シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

17話 「彼女の香りを求めて」


 ――人形の夢見鳥ちゃんは繭さんを押し倒して頬擦りをしている。
 
 繭さんは夢見鳥ちゃんに思いっきり飛びつかれたせいで転倒してしまい背中を床に強打した。
 
 「――まゆー、まゆー、まゆー!」
 「ゆ、夢見鳥……分かったから早くどけて! あうぅ、背中痛い」
 
 繭さんは痛がっているがそんなことにお構い無しに夢見鳥ちゃんは繭さんに伸し掛かり頬擦りしている。
 
 「た、大我氏! 繭氏の人形が動いてますよ! しかも目の前で絡みあってますよ、ラッキーですねえ!」
 
 黒田さんはこれでも一応驚いているみたいだ。
 
 「そうですね黒田さん! ……ってちがーう! 繭さん大丈夫ですか!?」
 
 漫才をやってる場合じゃない! 早く繭さんを助けないと。
 
 俺は胡蝶を背中からおろすと繭さんを助けるために夢見鳥ちゃんを引き剥がそうと持ち上げる。
 
 「夢見鳥ちゃん、繭さんが起き上がれないからちょっとどけようか」
 
 持ち上げると夢見鳥ちゃんは繭さんのスカートを掴んだ。
 
 「やだー! 繭と離れたくなーい!」
 「きゃあああ夢見鳥ぃ! 下着が見えちゃうからスカートから手を離しなさーい!」
 
 繭さんは必死にスカートを抑えた。
 
 「シャッターチャーンス!」
 
 黒田さんはこの光景をカメラで写している。この人は相変わらず欲望に忠実だ。
 
 今部屋はカオスな状態だ。
 
 「夢見鳥ちゃん落ち着いて繭さんはどこにもいかないから」
 「本当に?」
 
 夢見鳥ちゃんは突然頭をぐるんと真後ろに回して俺に訪ねてくる。
 
 ――うわっ、怖えーな……そういえば胡蝶も最初こんなことしてきたな。
 
 「本当だよ……と、とりあえず繭さんのスカートを離してよ」
 「……分かった」
 
 夢見鳥ちゃんは首を元に戻した後俺の言う通りにしてくれたので夢見鳥ちゃんをおろしてあげた。
 
 「……大我さんありがとうございます」
 「いえいえ、それより繭さんこれはいったいどういうことですか?」
 
 俺は胡蝶以外に生きている人形がいることに驚くと同時に胡蝶達『球体間接シリーズ』に対する謎がもっと深まった。
 
 「ワタクシも気になりますねぇ、繭氏よろしければ説明してくれますか?」
 
 黒田さんが促すと繭さんは起きあがって申し訳なさそうに話始める。
 
 「……今まで黙っててすみません、信じられないかもしれませんがこの通り夢見鳥は人形だけど生きています……私にも何で生きているのか分かりません」
 
 繭さんは視線を夢見鳥ちゃんに向けて続ける。
 
 「夢見鳥が家に届いた夜何の前触れもなく突然動き出しました、最初は驚きましたが直ぐに仲良くなりました」
 
 俺は繭さんの話を聞いて思った。
 
 ――俺と胡蝶の時と一緒だ、それに友人のいない繭さんにとってきっと夢見鳥ちゃんは心の支えになったんだろうな。
 
 繭さんは両手を出して夢見鳥ちゃんを優しく呼ぶ。夢見鳥ちゃんは今度はやさしく繭さんに抱きついた。
 
 「――あぁ、繭ぅ」
 
 夢見鳥ちゃんは幸せそうに繭さんに頬擦りする。
 
 「あはは、夢見鳥くすぐったいよ……話を続けますが今の状態になったのはあることがきっかけなんです――」

 そう言うと繭さんは過去の出来事を語ってくれた――。
 
 「――夢見鳥は良い子ね、何でも私の言うことを聞いてくれるんだもの」
 
 私と夢見鳥が生活を始めて一週間程経った。
 
 「夢見鳥は良い子だから繭の言うこと聞くー!」
 
 夢見鳥は元気にそう言って私に抱きついて来る。私は夢見鳥にやって良いことと悪いことを教えた。夢見鳥は外見は十六歳だが行動や言動は幼児のようだ。
 
 「もしかしたら命を授かってすぐだから精神年齢が幼いのかな? だとしたら私がお姉ちゃんなんだからしっかりしなきゃ」
 
 私は夢見鳥をいつしか友人と言うより妹のように感じた。
 
 そんなある日事件が起きた。
 
 私は大学生だから大学の授業に行かないといけない。今までは夢見鳥のために授業を休んでいたがそろそろ出席しないと留年してしまう。
 
 「ねえ夢見鳥、あなたお留守番できる?」
 
 私が尋ねると夢見鳥はきょとんとしながら私に聞く。
 
 「おるすばん? なんのことなの?」
 
 私は夢見鳥が意味を知らないことに不安に思った。
 
 「お留守番は私が帰って来るまで夢見鳥一人でこの部屋にいることだよ、夢見鳥は良い子だからできるよね?」
 「えっ、何で夢見鳥一人なの? 繭がいなきゃだめだよ!」
 「御願い夢見鳥、私はどうしても大学に行かないといけないの、だからお留守番して」
 「……やだ、やだやだやだ! 繭がいなきゃダメー!」
 
 私の言葉にショックを受けて、その日夢見鳥はひどく取り乱した。
 
 次の日の朝私はベットでぐっすり眠る夢見鳥を起こさないようにしてこっそり大学に行くことにした。授業中は夢見鳥のことが心配で不安だった。
 
 「……夢見鳥ごめんね、直ぐに戻るからね」
 
 私は大学の授業が全て終わると急いで家へ戻った。そして中へ入ると驚いた。何故なら中は朝よりもひどく散らかっていたからだ。
 
 まさか泥棒!?
 
 「夢見鳥ぃ!」
 
 夢見鳥が何かされてないか心配でたまらなかった。急いで当たりを見回すと夢見鳥がベットでうずくまっていた。
 
 「夢見鳥ぃ! 御願い目を覚ましてぇ!」
 
 私は思わず泣き叫んでしまった。
 
 「……ま、ゆ? ……まゆー!」
 
 すると夢見鳥は私の声に反応した。
 
 「夢見鳥、あなた大丈夫なの!?」
 
 私は夢見鳥を抱き締めて尋ねる。
 
 「繭……なんで……なんで夢見鳥の側から居なくなったの? 夢見鳥がいらなくなった?  繭を探してもどこにも居なくて泣いちゃった……」
 
 私は夢見鳥の言葉に胸を締め付けられた。
 
 「もしかしてこれは夢見鳥がやったの?」
 
 私はそう確信して部屋を見渡す。
 
 この日から夢見鳥は私が大学のほかにどこかへ出かけるときは情緒不安定になった。
 
 そこで私は考えた。
 
 「夢見鳥、私は毎日この部屋から絶対に出掛けないといけないの、あなたが寂しいのはわかるわ、だからこれをあげる」
 
 そう言って私は夢見鳥にハンカチを渡した。
 
 「繭ありがとう! わあ繭の香りがする!」
 
 夢見鳥に渡したハンカチはいつも私が使っていたもので、もちろん渡したときは洗濯したが何故か夢見鳥は私の香りを感じたみたいだ。
 
 これで私が居ない間ハンカチで夢見鳥が私を側に感じて少しでも寂しくないようにしてくれたら――。
 
 「――その事が今回の騒動の原因なんです」
 
 繭さんは語り終えたようだ。
 
 「原因ということは……まさか繭氏、夢見鳥たんは繭氏の香りを求めて」
 
 黒田さんの言葉に繭さんは頷き言う。
 
 「そうなんです、夢見鳥は寂しさをまぎらわすために今度はより強い私の香りを求めて部屋のあらゆるところを探すようになりました」 
 
 そうか、それで部屋がこんなに散らかってたのか。
 
 俺は繭さん納得して夢見鳥ちゃんを見た。夢見鳥ちゃんは繭さんに抱きついて香りを嗅いでいる。

 そういえば夢見鳥ちゃんさっきから手に布のような物を持っていたよな……。

 夢見鳥ちゃんが持っている物を改めてよく見ると夢見鳥ちゃんは手に白い下着を握りしめていた。
 
 ――え、もしかしてあれはパンツ!?
 
 「ま、繭さん夢見鳥ちゃんが握ってるそれって……」
 
 俺はどきどきしながら繭さんに尋ねた。
 
 「えっ? きゃあ夢見鳥! なんてもの持ってるの返しなさい!」
 
 繭さんは下着を取り上げようとするが夢見鳥ちゃんは素早く身をひるがえし逃げる。
 
 「やだ、だってこれがいちばん繭の香りがするんだもん!」
 
 夢見鳥ちゃんは今度は大切そうに胸の前で繭さんの下着を両手でやさしく包み込み言う。
 
 「夢見鳥みんなに置いて行かれて寂しくて悲しかったの……でもね繭のおパンツの香りを嗅ぐとね、繭に抱っこされてる気がしてホッとして眠ることができたの」
 
 俺と黒田さん夢見鳥ちゃんのあまりの衝撃発言に凍りついた。
 
 「いやああああ!!」
 
 繭さんは恥ずかしさに耐えきれず顔をかくして叫んだが直ぐに夢見鳥ちゃんから下着を取り戻そうとして詰め寄るが躓いて俺に向かって倒れて来る。
 
 「繭さん危ない!」 
 
 俺は繭さんを受け止めたが勢いを抑えきれずに繭さんと一緒に倒れてしまった。
 
 「繭さんすみません滑っちゃて支え切れませんでした」
 「私の方こそすみません大我さんを押し倒しちゃいました……あっ!」
 
 繭さんは俺の顔を見ると真っ赤になって黙りこんでしまった。
 
 ――繭さんの顔が近い!
 
 ――大我さんの顔が近い!
 
 俺達は倒れた状態でお互いに見つ合った。
 
 「私の大我に触れるなあ!!」
 
 俺と繭さんは突然の大声にビクッとなった。
 
 声のする方を見ると胡蝶がいきり立ってこちらを睨みつけていた。
 
 あーあ、おれは胡蝶に○されるな。

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