもあの方に愛されたいわぁ……クスクス」
そう言って姉は私に向かっていやらしく手で口を隠しながら笑う。
この姉二人はそれぞれ牡丹と薔薇の髪飾りを頭に着けておりそれが存在感を際立たせて余計に腹だたしさを感じる。
「……おいク〇姉貴共てめえらの名前はなんて言うんだ?」
この姉達はわたしの夫の大我に手を出すつもりだ、そんなことは決して許されない、ここで締めておかないと。
私は姉の発言に怒りが沸いて今にも飛びかかりたくなった。
「あなた達やめなさい! それと胡蝶ちゃん汚い言葉を使っちゃダメってさっきも言ったでしょ!?」
「それと自己紹介するならお姉様達が先よ!」
メガネの姉達大きな声で私達を仲裁する。この姉達には有無を言わせぬ雰囲気が出ているので逆らえない。
夢見鳥が怯えて私の腕に抱きつく。わたしも思わずびっくりして片方の手で夢見鳥が手を掴んだ。
「ごめんなさいお姉様」
「……もうしません」
どうやら髪飾りの姉達もこの二人に逆らえないようだ。
部屋を見渡すと活発な姉達は私達が怒られるのを見て口と腹を押さえながら笑いをこらえている。
「まったくしょうがない妹達ね」
「お姉様先に紹介をお願いしますわ」
メガネの姉達が無表情な姉達に自己紹介を始めるように促す。
「……改めて自己紹介するわ、先ず私達姉妹の一番上はさっき会った心春お姉ちゃん、だから私は次女で名前は莢蒾」
「……私は三女の金盞花」
――ん、姉貴達はどちらも花の名前か?
続いて私達を叱ったメガネの姉達がそれぞれ片方の手を自分の胸に当てて自信満々に自分の名前を言う。
「私は、四女の彼岸花よ、そしてこっちが――」
「――芋で五女の吸葛よ、よろしくね」
ヒガンバナとスイカズラと名乗った姉達は私達に近付いてきた。
「――胡蝶ちゃんこれから私達が姉としてあなたをしっかりとしつけて淑女にしますからね!」
「もちろん夢見鳥ちゃんも私達が立派な淑女にしてあげるね」
「え、夢見鳥は別に淑女にならなくてもいいよ……ひっ!」
夢見鳥は怯えた。
見ると姉達はニコニコと夢見鳥に笑顔を向けるが目は笑っていなかった。
――畜生、めんどくせぇのに目をつけられたな、さて、次は誰だ?
姉達の自己紹介は続く。
「はいはーい私は六女の向日葵だよー!」
「私は七女の月見草!」
二人は元気よく楽しそうに手を挙げている。
――こいつらは何がそんなに楽しいんだ?
そんな愉快な姉達は一先ずおいておいて私は髪飾りの姉達を睨み付ける。
「――ふぅ、はいはいそんな目で見ないでよ……私は八女の牡丹よ」
「ふふふ、怒ってる胡蝶ちゃんはかわいいわ……わたしは九女の薔薇、よろしくね、クスクス」
――こいつらはやっぱりムカつく。
こうして全員の自己紹介が終わる。すると突然ガマズミとキンセンカが私に質問した。
「……あなた本当に胡蝶ちゃんなの?」
「……前と違う」
「姉貴それはどういうことだ?」
私は二人の質問が理解できなかった。何故なら私は前から今の自分だからだ。
「どういうことも何も胡蝶ちゃん前はそんな汚い言葉を使う子じゃなかったじゃない」
「あんなに素直で甘えん坊だったのに……ハッ、まさかあの男に乱暴されてグレちゃったの!?」
そう言うとヒガンバナとスイカズラが私の側に来る。
「胡蝶ちゃん大丈夫なの!?」
「ごめんね、ごめんね、わたし達が守ってあげれなくてごめんね」
ヒガンバナとスイカズラが私と何故か夢見鳥を巻き込んで、本気で心配して抱き締めてくる。
「――ちょ、姉貴達誤解だ何もされてねえよ!」
「お姉ちゃん達苦しいよ」
二人はわたし達を離してくれた。
姉貴達の性格はアレだが本当に妹思いだな。
「私は今の胡蝶ちゃんはおもしろいから良いと思うけどなぁ、それにしても本当に変わったねえ、前はあんなに妹思いだったのに今は少しうっとおしそう」
「そうだったねえ、夢見鳥が売られて行くときわんわん泣いて大変だったのに」
ヒマワリとツキミソウの姉二人が先ほどの元気そうな態度と違ってしみじみとした態度でそう言う。
「わたしが妹思いだと?」
何の冗談だ? 私の腕に抱きついている夢見鳥のことをうっとおしく思っているのに。
「そうよ、夢見鳥が売られてしばらく経ったとき新たに私達の購入注文が入ったの」
「そのとき胡蝶ちゃんったら夢見鳥を私が探しに行くんだって言ってなんの相談もなく勝手売られて行っちゃったんだから」
ヒガンバナとスイカズラの姉二人はそのときのことを思い出したのか泣き出してしまった。しかし人形なので涙は出ていない。
「おい夢見鳥、わたしはそんなにお前のことを思っていたのか?」
夢見鳥は照れながらわたしの質問に答える。
「うん、胡蝶お姉ちゃんはわたしに優しくしてくれていつもギュッて抱き締めてくれたの」
「信じられねぇ、私にそんな記憶はないんだが」
すると夢見鳥は寂しそうに俯いて話し始めた。
「旅館でお姉ちゃんに会えたとき嬉しかった、でもお姉ちゃん夢見鳥のことを忘れてるみたいだし妹じゃないって言ったから別の人形かと思って悲しかった……でも今は本当に夢見鳥のお姉ちゃんなんだよね?」
夢見鳥は不安そうに私を見つめる。
「まったく私達姉妹のことを忘れてしかも男まで作ってくるなんて薄情な妹ね」
「同感だわお姉様、私達の妹は不良になったのかしら」
ボタンとバラは不機嫌そうに言う。その後姉達はいろんな思い出を話してくれた。
内容はどれも短い間ながら姉妹仲良く過ごした思い出だった。
私はだんだん怖くなった。
なんだこれは、みんな私の知らない記憶を知っている、話しの中の私は今と正反対の性格だ。
今の私はいったいなんなんだ? いったい誰なんだ!?
……怖い、怖い怖い怖い怖い怖い!
「悪い姉貴達、私は一旦戻るよ」
私は立ち上がった。
この場所から離れたかった。そして私のことを最初から知っている男、私の大好きな大我の元へ戻りたいと思った。
「え、お姉ちゃん帰るの? 私も行く」
夢見鳥が着いてくる。
私と夢見鳥が出て行こうとしたときだった。
「……待って、行かないで」
「……もう少しだけ居て、寂しい」
ガマズミとキンセンカがわたし達に手を伸ばす。
「そうよせっかく姉妹が揃ったのに帰るなんて寂しいわ!」
「ねえ胡蝶ちゃん、夢見鳥ちゃんお姉様達ともう少しだけお話ししましょう?」
ヒガンバナとスイカズラがそう言って私達にしがみついてくる。
「まぁまぁ姉ちゃん達そんなに必死になっちゃダメだよ」
「そうそう、そんなに寂しかったら一緒に胡蝶ちゃんの部屋に行けばいいじゃない」
ヒマワリとツキミソウがさも当然の事のように提案する。
「あら、お姉様いいこと言うじゃない、ぜひみんなで行きましょう、私ちょうど大我様と話してみたかったの……ふふふ」
「お姉様独り占めしたらダメよ、わたしも大我様とお話ししたいんだから……クスクス」
ああああ! めんどくせえことになってきた。
「おい姉貴共来る「そうしましょう!!」じゃねえ」
わたしの声はヒガンバナにかき消された。
「お姉様方、胡蝶ちゃんの部屋にいきましょう、行って胡蝶ちゃんをタブらかした男を問い詰めましょう!」
スイカズラがそう言って息巻く。
「ふざけんじゃねぇ!!」
私は姉達に怒鳴った。
……。
私は心春さんに来客用の和室に案内された。和室には机が一つありそれ以外はなにもなく一人で過ごすには広すぎる印象をうけた。
心春さんは後で泊まるのに必要な布団等を持って来ると言って大我さんを別の部屋に案内しに行った。
「はぁ」
溜め息を着いて古家さんが私に言った事を思い出す。
⎯⎯⎯
『君は思いを寄せている人がいるね?』
⎯⎯⎯
……別に大我さんに思いを寄せてなんか。
「って、何で大我さんの名前が出て来るの!?」
頭をブンブンとふって忘れようとした。
とりあえず床に座って机に突っ伏す。
「夢見鳥は他の姉妹と仲良くしてるかしら」
久しぶりに一人になったので少し寂しく感じた。
しばらくボーッとしているとウトウトしてきて眠くなった。
……。
「繭様ぁ入りますよぉ」
私を呼び掛ける声に気づいて起きた私は「どうぞ」と言いって入室を許可した。
「失礼しますぅ、お茶を御持ちしましたぁ」
入ってきたのは心春さんだ。
「ありがとうございます」
私は心春さんからお茶を受け取ると一口飲む。
そのときあることに気づいた。
あれ? 心春さんが持ってたお盆に二つお茶がのってる。
「ゆっくりしてくださいねぇ」
心春さんはそう言って部屋から出ていった。
「心春さんは大我さんと一緒にお茶を飲むんだ……大我さんって人形にモテるのかな?」
……そう言えば胡蝶ちゃんも大我さんの妻って言ってた。
私は胡蝶ちゃんに敵意を向けられた。そのときのことを思いだすとなんだかモヤモヤしてくる。
「もう! 私ったら何で嫉妬してるの? 私は大我さんのことをなんとも思ってないんだから……きっと胡蝶ちゃんは私に大切な家族を取られると思って嫉妬しただけ……」
そう言っているうちにだんだん私は大我さんのことを思い出す。
そういえば私は旅行で大我さんに慰められて、その後事故で偶然押し倒されて、それに海に行ったとき大我さんは私を守るって言ってくれた。
「私何で大我さんのことばかり考えてるんだろう?」
さっきよりも気持ちがモヤモヤしてきて私はまた机に突っ伏す。
「……」
しばらくして私は無言で立ち上がり部屋を出る。向かう先は大我さんの部屋だ。
部屋に行く途中心臓がいつも以上に激しく動いているのがわかった。
どうしよう、私大我さんの部屋に行ってもお話することがない。
私は考えもなしに勢いに任せて来たのを後悔した。
「……あははは……」
「……ふふふ」
引き返そうとすると大我さんと心春さんの声が聞こえてくる。
二人の声はとても楽しそうだ。
っ、大我さん。
胸が少しチクっと痛んだ。
私が部屋の前で立ち尽くしていると障子が開いて中から心春さんが出て来た。
「あら、繭様もお兄……大我様のところへいらっしゃったんですねぇ、でしたら繭様のお茶もこちらへ御持ちしますねぇ」
「いえ、お気遣いなく……ところで心春さんそれはいったい?」
「あっ! わたくしったらなんてはしたない格好を……申し訳ございません」
心春さんは上着を脱いで上はカッターシャツだった。少しシャツが透けてブラジャーが見えていたがそこはある程度仕方ないことなので目を瞑る。
しかし手に黒のタイツを持っているのは見過ごせない。
何でそれを持ってるの? もしかして大我さんの前で脱いだの? 何で?
「私、帰ります!」
「あの、繭様ぁ! ……行っちゃいましたぁ」
部屋に早歩きで戻る。
「ハァ、ハァ、……大我さん」
部屋の入口の前で立ち尽くしてさっきのことを思い出す。
思い出して行くうちに大我さんと心春さんがイヤラシイことをしているところを想像してしまう。
「違う大我さんはそんなことをしていない!」
私は胸を締め付ける苦しみを感じて崩れ落ちた。
「何で大我さんのことをこんなに思うの? 何でこんなに苦しいの? 何でぇ……」
苦しくて、切なくて私は胸を押さえて泣くことしかできなかった。
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