10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

29

「うん……あれ?」
「起きたか?」
「あっ…リブラさん…ですよね」
 写楽が目を覚ました。 かなり長い時間起きなかったが、色々と考えを纏めていた為に俺からすれば、あっという間だったと言えるだろう。
「他の奴らは一階で寝ている。どうだ?なんか変わったか?システムウィンドウを見せてくれ」
「えと…あっ、はい。ってあれ?システムウィンドウってなんでしたっけ?」
 そこまでか。 最悪本体の記憶が無くなるぐらいは考えたが、自身に練りこまれた術式まで忘れるのか…。 いや、使い方を忘れているだけか?
「お前の力やクエスト、後アイテムボックスなどが表示されるのがあっただろ?」
「あぁ!やだなリブラさん!そんなの小さな子供でも出せるじゃないですか!!」
『我に宿る力よ、神の目で映したまえ』
 少しノイズが入っているがシステムウィンドウは使える。 だが、こんな詠唱などは必要としていなかったはずだ。
「少し見せてくれ」
「……特別ですよ?」
 やはりクエストの一覧は消えている。管理からは逃れる事が出来たと考えていいだろう。 だが、言い回しがおかしい。
「お前は違う世界の事を覚えているか?」
「うーん…確かに追跡者の使命に駆られている時は、先祖の記憶に乗っ取られてましたけど…いや、あれは俺なんですかね?あれ?いや、あれは確かに俺ですね?でも……あれ?うーん。」
 記憶があやふやなまま会話が成立しなかったが、結果は写楽の記憶は戻った。 翌日まで自問自答を繰り返し気を失うように眠ってからは記憶は修復され、管理からも外れたままになっていた。
 そうと分かればと、全員の繋がりを断ち切った。 これで本体に戻れなかったら?知ったこっちゃない。 まずはこいつらを俺の研究材料として手元に留める手段が最優先事項だ。
 何度の夜が過ぎたか、俺は6人のサンプルを元に研究に没頭した。
「よし、カルマ。男達を呼んできてくれ」
「お言葉ですが主君…少しお休みになられた方がよろしいかと…ここ数日、食事も睡眠もろくにとられず…その…」
 両手でスカートを握る様子は女の子のそれだ。 可愛いのはこの際認めよう。 心配してくれるのは嬉しいが邪魔はしないで欲しいのが素直な意見だ。
「……っ、申し訳ござりませぬ、すぐに呼んで参ります」
 口答えをしてしまったと思ったのか、カルマは泣きそうな表情を浮かべたままに踵を返し部屋から出て行ってしまう。
「後少しで完成しそうなのだがな。」
 始まりはお調子者のスーシェン、東蛮の小鬼達をまとめるゴブリンが言った一言が始まりだった。
『主がゴブリンになれるなら俺達が人間になれるので?』
 衝撃の一言だった。
 理論上は可能だ。だが、俺の探究心は単純なアバターを与えるなどと安上がりな事はしたくなかった。 6つの新しい生命体のサンプルが揃っているのだから、同じ流れを組む仮想体が作れるはずだってね。 6人に似た仮想体は簡単に作れたが、やはり機能がまるで違う。 従来の方法をトコトンやり尽くしたが、俺の納得行く結果は出なかった。
「失礼致しまする、こちらに」
 すっかり見慣れた、拳闘士モンクの写楽、鍛治師のトキタサン、剣士のメントスだ。
「失礼します」
「…し…ます」
 そして深く礼をする男。
「急に呼び出してすまない、少し難儀な願いがあるのだが、これにお前等の精子を入れてきてくれないか?」
 三人は口を開けたまま固まっている。 まぁ、予想通りの反応だ。
「驚かせてしまったかな?でもお願いしたいんだ。」
「「「………………。」」」
 そこでカルマのナイスアシストが飛び込む。
「ボケっとしとらんとテナニーしてこんかい!!」
 絵的にはカオスだ。 幼女がビシバシ蹴りながら自慰行為を促す様に苦い笑いがこぼれた。
 先日に女性陣から採卵を済ませている。 成熟卵胞では無く原始卵胞の採取だ。 次にするのは人工受精をして、完成した幾つかの素体をベースに魔素構築仮想体の器を作成する作業だ。 本格的な受精では無く、器としての受精をし、成長を促すのだ。
 そこで完成した自我の無い空の器に魔魂憑依をする事で、ゴブリンの性格や得意性を吸収した魔素構築仮想体が出来るはずなのだが。
「自分で試すのめっちゃ怖い。」
 何せ前例が無いのが一番に、可能性として魔魂の剥離が出来ない可能性がある。
 だが、約一週に渡る研究の多大なる成果を祝し、今はゆっくりと眠ろうと思う。
 そしてひそかに誓う。
 英雄乱生を利用し、俺の邪魔をする者達にいつか痛い目にあわせてやろうと。




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