グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第129話 スリーマイル島の危機 前篇


 それは、ゴア・ビル大佐と凛が話をする少し前の話し。 日本とワシントンの時差は14時間、半日と4時間ほど。
 ――2100年5月10日 6時00分 ワシントンホワイトハウス

 ホワイトハウス、世界で最も苛烈な政争を越えた為政者が座る椅子が有る白い家。 ここの地下室は核ミサイルの攻撃にも耐えられる。 現在、この地下室内には多数の政府高官が詰め対応に追われている。
 対応しているのは、突如暴走したスリーマイル島原発についてである。 スリーマイル島はペンシルベニア州ハリスバーグ近くのサスケハナ川の中州に存在する。 首都ワシントンからは、南に150kmしか離れておらず目と鼻の先にある。
 『NSA長官、原因は分かったのか?』
 「ハイ、大統領閣下。日本の旧三沢基地からのハッキングです」
 『ほぅ、あそこはビーストの侵攻の際に放棄されたと聞いているが?』
 「実は【とあるシステム】だけは、国家利益の為に稼働させていまして」
 『それは初耳だな』
 「ええ、存在していない物は閣下には報告義務が有りません」
 ぴくっとトーマス・エジソン大統領は頬を引きつらせる。 少しお怒りである事が容易に想像できる。
 『で、君は何を求めているのかね?』
 「かの基地のシステムを破壊をお願いしたいのです」
 『そのシステムの名前は?』
 「エシュロン」 
 エシュロンとはフランス語で、梯子を意味する通信傍受システムである。 世界中の電波を傍受し分析する盗聴機関である。 主体となって運用しているのは、国家安全保障局N・S・A
 『分かった……ただし、条件がある』
 「何でしょうか?」
 『今回の件で掛かる予算と責任は、国家安全保障局N・S・Aが持つという事』
 「分かりました」
 『分かればよい』
 そういうとNSA長官との通信を切る。 大統領は統合参謀本部議長へ三沢基地の姉沼通信基地を爆撃するように命じる。 傍らで彼が指示をするのを見ていると突如として通話回線が開く。
 「大統領閣下、NEO舞鶴からの戦闘機を出撃は辞められた方が良いですよ」
 『貴様は一体何者だ!』
 大統領の声に思わず室内の全員が映像に注がれる。 そこに映るは、米国の宿敵であった旧ソ連の建国者であるスターリン。 の仮面を付けている。
 「わが名はスターリン。今回の件を起こした者である」
 『貴様!!一体何をしているのか分かっているのか?』
 「勿論、米国とのテロとの戦いをしている」
 ここでのリンは、共にのwithを使っていない。  向かい合い敵対という意味で、toを使っている。 日本語の音感というのは恐ろしい、区切る所次第でどちらにも取れるのだ。
 この言い方をするのは世界では一つの地域、一人しかいない。 グンマー校の書記である妙義凛みょうぎりんである。 群馬警備グンマー・ポリス統合部・ユニオン、通称GPUゲーペーウーの統括をしている。 彼女によって、世界中で米国とのテロとの戦いが起きているといっても過言で無い。
 『我が国とテロとの戦いね……その言葉は私が知る限りでは、たった一人しか使用しない』
 「あら、大統領閣下?私がやったと証拠でもあるのかしら?」
 『無いが何時かは尻尾を掴む!』
 「あら、いつまでそんな事を言ってられるかしら?」
 スターリンの映像から、白青赤のロシア国旗が映った兵器が映る。 その兵器と一緒に映っているのは中禅寺湖。
 「これは、対ビースト様のPKOロシア軍製の対空ミサイルS-400 (ミサイル)」
 米国でいうと所のパトリオットミサイルである。 パチッと指を鳴らすとそれが発射筒が垂直に動き爆炎を上げ飛んでいく。 やがて、今度はミサイルから送られてくる映像に変わる。
 「さて、向かう先には何があるでしょうか?」
 『ま、まさか』
 あっという間に光る景色が変わりNEO舞鶴要塞が映る。 突如として映像は消え、また別な視点に変わる。 こんど映るのは、空に上がる爆炎。 要塞の周りは、装甲車や兵士達が慌てながら動いている。
 「あーどうやらNEO中禅寺湖のPKO参加のロシア軍が、NEO舞鶴へ攻撃し掛けた様ですね」
 『貴様の要求は何だ』
 「姉沼通信基地を破壊しない事」
 『何故それを希望する』
 「だって、私が世界中にハッキングできないから」
 『っという事はスリーマイル島の件も貴様か?』
 「さぁ、優秀な人材が豊富なのだから調べたら?」
 ビキビキっと大統領の額に青筋が入る。 超絶ゲキオコプンプン丸になった様だ。
 「まぁ、貴方の会社にとってはマイナスでは無いとおもうのだけど」
 『どういう事だ?』
 「スリーマイル島はゼネラル・エジソンG・E社のライバル社よね株価は」
 グラフにはナイアガラの滝の様にガクッと株価が下がっているのが示される。 逆にゼネラル・エジソンG・E社の株価は上昇傾向にある。
 「あの方はちゃんとライバル社の株を空売りしているわ」
 空売りについて説明しよう。 ある首席が証券会社から株を借り、それを市場で1000円で売る。 首席は株を売った代金1000円を得る。 後日、当該株価が下がり市場で同じ数量の株を代金900円で買い手に入れる。 この900円で買った株式を証券会社に返却する。 差額の100円が首席の手元に残り、これが首席の利益になる。
 『なんだと……そういう事か……』
 エジソン大統領の額から青筋が消え声も穏やかに戻る。  どうやら、政治家から投資家という考えに至ったようだ。
 「あの方は、貴国の中東地域における戦費不足を心配しているわ」
 『た、確かに我が国は中東地域の戦争の為に、戦費が不足している』
 「どうせ、脳筋軍人どもは平和の為に教育費と社会保障費を削れって言ってるでしょ」
 ビキッと音を立てて青筋を立てたのは、制服組の軍人達。 一応彼ら的には、知的軍人インテリジェットアーミーという認識だったのだ。 それを真っ向から否定されてプチ切れているのだ。
 「彼らは弾だけを撃ち、戦場の業火を楽しんでいる」
 『我々の国にも事情という物があってだね』
 米国は世界で最も軍事力を持っている。 同時に、世界最大の軍事企業を有している国家である。 100年に渡ってそれを維持して来た・・・。 段々と過去形に成って来ているが、現在でもそうである。
 「我々もまだ中東で戦争を止める気は無いわ、戦費は調達したから継続よ」
 『やはり……貴様は我々の敵だな!!』
 「イヤ、米国とは友達でいたいけど陸軍以外の軍部とは相容れないよ」
 『まだ、5年前の件を根に持っているのかい?』
 「あの方は既に興味を失っているけど、我々は貴方方を許しはしない」
 この場にいる誰もが【グンマー校首席暗殺未遂事件】と理解する。 この件は世界の歴史に名を残す大事件であり、米国の世界戦略を根本から覆す結果となった。 あの方というのは、グンマー首席の事である。
 「でも、一方的に利益を享受するというのはスポーツマンシップに反する」
 『どういう事だ?』
 「あの方も甘い……敵に塩を送るなんて……」
 ブツブツ言いながら、世界地図を表示させる。 表示された世界地図の中でドイツが表示され赤点がポツポツと有る。 点は矢印を描きスイスに集まっていく。
 「ドイツ国内に放棄されていた紙幣・証券と金銀財宝を欧州観光団が集めてスイスに集めました」
 『私は初耳だな』
 「ええ、中高校生の旧ドイツ修学旅行なのであの方は知らなかった」
 『あの方も私と同じ様だな』
 「ですが、気がつかれましてドイツに返す様に言われ調査をしましたが、持ち主は全員死亡していました」
 ふっと仮面の主は目を笑わせて大統領を笑う。 【ウチの首席は、あんたとは違ってわかるんだぜ】っと言っているようである。
 「で、凡その総額が50兆円程です。米国は独逸からの移民が多いので、寄付しようかと」
 『ただで返す訳で無いよな?』
 「ある人物を招聘し、彼に原発を止めさせその功を持って彼を原隊に復帰させ、中東で仕事をさせる事」
 『どういう事だ?訳が分からない』
 首をひねる大統領に笑いながら仮面の人物は話し始めた。

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