グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第111話 運命の空 前編


 ――2100年4月28日18時30分 相模湾上空
 エアバスA380は、尾翼と油圧系を失い操縦不能に陥っている。 油圧系を失った場合でも、機体を操作する方法はある。
 「右エンジン出力を低下させ、左エンジン出力を上げる」
 「機長!回頭するつもりですか?」
 「マニュアルだとそうなっている」
 「機長分かりました、右エンジンを低下!左エンジン出力上昇させます」
 「チェック、機体の回頭を確認」
 ガタガタと嫌な揺れをしながら、機体は180度の回頭を始める。 下手をしたら機体の制御を失い、墜落してしまう所である。
  『こちら、管制塔。JANAL123便聞こえるか?』
 「こちら、123便。聞こえる」
 『NEO埼玉から着陸許可が降りた、以降は米軍の管制塔指示に従う様に』
 「了解した、感謝する」
 機長は安心し、少しほっとした顔になる。 しかし、その安心はつかの間であった。 ドンっと音がし、モニターが赤く表示され機体が右側に傾く。
 「一体何があった?」
 「機長、ファーストクラス付近で異常自体です」
 「状況把握の為に、キャビンアテンダントと会話は出来るか?」
 「分かりました確認します」
 副機長は、固定電話を手に取り通話を試みる。 暫く呼びかけるが、受話器を戻す。
 「ダメです!連絡が出来ません」
 「見てこい!」
 「分かりました」
 副機長が操縦席の扉を開ける。 ヒューっと冷たい風が頬を撫で、信じられない光景が目に入る。 ファーストクラスが消滅していた……イヤ、天井が無くなっていたのだ。 そこにいた、客達は天井から投げ出されたのか姿を消していた。 そして、ここは巡航高度の24,000ft(7200)m。 アッという間に、低酸素状態になる。
 「機長!マスクを……」
 「……」
 酸素マスクを付ける前に、急激な減圧で2人は意識を失った。 ファーストクラスで一体何が有ったのだろう?
 事が起こる3分前に時間を戻す。
 ファーストクラスの中は、護衛官達が倒れた男達を囲んでいる。 一人は失禁・脱糞し、もう一人は頭がパーンとなり消失している。
 「死んでいる……一体何が起きたんだ?」
 「わからん、突然に頭が吹き飛んだ」
 「博士の持っていた書類は無事か?」
 「ああ、此処に……ケースは何処に行った」
 『それなら、此処に有ります」
 声の方を見ると、左手に銀色のアタッシュケースを持った男がいた。
 『我々が回収しましたので、安心してください』
 「「「!!!?」」」
 咄嗟に周りの警護官達が、銃を仲間だった男に銃を向ける。  彼等は男を知っているからこそ、男がその様な言葉を言わない事を知っていたからだ。
 「貴様は何者だ!」
 『まぁ、どうでも良いじゃ無いですか?皆さんどうせ死ぬのですし』
 男は、右手に持っていたボタンを押す。  ドンっという音と同時に、機体の天井に穴が空く。 与圧が無くなり、アッという間に護衛官達と男は空に吸い込まれる。 勿論、死体と一緒になっていた一般人男性も吸い込まれていった。
 24,000ft(7200)mでの急減圧、から放り出されるとどうなるか? 鼓膜が破れ肺が破壊され、血栓ができ死に至る。
 外に放出された男達と一般人男性は、死亡した。 生き残っていたのは、一人の男。
 男は一人空を舞いながらスマホを取り出す。
 『こちら、GPU007。現在位置を把握しているか?』
 「こちらGPU運送。勿論把握している。そのままで居てくれ」
 『了解した』
 「いま、お前さんの下に来ている」
 ごばっと雲海を切りながら現れたのは、An-225、ムリーヤ。 グンマー校が主に使っている機体である。 今回の機体は、黒地に金色では無く銀色をしている。
 男が機体の上部に立つと立った所が、奈落の様に下に下降する。 同時に、機体は姿を忽然と消した。 何とこの機体は、光学迷彩機能が付いている様だ。
 「お疲れ様、例の物は?」
 『ほぃ、これだ』
 男は銀色のアタッシュケースを言葉を掛けた少女に渡す。 パチンっと蓋が開けられ、少女は中身を確認する。
 「中身を確認しました」
 『これで、凛書記も安心だろうな』
 「そうでしょうね、適合者フィッターごとの特性を秘匿出来ます」
 そう小保方春男おぼかたはるお博士が持っていたのは、適合者フィッターの情報。 数年前までに話題になっていた適合者フィッター管理条項コントロールプロヴィジョン法が関係している。
 適合者フィッター管理条項コントロールプロヴィジョンは、適合者フィッターの能力を纏めデータ化を目指す条項。 ビーストとの戦いへ共闘する為に、各校の適合者フィッターの情報を纏めようという物。 日本のみならず、米国と合同で考えられていた条項。
 体裁上はビーストとの戦いの為となっているが、実際はグンマー校の情報を引き出す条項。 適合者フィッターを管理するだけでは、グンマーも否定するがビーストの戦いなら否定出来ない。 グンマーの反発は必死と思われていたが、300箇所の修正を条件に受け入れた物。 ただ、修正箇所は条項を無効にする物であった。
 そして、電子データが何者かにハッキングされ破壊されるとう事もあった。 が……10年前の子供達のデータは紙媒体で残っていた。 多くの子供達は、群馬独立戦争グンマワーで散っていった。 75%のデータ役は立たないが、25%のデータは非常に役に立つ。
 25%の殆どが、グンマー校と首都圏校の子供達のデータだからである。
 『我々が十歳時のデータが残されているとはね』
 「関西勢、イヤ米軍に悪用される訳には行きませんからね」
 『で、僕の仕事は終わりかな?』
 「次の任務が有ります……」
 少女は別な銀色のアタッシュケースを持ってくる。 男は中身を確認しながら、怪訝そうに顔を傾げる。
 『これは?紙媒体のデータ』
 「ハイ、全データが偽りと欺瞞で作られてます。これを売って来て欲しいのです」
 『ナルホド、ナルホド。書記殿も本当に性格が悪い』
 「次の任務地は、愛知県になります。次の変装用の指輪です」
 少女は男に指輪を渡す。 男は付けていた指輪を離すと、少年に変わり再び別な指輪を付ける。 少年はアメリカ人の様なケツあご男に変わった。
 「演劇部だから大丈夫かと思いますけど、言葉使いはヤンキー的な感じでお願いします」
 『イェス、ウィーキャン!アメリカアズナンバーワン』
 「そんな感じでお願いします。名古屋には一時間後に降下して貰います」
 『オーケー!コーラーとハンバーガをイートしたい』
 「ハイハイ、アメリカンさん。ピザとコーラで我慢して下さい」
 少女はトレイに置かれたピザとコーラを渡す。 その間に機体は高度を上げながら一路、名古屋を目指す。

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