悪役令嬢は麗しの貴公子
4. 日常と名前
 あの後、お父様と一緒に遅めの夕食を食べて部屋に戻ろうとした時、お父様がサラッと言った。
 「これまではクレアのこともあって、ローズの存在は親族にも公開していなかったが、状況が状況だからね。ローズの社交界デビューは、来年の建国記念日にしようか。」
 .........お父様、来年の建国記念日までもう約1年しかないんですけど? 分かってて言ってます?
 「勿論、分かっているさ。私はローズを信じているからね、頑張りなさい。」
 どうやら、私は思いっきり顔に出してしまっていたようだ。ポーカーフェイスの上手な作り方を、後で執事長のセリンにでも聞いておこう。
 そんなことがあってから早数ヶ月。
 私は今、本邸のダンスホールで講師の先生に紳士式のダンスと社交の場で必要なマナーレッスンを教わっている。
 「はい、そこまで。ロザリー坊っちゃま、たいへん素晴らしい出来でございますよ。」
 「恐縮です。」
 紳士式のマナー自体は、前世の時とほとんど同じでそれなりの知識もあった為、なんとか形になっている。
 ダンスも現世の私が淑女式のレッスンを教わっていた頃、相手をしてくれたセリンやお父様を手本にしてやっている。
 「はい、それではもう一度最初から。これで最後に致しましょう」
 「はい!」
 お父様があんな無理難題を押し付けてくれたおかげで、私は毎日多忙な生活を送っている。
 お父様が言っていた建国記念日まで、1年を切っている。なんとかダンス、礼儀作法、剣術、馬術、座学、その他諸々を完璧に仕上げなければならない。
 そして、ルビリアン公爵令息としての私も完璧に仕上げなくては。今現在、私の正体が令嬢である事実を知っているのはお父様とルビリアン公爵家に仕えている優秀な使用人一同のみ。
 ちなみに、講師の先生達は私の正体を一切知らされていない。これは、お父様が少しでも早く私が完璧な令息になれるよう取り計らってくれたからである。
 
 私は本日最後のダンスメニューをこなしながら、今後のスケジュールを確認した。
 今やっているダンスとマナーレッスンが終わったら、昼食を挟んで午後からは剣術のレッスン、その後は夕食と入浴を済ませて明日の座学の予習。
 前世でも多忙にしていたけど、まさか生まれ変わってまで多忙を極めることになろうとは…。
 最近は自室に篭って勉強していると、マーサに休むように言われることも多くなった。心配してくれる気持ちも分かるし、出来ることなら私も休みたい。
 だが、今は1分1秒も無駄には出来ないのだ。
 ダンスレッスンが終わり昼食をとっている間にもそんな事を考えていたせいだろう。食後のお茶の準備をしていたマーサが、心配そうな顔でこちらを伺ってきた。
 「坊っちゃま、如何されましたか? 難しいお顔をされてらっしゃいますよ。」 
 「!  いや、大丈夫だよ。少し考え事をしてしまってね、ありがとうマーサ。」
 いつの間にか、眉間に皺が寄っていたらしい。
 「お疲れのようですし、坊っちゃまが好きなアッサムティーをお入れしますね。」 
 「あぁ、よろしく頼むよ。」
 私の返事を聞くと、マーサは素早くお茶の準備を始めた。
 「そう言えば坊っちゃま。ずっと気になっていたのですが、お名前はそのままでよろしいのですか?」 
 「ん? なんの名前?」
 マーサからの突然の質問に、私は首を傾げた。
 「坊っちゃまのですよ。『ロザリー』という名前は、基本的に女性につけられることが多いですし、今からでも坊っちゃまに似合う素敵なお名前に変更されても良いのでは、と。」
 まぁ、確かに『ロザリー』なんて女の子らしい名前の令息は、我が国にほとんどいないだろう。私が令嬢ではないかと勘ぐる者も出てくるかもしれない。
 それらの事を考えたら、デビュー前に名前を変えることが妥当だと思う。
 
 ーーーそれでも。
 「いや、このままでいい。この名前は、母上がつけてくださったものだから大切にしたいんだ」
 そう、お母様は自分を死に追い詰めた私を「愛してる」と言ってくれた。だからせめて、お母様からいただいた名前を大切にしたいと思った。
 「坊っちゃま...。」
 「それに、きっと社交界では『女みたいな名前の公爵令息なんて珍しい』って言って皆すぐに私の名を覚えてくれるよ」
 私は肩を竦めて冗談っぽく笑ってみせた。
 「そうですね! 例え、容姿が変わろうと坊っちゃまは坊っちゃまですものね!」
 マーサは笑顔でそう言うと、用意したミルクたっぷりのアッサムティーを私の前に置いた。
 「こちらをお召し上がりになったら、午後からの剣術のお稽古も頑張ってくださいませ」
 「そうだね、マーサが作ってくれたお茶は美味しいからやる気が出るよ」
 
 「...っ!  こ、光栄にございます」
 礼を言って微笑んだだけなのに、マーサは耳を赤くしてそっぽを向いてしまった。
 最近では、今のマーサみたいな反応をする使用人達も多くなった。近頃は日照りの強い日も多いから、多分当てられたんだろう。心配だ。
 「マーサ、近頃顔を赤くすることが多いけど風邪でもひいたの?」
 「...無自覚とは、恐ろしいものですね」
 「? 何のこと?」
 「なんでも御座いません。それよりも、早くしないと講師の先生がお見えになりますよ」
 はぐらかされてしまった。でも、マーサが言っている通り本当に時間が迫っていたため、私は急いでカップの中身を飲み干した。
 さて、また忙しくなる。私は椅子から立ち上がると稽古場まで急いだ。
 今回、長々と書いてしまって申し訳ないです!
中々切るタイミングが見つけられず、気づけばこんなに書いてしまってました( ̄▽ ̄;) 
 飽きずに読んで下さりありがとうございます!
次回もお楽しみに!
 
 「これまではクレアのこともあって、ローズの存在は親族にも公開していなかったが、状況が状況だからね。ローズの社交界デビューは、来年の建国記念日にしようか。」
 .........お父様、来年の建国記念日までもう約1年しかないんですけど? 分かってて言ってます?
 「勿論、分かっているさ。私はローズを信じているからね、頑張りなさい。」
 どうやら、私は思いっきり顔に出してしまっていたようだ。ポーカーフェイスの上手な作り方を、後で執事長のセリンにでも聞いておこう。
 そんなことがあってから早数ヶ月。
 私は今、本邸のダンスホールで講師の先生に紳士式のダンスと社交の場で必要なマナーレッスンを教わっている。
 「はい、そこまで。ロザリー坊っちゃま、たいへん素晴らしい出来でございますよ。」
 「恐縮です。」
 紳士式のマナー自体は、前世の時とほとんど同じでそれなりの知識もあった為、なんとか形になっている。
 ダンスも現世の私が淑女式のレッスンを教わっていた頃、相手をしてくれたセリンやお父様を手本にしてやっている。
 「はい、それではもう一度最初から。これで最後に致しましょう」
 「はい!」
 お父様があんな無理難題を押し付けてくれたおかげで、私は毎日多忙な生活を送っている。
 お父様が言っていた建国記念日まで、1年を切っている。なんとかダンス、礼儀作法、剣術、馬術、座学、その他諸々を完璧に仕上げなければならない。
 そして、ルビリアン公爵令息としての私も完璧に仕上げなくては。今現在、私の正体が令嬢である事実を知っているのはお父様とルビリアン公爵家に仕えている優秀な使用人一同のみ。
 ちなみに、講師の先生達は私の正体を一切知らされていない。これは、お父様が少しでも早く私が完璧な令息になれるよう取り計らってくれたからである。
 
 私は本日最後のダンスメニューをこなしながら、今後のスケジュールを確認した。
 今やっているダンスとマナーレッスンが終わったら、昼食を挟んで午後からは剣術のレッスン、その後は夕食と入浴を済ませて明日の座学の予習。
 前世でも多忙にしていたけど、まさか生まれ変わってまで多忙を極めることになろうとは…。
 最近は自室に篭って勉強していると、マーサに休むように言われることも多くなった。心配してくれる気持ちも分かるし、出来ることなら私も休みたい。
 だが、今は1分1秒も無駄には出来ないのだ。
 ダンスレッスンが終わり昼食をとっている間にもそんな事を考えていたせいだろう。食後のお茶の準備をしていたマーサが、心配そうな顔でこちらを伺ってきた。
 「坊っちゃま、如何されましたか? 難しいお顔をされてらっしゃいますよ。」 
 「!  いや、大丈夫だよ。少し考え事をしてしまってね、ありがとうマーサ。」
 いつの間にか、眉間に皺が寄っていたらしい。
 「お疲れのようですし、坊っちゃまが好きなアッサムティーをお入れしますね。」 
 「あぁ、よろしく頼むよ。」
 私の返事を聞くと、マーサは素早くお茶の準備を始めた。
 「そう言えば坊っちゃま。ずっと気になっていたのですが、お名前はそのままでよろしいのですか?」 
 「ん? なんの名前?」
 マーサからの突然の質問に、私は首を傾げた。
 「坊っちゃまのですよ。『ロザリー』という名前は、基本的に女性につけられることが多いですし、今からでも坊っちゃまに似合う素敵なお名前に変更されても良いのでは、と。」
 まぁ、確かに『ロザリー』なんて女の子らしい名前の令息は、我が国にほとんどいないだろう。私が令嬢ではないかと勘ぐる者も出てくるかもしれない。
 それらの事を考えたら、デビュー前に名前を変えることが妥当だと思う。
 
 ーーーそれでも。
 「いや、このままでいい。この名前は、母上がつけてくださったものだから大切にしたいんだ」
 そう、お母様は自分を死に追い詰めた私を「愛してる」と言ってくれた。だからせめて、お母様からいただいた名前を大切にしたいと思った。
 「坊っちゃま...。」
 「それに、きっと社交界では『女みたいな名前の公爵令息なんて珍しい』って言って皆すぐに私の名を覚えてくれるよ」
 私は肩を竦めて冗談っぽく笑ってみせた。
 「そうですね! 例え、容姿が変わろうと坊っちゃまは坊っちゃまですものね!」
 マーサは笑顔でそう言うと、用意したミルクたっぷりのアッサムティーを私の前に置いた。
 「こちらをお召し上がりになったら、午後からの剣術のお稽古も頑張ってくださいませ」
 「そうだね、マーサが作ってくれたお茶は美味しいからやる気が出るよ」
 
 「...っ!  こ、光栄にございます」
 礼を言って微笑んだだけなのに、マーサは耳を赤くしてそっぽを向いてしまった。
 最近では、今のマーサみたいな反応をする使用人達も多くなった。近頃は日照りの強い日も多いから、多分当てられたんだろう。心配だ。
 「マーサ、近頃顔を赤くすることが多いけど風邪でもひいたの?」
 「...無自覚とは、恐ろしいものですね」
 「? 何のこと?」
 「なんでも御座いません。それよりも、早くしないと講師の先生がお見えになりますよ」
 はぐらかされてしまった。でも、マーサが言っている通り本当に時間が迫っていたため、私は急いでカップの中身を飲み干した。
 さて、また忙しくなる。私は椅子から立ち上がると稽古場まで急いだ。
 今回、長々と書いてしまって申し訳ないです!
中々切るタイミングが見つけられず、気づけばこんなに書いてしまってました( ̄▽ ̄;) 
 飽きずに読んで下さりありがとうございます!
次回もお楽しみに!
 
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コメント
RAI
長いほうが僕的には良いです。
七海ハク
天然ですね〜。