10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 ゲートでヨルムンガルドへ飛び、すぐに一星を呼び出し開戦の旨を話す。
「一星今回はすまんがヨルムンガルドを守ってくれ。」
「あるじぃ、今回だけだよ?特にあの柴田とかいう奴達との戦は絶対留守番しないからね」
「あぁ、わかった。時田さんはどこにいる?」
「あっ、集落かな?今日は見てないけど」
 海の見渡せる丘の上で水平線に浮かぶ太陽に照らされながら眩しさに目を細め悲しそうに告げる一星を見て申し訳なくなった。
 やはり戦いたいのだろう。 その力は今回温存してもらう。 大国二国を飲み込む為には、数と圧倒的武力で蹴りをつけたいからな。
「主様、時田殿は学び舎にいるようです。」
「そうか、二星お前達は急いでロウエントに向かってくれ。食料はこの指輪に入れてる。どんな時でも腹一杯喰って全力で暴れてこい。」
「仰せのままに」
 リャンシェン達の竜は転移プレートを嫌うからな、今から向かって貰った方がいいだろう。
 一先ずは学校だ。 時田塾と陸戦部隊の編成は時田さんに丸投げして、俺は弾丸の量産に入るべきだろう。
 今回は全弾丸に衝撃爆発ショックエクスプロージョンを施した弾丸を量産しよう。
 亜人獣人がどれ程頑丈かは知らぬが一撃でゴリラを塵にするぐらいの威力にしておけば安全性は上がるだろう。
 なんだったらリヴァイアサンの骨で変わり種の弾丸を作るのも面白いかも知れない。
「たのもー!!」
「これはリブラさん!」
「ロウエント・ビーステイルダムを落とすぞ、至急準備をしてくれ!期限は3日。」
「またそれは急ですな、此方も話す事がたくさんあったのですが…」
「なんかあったのか?」
「実はですね……」
 そこで今回の顛末を聞く、まぁ勝手に軍を出した事についてはコツンと時田さんに拳骨だけで許した。 事が事だからな。 シェルルには後から口八丁で色んなもんぶんどってやろう。
 結果は圧勝でってとこまではいいけど、時田さんが造った陸用爆弾の威力については首を傾げる部分があった。
「時田さん、今弾丸作れるか?」
「えぇ、勿論です」
 時田さんがダウンロードした弾丸を89式突撃銃の弾丸5.56×40mm NATO弾を校舎の窓から外に向けて撃つ。
 弾丸は着弾と同時に轟ッと音を立て衝撃波と共に地面を抉った。
「おかしな事になってるな。」
「えぇ、恐らく何らかの力が働いてそうです。先程も申し上げた通りたった120発の陸用爆弾でノースウォールはマグマの海に変わりましたから。もしリブラさんに術式の重ねがけなんかしてもらってたらと思うと。
「いいな、おい。いいじゃんかよ!時田さん!これ量産してくれよ!俺がこの弾丸全部に衝撃爆発の術式をかけるから!」
 だめだ。 テンション上がりすぎてガキみたいな喋り方になってしまう。
「過剰兵器になりませぬか?」
「まぁ、それもあるな。けどその辺自重してこっちの戦力に傷が行くのもアホ臭いだろう?それに、ここまで来たら追跡者も何もかも組み伏せてこの大陸いただいてしまおうかと考え出したんだ。」
「ほう、それはまた何故?」
「んー、面白そうだから?」
「……ははは、まぁ、私はあなたについて行くだけです。やはり私が生きる場所は常に戦乱のようですな。この時田平蔵、命果てるまであなたと共に血塗れの覇道を歩みましょう」
 優しく頭を下げた時田さんは一斉にダウンロードを開始する。 ノースウォールにも顔を出そうかと思ったが、シェルルの事なら向こうから礼でもしにくるだろう。
 最悪出兵が完了したら俺だけ顔出してもいいしな。
「なんせ今はこの作業を終わらそうかと!」
 不思議と割り切ったらスッキリした感じがする。 こっちはゆっくりしたいのに、いっつもいっつも戦争戦争。 それならいっその事一つにまとめたら楽になるだろ。 そう考えるとやけに楽になってきた。
「ふははは!俺が楽する為にちょっとだけ働いてやる!!」

 3日過ぎると流石の時田さん、きっちりと部隊を分け3万を超える軍勢を纏めてくれた。

 この人は鬼だわ。
「ではこれより転移プレートにて転移。速やかに制圧。その後ロウエントに回る兵はロウエント首都に集合、ビーステイルダムに回る兵はビーステイルダムに集合。その後南下し、敵本体を討つ。なお各都市は主力を欠いている状態だ。焦らず冷静に速攻で落とせ!以上!」
 作戦開始だ。
 時田さんも陸戦訓練として空軍一同今作戦に於いては地上戦に参加するようだ。 まぁ、こっちが本気出すからには余裕だろう。
「じゃあ時田さん、後でビーステイルダムで会おう。俺はノースウォールでシェルルに会ってから向かう」
「了解」
 結局シェルルは来なかった、何か嫌な予感がした頃には遅かったのだろう。 ノースウォールの転移プレートに乗ってみると転移が出来なくなっていた。
「ライ、頼む!飛ばしてくれ」
 ライの背に乗り空を駆る。 まるで空間を抉り取ったような速度でノースウォールに到着すると、無人の城と無人の街だけが残っていた。
 街があったであろう場所におびただしい数の墓が立ち並び、誰一人として存在していない異様さに寒気を感じた。
 そこに国があった事すら形跡だけしか残っていないのだ。
 何故?
 時田さん達の空襲で戦は終わったはずだ。 何が起きた?
 国を捨ててまでする何かが起きたのか?
 それから暫くの間街中の民家を探し回り、最終は城の中を回ると人を見つけた。
 しわくしゃに枯れた老婆だ。
「何があったのですか?」
 老婆は虚ろい目を向けて、消え入りそうな声で呟いた。
「…ろ……して」
「何言ってっかわかんねーわ」
 高位の治癒魔法を施し、仮想体カプセルを口に入れ生活魔法で水を流し込む。
 直後、髪の毛をプラチナブロンドにしたシェルルを大人っぽくした女性が自身の手を表裏と見て起き上がる。
 大人の魅力倍増のシェルルを見てピンと来た。 この人はシェルルのオカンではないかと。
「あなたは………あなたは何故死を求めた妾にこのような所業を……」
 美しい女性は困り眉で虚ろにこちらを見つめてくる。 そんな事言われてもだ。
「いや、何喋ってるかわからなかったから。そんなのどーでも良くてシェルルとかみんなは何処行ったんだ?」
「あの子は…ここノースウォールの地を捨てて何処かへ行きました。理想郷だとかなんとか…」
 なにそれ。 シェルルおかしくなってんじゃねぇか。
「その理想郷の呼び名とかわかります?」
「確か…シエルクラティアと」










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