グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第159話 中東が静止する日


 ――2100年6月08日16時00分 イラク 旧オシラク原子炉
 かって1981年にイスラエル空軍に破壊され、湾岸戦争で完全に破壊された原子炉。 フセイン政権が崩壊後は近くの研究所からイエローケーキ等の放射性物質が投棄された。 その為、癌等の被害が発生し多くの住民はここから立ち去っている。
 建物も瓦礫で覆われ誰もいないハズである。 米軍の偵察機も勘違いをしたのだろうか……。
 イヤ、彼らは正しい間違っていない。
 「さて、我々、浪漫部ろまんぶと宗教部《ジ―サス》部の活動が此処に実るのですね」
 『ええ、全ては神々という存在を引き出す為なのです』
 少年と巫女服姿の少女が話をしている。 彼らはどうやら、浪漫部と宗教部の様である。
 『それにしても、4年という間は長い様で短かったですね』
 「これだけの物を4年という短い間で揃えられのは凄いですね」
 『やはり、元の設計図と現物が有れば造るのは容易なのです』
 「なるほど……貴女達がイタリア開放後にスイスに向かったのはそういう事ですね」
 納得した顔で下の装置を見る。 巨大な八角形の虹色の構造物が姿を見せる。
 『ええ、大型ハドロン衝突型加速器の現物とデータが有れば造る事も出来る』
 「目的は、やはり神という存在を引き出す事」
 『ええ、神がいるならばこれだけの被害を止めるはずですからね』
 2人の前には直径10mの巨大な管がデンっと置かれている。 その管は円にして直径が8.6km、一周が27kmの巨大な物である。 中には……。
 『これが、我らの部長が造った物だ』
 映像の中には、翠色の水晶が鉄の容器に納められている。 納められた容器には放射線マークが描かれている。 それが今、彼らの映像には二つ映っている。
 『元は青森の六ケ所村と福島原発から得た物を部長が臨界状態にした物』
 「これを全て同時起爆させ高エネルギー同士を衝突させる」
 『浪漫部と物理部の理論では時空を歪める事が出来るとしている』
 「なるほど、異次元にいる存在を引きずりだすのですね」
 『出来れば良いんだけどね……』
 彼らが行うのは大質量のエネルギー同士を衝突させて小型のブラックホールを創る事にある。 宗教《ジ―サス》部は神という存在が異なる次元へいると仮定し穴を開ける事にしたのだ。
 「少なくとも物理部の最終的な理論では電磁パルスが中東全域を襲うと結論付け手を引きました」
 『そうなのよね、でも浪漫部は我々と歩んできたわよね?』
 「ええ、異世界は我々にとって浪漫ですからね」
 『異世界……小説によくある世界だわね。あると良いわね』
 そう言っていると2人の元に通信が入る。  どうやら、準備が完了した様だ。 宗教部の少女がマイクを手に取る。
 『さて、皆さん私の配ったお守りは持ちましたか?』
 「「「ハイ!」」」
 映像に映っている少年少女達は【蛙のお守り】を翳す。
 『では、先に戻っていて下さい』
 ピカッと光ると少年少女達の姿は消える。
 「さて、開錠しますか?」
 『そうですね、三、ニ、一で』
 2人はカウントを行いながら用意していた鍵を入れ捻る。 ドン、ドンとニ発の振動が起こり警報が鳴りだす。
 「さて、我々も帰りましょうか?」
 『そうですね、帰りましょう。我々には帰る家が有るのですから』
 2人は蛙のお守りを出し握るとピカッと光り彼らの姿は消えた。 彼女達が去った後の此処は恐ろしい事が起こり始める。
 臨界状態までに達していたそれは一度に開放され超高密度のプラズマと化す。 二つは管を破壊しながら巨大な円を周り始めある地点で衝突する。
 超高密度のプラズマ同士が衝突し瞬間、静けさが生まれる。 圧縮された中央に黒い点が生じるが直ぐに消失し、エネルギーはプラズマ化し各散し始める。
 これによる異変はすぐ傍のバグダットで起こる。
 「あれ、スマホが」 「車が止まったぞ!」 「信号機が!」
 そう、電磁波によって使われた半導体が破壊され始めたのだ。 それは上空にも影響を始める。
 「ここが、偵察場所ッツ機体に異常!操縦不能」 「メ―デー、メーデー操縦不能」
 上空を飛んでいた飛行機にも影響が出始める。
 「うぁあああ、メーデー、メーデー」
 飛行機は降下を始めながら街の中へ落ちて行く。 爆炎が上がり人々は逃げ惑う。 が、消防車も救急車も来ない。
 全てが動かない為である。
 これはバグダットだけに留まらない……。
 オマーンにアラブ首長国連邦、クェート。 全中東アラブへ電磁パルスは飛んで行ったのだ。
 「どうした?レーダーの故障か?」 「イヤ、ウンともスンとも言わない」
 中東にある、米軍空軍基地の担当兵士がレーダー聞きを叩きながら言う。 彼らの目の前に有る滑走路で離陸した機体が再び大地へ降下を始める。 降下と言うよりは、落下している様である。  滑走路に機体を擦りつけながら停止した。
 普通ながら現れる消防車もやってこない、動かない為である。
 「一体なにが起きている?」 「分かりまっせん!分かりません」
 兵士達言い合っているが彼らには分かるはずもない事である。 発生した電磁パルスは地上から這い上がり、周囲の電子半導体を破壊したのだ。
 「どうすれば良いんだ?」 「分からん!?上の指示を聞くしか」
 ドン、ドンっと音とがし基地の滑走路が爆炎に包まれる。
 「な、何が起きたんだ」 「て、敵襲!」
 武器を持った隊員が声を上げる。 バリバリっと銃撃の音がアチコチから聞こえ始める。 一体何者なのだろうか?
 銃撃音の下にはラクダに乗った髭面の男と少年がいる。
 「さて、予定通りに米軍基地は無効かしましたよ」 「どうやったかは、分からないが感謝する」 「依頼料は?」 「これだ」
 男はジュラルミンケースを少年に渡し少年は中身を確認する。
 「見事な1500年製の寄木細工ですね、ありがとうございます」  「あんたは一体何者だなんだ?」 「さぁ、我々は何でも屋です。では、さようなら」
 少年はペコリと頭を下げると男から去って行く。 そして、人気の無い通りで蛙のお守りを出し握ると少年の姿は消えた。
 これらの光景は中東の基地周囲でアチコチで見られる事になる。

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