グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第74話 少年の初任務と襲撃 中編★


 ザザーっと水が流れる音が河川敷に響く。 河川敷にいるのは、鉄斎少年と先輩に謎の少女。
 「君は一体、何者なんだ?」 「鉄斎逃げろ、この女は不味い」 「何がですが、先輩」
 言いながら、2人は少女と距離を取る
 「元グンマー生なら知っているだろ?」 「誰をですか?」 「地獄の傀儡師ヘルマリオンだよ!」 「分からないです」 「そうか……中等部だったもんな」 「アイツは、数百万人を殺した悪魔なんだよ!」
 鉄斎は、少女の方を見る。 嫌な気配を感じる、魔性の女という言葉が相応しいと思った。 そう思っていると少女は、河川敷に歩いて行き水の中に手を入れた。
 「逃げるぞ、鉄斎」 「ハイ、先輩」
 目が合わなくなったタイミングで走り出す。
 『逃がさないよーー』
 少女の声がし、鉄斎少年は右膝に痛みを感じた。 痛みの元を見ると魚が刺さった。
 「いったーーー」
 思わず痛みで、声を上げ倒れる。
 「大丈夫か鉄斎!」 「ええ、何とか、ぐはっつ」
 今度は、左肩に痛みを覚えた。 痛みの先には、魚が刺さっていた。
 『生態系は命の紡ぎで出来ている。人間はその食物連鎖の頂点にいる』 「貴様っつ!!」
 先輩少年が怒鳴り声を上げ、少女の方を見る。 少女の周りには、多数の釣られた魚が宙に浮いている。
 『たべりゅ?』 「誰が食うか!」 『お残しは、行けませんね』 「ぐほっつ!」
 多数の魚が、先輩少年の躰に刺さる。 致命傷では無いが、躰中から血が流れている。
 「先輩っつ!貴様っつ!何が目的だ」 『そうだね、今の時間を覚えておいて欲しいんだ』 「今の時間だと?」
 鉄斎少年の時計は、2100年4月22日09時30分であった。
 『では、では、さようなら』
 少女は糸が解れる様に消え、姿を消した。 緊張の糸が切れた鉄斎は、意識を失い倒れた。
 ◆  ◆  ◆
 その頃、東京検察庁。
 「早く出ろ」
 「ハイハイ、何で私がこんな所に」
 老人が呟きながら、黒い高級車から降りてくる。 最高裁裁判員の男で、先程の怯えた老人の顔は無い。
 (まぁ、無罪になって過ぐに出てきますよ)
 思いながら、男は余裕の顔を浮かべる。 怯えた顔は、対外向けの弱い老人をアピールする為。
 各メディアの読む層は、自分と同じ年配層。 誰だって、同じ様にスネに傷を持っている。 その層なら、自分に同情をしてくれると計算していたのだ。
 (裁判は何時でも判例主義、だから軽い罪で出てくるのさ)
 ヒュンっと音がし、横に立っていた男が倒れる。
 「銃撃だ!」 「狙撃だぞ!」 「護衛対象を守れ!」
 黒服を着た男達が老人を守る。 そのまま、検察庁内に連れられていく。
 「ここで、待っていて下さい」
 「は、はい」
 応接室の椅子に、老人は1人残される。
 (犯人は、あの映像の関係者か?イヤ家族も居ない)
 あの乱痴気パーティに老人は参加していたの。 招かれたのは、多数の上級市民達。
 老人は、パーティの内容を調査していた。 パーティで使われる少女達は、親も親戚も無い孤児で有ると確認した
 (だからこそ、壊れるまで遊べたのだ)
 股間んのイチモツが、ムクムクと成長を始める。 
 (我々は、上級市民。下民を裁ける唯一無二無の存在)
 そんな事を思いながら、目の前に淹れられたコーヒに手を付ける。 付けたが、疑問が起きた。 果たしてこんなコーヒは、最初から有ったであろうか?
 「誰かいるのか?誰か!」
 椅子から立ち上がり声を上げるが、返事は無い。 ガチリっと音が老人の背後でする。
 『さて、お仕置きの時間です』
 少女の声がし、硬い物が背中に当たる。
 「何者だ!何を求める!」
 『貴方の命だよ!』
 「死んでたまるか!」
 振り返りながら、拳を振り上げる。 が、後ろには誰もいなかった。 タンっと音がし、老人の胸に何かが当たる。 思わず胸を触るが、何とも無かった。
 「フフフ、子供だましなっつ!」
 老人の手が、勝手にコーヒーカップに向かっていく。 カップを取るとそのまま口に当てられる。 
 「ググなんだばばばば」
 口が勝手に開き、コーヒーが入っていく。 その後は、口から泡と血を吐きながら老人は恐ろしい形相で死んだ。
 『先ずは、1人目』
 手袋をした薄い紫のツインテールに、紫の瞳をした少女が呟く。
 <a href="//19656.mitemin.net/i235762/" target="_blank"><img src="//19656.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i235762/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
 『老人達はいつだって、遺書は紙が大好きなのよね』
 恐怖の顔をした老人に呟きながら、懐へ紙を入れる。 最後に、外に銃を向けパスっと音をさせる。
 そこに、少女の姿は無く老人の死体が残された。 時計の針は、2100年4月22日09時30分を指していた。

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