久遠
第26話 伝説
シルヴィアにとってそいつはどんな化け物よりも恐ろしい存在だった。
事実、彼女がいなければ百鬼夜行は成功していた。
復讐のためにディルフォード一家は吸血鬼随一の異能使いを彼女の元に送りこんだ。
人間に擬態することができるという能力の持ち主で、一般市民を傷つけることができないハンターの弱点を逆手にとって次々と腕利きの滅鬼師達を葬ってきた吸血鬼だった。
しかしそんな能力者でも殺された。
その女は疑わしい者を人間含めて全員切り殺したのだ。
「思い出すだけでぞくぞくするわ。あいつは私達なんかよりもよっぽど化け物だった」
しかしそんな彼女を好敵手としてシルヴィアは愛していた。
だからその女が彼女の知らないところで死んだと聞かされた時涙を流したほどだった。
あの伝説のハンターはあっさりと何者かの手によって殺されたのだ。
私があいつを殺そうと思っていたのに……獲物を横取りしたのはどこのどいつだ!と。
そんなシルヴィアはある一つの指輪を大切に持っていた。
美しくもなければ、不思議な力があるわけでもない。なのに彼女は薄汚れた一つの指輪を大切に保管していた。なぜならそれはシルヴィアが唯一その伝説のハンターから指ごと奪ってやった戦利品だったからだ。
その手傷を負わせるだけでシルヴィアがいったい何人の手駒を失ったことか。
だからその指輪は彼女にとって大切な宝物だった。
ジュエルコレクターとも呼ばれた彼女が古今東西から集めた金銀財宝と一緒にコレクションに並べるほど。
しかしその指輪が数ヶ月前に盗まれたのだ。しかも同族の手によって。
そしてその同族はこの日本に逃れた。
目的はわかりきっている……私をおびきだそうとしているのだろう。
同族の中でもディルフォード家に反発する派閥はある。
そこに与する者がディルフォードの力の及ばないこの極東の地で私を殺そうという魂胆だろう。
……面白い。
シルヴィアは伝説のハンター亡きあと刺激に飢えていた。
だがどんなハンターも味気ない。今従えている鳴華にしてもそうだ。
剣術には目を見張るものがあった。
さすがあの伝説のハンターと同じ麻上の血を引く人間だと思ったほどに。
だがシルヴィアの放つ手駒が操られているだけの人間と知るや否や彼女は動揺し、あっさりと隙を見せてシルヴィアに血を吸われた。
私が求めているのはこれではない。
もっと私を心から震わせてくれるような恐怖を!悪鬼のような狩り人を!
そんな出会いを求めて彼女はこの極東の地に降り立ったのだ。
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