久遠

メイキングウィザード

第23話 隠蔽しよう。そうしよう


「誰か説明しろよ」

 特捜隊本部の教室には朝から4人全員が集まっていた。
 机の上に置かれた一本の赤血刀。それを中心として4人が立っている。

「なんなんだよこれ」

 吾郎が刀を指さす。

 そこには乾いた血が消えない痕として付着していた。

「この血赤いよな……人間の血ってことだろ。なんで人間の血がついてんだよ!」

 四ノ宮が携帯を操作してある映像を全員に見せた。
 テレビのニュースを動画で撮影したものだ。

『……の路上で会社員の小泉真一郎さんが倒れているのを住民が発見しました。現場には大量の血痕が付着してあり、警察の発表によると木刀のような長い鈍器で殺害されたということが判明しており………』

 全員の顔が青ざめていた。
 つまりこの街で行方不明者が出て、ここに血に塗れた模造刀がある。
 誰が聞いてもここに因果関係を感じずにはいられないだろう。

「これ誰のだよ。まじでなんなんだよ、ふざけんなよお」

 吾郎が頭を抱えて嘆く。

「おい、落ち着けって」と直江が彼の肩に手を置いた。

 いったいこれは誰のものなのか。
 路上に大量の血痕が発見されたのは昨日の早朝。すなわちこれが使われたのは一昨日の深夜の可能性が高い。
 そして一昨日といえば夜に特捜隊がちょうど死霊の討伐に出向いていた日であった。
 最近はこの間のバンピールの一件で功績もあげたことにより管轄が広がって、今までより広いエリアに出没する魔物の討伐も請け負っているのだ。
 直江が自らのアゴに手をあてて思考を巡らせる。

「……みんな今赤血刀どこにある?昨日俺が本局に連絡して取り寄せたやつだよ。まだ返してないだろ」

 吾郎は学校のロッカーに入れてあるといった。
 直江と祭が使っていた二本は任務が終了した後、最寄り駅のコインロッカーに預けたそうだ。
 その証拠の写真を見せる。

「ほら。今朝吾郎から連絡が来て、証拠がいると思ったから撮ってきた」

 四ノ宮が腕を組んでふうむと唸る。

「じゃあこれはいったい誰のだというんだい?」
「え?」
「ん?」
「……いや、お前は?どこに置いてんだよ」

 虚をつかれた四ノ宮は目をぱちくりとさせている。

「ぼ、僕は我写髑髏を使っているから……」

「でも、お前の愛刀の調子まだ戻ってないと思って本局から人数分の4本持って来るように頼んだぞ。ちゃんと連絡しただろ」

 だらだらとわかりやすく汗を流し始める四ノ宮。
 つまりこの赤血刀は四ノ宮のものなのだ。
 吾郎が彼の胸ぐらを掴んだ。

「おいこらてめえ四ノ宮ぁ!てめえがやったのか!ああ!?」
「ぼぼぼ、僕じゃないよ!うっかりしていたんだ!だから僕の家の最寄りロッカーに刀が入っていることなんて記憶からすっかり抜け落ちてて……」
「おまえふざけんなよ……俺が賞とったからって妬んでこんなことしやがって……」
「ちょいちょいちょい、そんなこと1ミリも思ってないさあ!」

 わさわさと吾郎に引っ張られる四ノ宮。それを制止したのは祭だった。

「喧嘩は……あかん……」

 プロハンターの言葉には重みがある。
 吾郎の手が四ノ宮から離れた。
 それにまだ四ノ宮に貸し出されていた赤血刀が事件に使われていたとして、これを使用したものが四ノ宮だとは限らないのだ。

「それに犯人が僕たちの中にいるとも限らない……」

 そこでみなが思い浮かべていたのは吸血鬼特捜隊の宿敵。バンピールの姿である。

「いつも狡猾な手段で僕たちを欺いてきたあいつのことだ。こういう方法で仲間割れを誘っているのかもしれない……」

 いつもバンピールが使うという狡猾な手段に全て直江自身が絡んでいるのだが、当然そんなことはこの場で明かさない。

 それに容疑者はそれだけではない。
 もしかすると他の地区の滅鬼師見習いが最近の特捜隊が受けた功績を妬んで仕組んだ罠の可能性だってある。学校に忍びこんで誰もいない時間帯に、教室のロッカーに刀を入れることは不可能ではない。

 四ノ宮が掴まれていた部分を手で払った。

「本局はもうこのことを知っているのかい?」

 直江が首をふる。

「知っているのはこの街で事件が起きていることだけで、その事件にこの刀が使われたことはまだわかってないはず……」
「でも赤血刀の返却期限は明後日……いったいどうするんだい?」

 赤血刀は本局に返したのちに点検、洗浄、そして整備に入る。いくら血を洗い流したところで点検時に調べられれば事件に関与していることが一発でばれるだろう。なぜならその刀はボコボコに湾曲しているからだ。

 赤血刀は魔物相手に使えば日本刀をも超える切れ味を発揮するが、人間相手に使ってもただの模造刀でしかない。だからこの刀の変形を見ただけで、鈍器として人を殴ったことは一目瞭然だ。

「うわああああ。バレたらどうなるんだよおおお。大問題だろおおお」

 吾郎が頭をふりながら錯乱して、その場で滑って転ぶ。そしてそのまま床にうずくまってシクシク泣き始めた。

 本局にこの事が露見すれば、例え特捜隊の中に犯人がいなかったとしても誰かに赤血刀を使われた時点で既にアウトである。

 おそらく特捜隊は解体。この地区は他のエリアを担当している見習いたちが受け持つこととなり、直江達も今後滅鬼師に関わる全てのことに関与できなくなってしまう可能性があった。プロ試験も当然受けることなどできなくなってしまうだろう。

 ……隠蔽……。

 直江の頭にはその二文字が浮かんでいた。
 そんな時、声をあげたのは祭だ。

「方法なら……あるで……」

 それは赤血刀を偽造するという方法だった。
 彼女は麻上一族に所属する滅鬼師であり、彼らに頼めば完璧に同じものを用意できるのだそうだ。

「へいへいへい。偽造なんてやってはいけないことだろ?鞘の裏にはそういうことを防ぐためのコードだって刻まれているんだよ」

 それでも祭は可能だという。
 四ノ宮は反対したが、賛同した吾郎と共に多数決の力で黙らせた。

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