平和の双翼

羽瀬川 こなん

3話

「私とルンヘックは帝都へ戻る。それまで駐屯地で待機だ。指揮はクルハッツ中尉に委任する。何かあれば無線で報告するように。」
「はっ!」


敬礼は祖国への慈愛の表れだ___。
これは、私がこの大隊に所属した際に少佐殿から最初に教わったことの一つだ。
頼もしい2人の背中を見つめる。
あれが私より年下なのだから、人生何が起こるか分かったもんじゃない。


「中尉。私達も夕食をとりましょう。」


後から声をかけてきたのは、イリス・エヴァルト魔導中尉。私と同じ、この大隊を率いる副隊長である。
彼女とは同期で、特別仲がいいという訳では無いが、戦地に足をつけるものは皆男が多い。そのためか、勝手に親近感を感じている。


「そうですね。」


部下にこれからの予定を告げた後に私とエヴァルト中尉は駐屯地内にあるテントの中へ歩みを進めた。


『この書類...。アダウィンが砲撃観測を経て得た情報だ。お前ら、よく目を通しておけ。』


エーベルヴァイン少佐殿の言葉が脳裏で浮かぶ。分厚い書類を手渡された訳だが、さてこれはどういう意味だろうか。次のお相手はまさか____。


「少佐殿は、一部始終を魔装で記録したそうですね。」
「...ええ。」


ペラペラとめくりながら稀に目に入るのが、魔法制御装置に記録され投影された写真の数々。どれもこれも、初めて見る兵器だ。機体は然程大きくないが、緻密な性能が隠されているような、そんな感じがした。


「...これは...」
「恐らく、敵の技師は特別な技術を持つ者...」
「放置しておくのは危険ということでしょうか...」
「......」


その質問に返答する力がなかった。これでも私は幾多もの戦争を経験してきた方だ。それはシェーンベルク少佐殿やエーベルヴァイン少佐殿も同じ。だからこそ、目に入ったのだろう。この異様な兵器を。しかし、それが必ずしも性能が高く危険な兵器とは限らない。たまさか、外形が妙竹林なだけでロークオリティやもしれぬ。


「ただ唯一はっきり言えることがある。」


唾を飲み込む。
あぁ、そういえばあの時、
少佐殿の目は、初めて面白そうなものを見つけた少年のような目をしていた___。
熟と考えてみろ!
私たちの少佐殿は、そういう人だ。


「次の対ハルネスは、油断ならない」
「...」


ハルネスが背後にいる国に対してもそう言える。奴らが支配下の者に何を入れ知恵し、手引きしているか予想も付かぬこの現状で出来ることはこれしかない。
そして、少佐殿は破壊の限りを尽くすだろう。私たちはその少佐殿を眺めてはいけない。否、眺めてはいられないのだ。飛び散る火花をその身で直接受けないよう、必死に乱数回避機動を展開する他ない。そのような理由から私たちは油断ならないのだ。


「魔法防殻の強化に努めなくてはなりませんね」


苦笑いを含めながらエヴァルト中尉が言った。


「私から皆に伝えます」


私も苦笑いで返す。


あぁ、少佐殿。
湯船にゆっくり浸かることが許されないこの戦場で、空間爆裂術式だけは使用しないでください。髪の毛がギシギシになり、数日後には鳩が住み着いてしまいます故。

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