シリ婚~俺の彼女はラブドール!?
プロローグ
――とあるアパートの一室。
「……やっちまった」
俺はそう呟いた。現在心の中でやってしまった事への後悔の念と満足感が交互に湧き上がり何ともいえない気持ちになっている。それもこれも目の前に置かれている大きな箱が原因だ。しかもこの箱は狭いアパートの部屋の畳の上の大半を占拠してとてつもない存在感を放っている。
「はぁ……欲望に負けてつい手を出しちまった」
この箱、もとい中身の物を手に入れる為に何か大切な物を失ってしまったと思う。暫く箱とにらめっこした。
ミーン、ミンミン。
――季節は夏、外で蝉が鳴いている。さらにまだ昼間とあって外からムラムラと熱気が伝わり汗が染みだしてきた。生憎この部屋にクーラーなんてものはない。こうして箱とにらめっこをし続けていると、なんだか周りの物全てが俺に箱を早く開けろと急かしている感覚に陥った。
「だぁーっ! 何だってんだ畜生、みんなして俺を焦らせやがってこっちは心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてんだよ!」
自分以外誰もいないのにそうやって周りに何かいるふりをして一人で胸を押さえ悶え苦しみ、床をゴロゴロと転がった。
――暫くそうして落ち着くと今の状況を考える。
――そうだ、何やってんだ俺、何で目の前の箱の中身に関してに緊張してるんだ? 手を出した物に今更後悔しても遅いだろ、さっさと開けちまおう。
気持ちを入れ替える為に深く息をする。そうするとさらに落ち着いてクールになれる。
「ふぅ……俺としたことがこんなことで動揺するとは情けねえな」
やれやれとポーズをしながら格好をつけた。なんだか今の俺はイケてる。心が澄み渡り、まるで部屋全体が涼しくなったかのように感じる。思い込みの力は凄いものだ。
「全くどうしちまったんだ俺は……いつもの爽やかクールなイケメンが台無しだぜ」
そう言いながら短い髪をかき上げる。気分はまるで余裕を持ったイケメンだ。しかし傍から見たら唯のバカだ。
「――さてと、さっさと開けてみるか」
鼻歌を歌いながら何事もないように箱を開けて中を覗いた。
「うをっ……こっこれは!?」
箱を開けた中身を見た途端にあまりの衝撃で部屋の暑さを思い出し一気に汗がふき出てきた。この瞬間余裕を持ったイケメンはいなくなった。そうしてここまで俺を動揺させた物……。
――そう、それは高価で、一般では手を出しにくく、背徳感を感じるも物で、恋人のいない寂しい童貞を癒してくれる存在。
 『――美少女の人形、ラブドールだ』
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