根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep3/act.12 魔力姐さんの試練


「それじゃあアル、やってくれ」

「はいはい、仕方ないですね〜。みんな僕の体の一部に触れてね〜」

空間移動ルーラ

アルさんの言葉と同時に、身体が一瞬だけ浮いたような感覚があった。
そして目を開けると、そこは既に別の場所があった。

「す、すごい…」

こんな言葉しか出なかった。
さっきまでの王室とは打って変わって、目の前に話していた山小屋があった。

「すごく便利だけどなサクラ、今の空間移動ルーラにも欠点はあって、自分で見たところにしか飛べないんだ。アルのあの感じを見ると、多分この国の中でしか今はまだ使えないだろう」

「ご名答。流石シンスケさんだね〜。結局遠くの国に行きたくても、一度自分の足で行って見てからじゃないと使えない。でもね、僕にはこんなことも出来るんだよ」

思考解析アナライズ

「え、今何を?」

「今サクラくんの記憶を見ました〜!ふんふん、獣人の国パルテナ、緑の国セルヴィア、そんで天神の国エルシオね〜。たくさん行ったんだね〜。こうして他人の記憶にある場所の映像が見られれば、僕はそのままその場所に空間移動ルーラで飛べちゃうのさ」

「やってることは相変わらずだなアル」
「器量がいいって言ってよ、エドくん」

「はいはい、バチバチになるなお前ら」

シンスケさんは手をパンパンと叩いた。

「ここで争っている暇はないんだ」

シンスケさんが仲介に入ったところで、山小屋の中から声が聞こえた。

「うるさい客人だね〜早く入って来なよ」

僕らはその声に従うままに山小屋に入った。

中に入ると、木で作られた家具に色々な実験道具が散乱としていた。
僕らを招いたその声の人物は、20歳前後の若いお姉さんのように見えた。

「来ると思ってたよ、転移者たちだね。魔力婆さんの娘だから、魔力姐さんとでも呼んでくれよ」

「お前が魔力婆さんの娘だと言うならば話は聞いているだろう。俺以外の転移者たちの魔力を底上げさせてくれ」

「話は聞いてるよ。そんな簡単に言ってくれてるけどさ、何するか分かってるよね?」

「もちろんだ。早速やろう」

なんだか怖そうな雰囲気に僕は尋ねた。

「ちょ、ちょっとあの、何するんですか?」

「やれば分かる。それより、今回はサクラの魔力底上げを目的としてきているが、転移者なら全員が底知れない魔力を有しているはずなんだ。だから、サクラ、エド、アカネ、アル、お前ら全員がこれに臨め」

アカネも初めての他の国に戸惑いが隠せていないのに、変なことをさせられそうで僕に助けを求めた顔をしていた。

「説明は後だ。向こうの部屋に専用の椅子があるはずだ。お前ら四人はそれに座れ」
「僕もやるの〜?仲間じゃないでしょ〜?」
「アル、これはお前の為でもある。今後一人で生きていくなら尚更必要だ」

アルさんは渋々奥の部屋へと向かった。

「さあ、サクラとアカネも早くしよう。ここからが長いんだぞ」
「あの、何をするかだけでも教えてもらえませんか…?」

シンスケさんはじっと悩んだ後に答えた。

「そうだな、全員、魔力姐さんの魔法で一旦眠らされるんだ。その中でお前らは自分の思考のままに動ける夢を見る。その夢を操作するのが魔力姐さんだ。その夢の中で、魔力姐さんの試練に打ち勝てばいい」

「魔力姐さんの試練…」

「何を出されるかは人によって違う。お前らは試練に打ち勝ち、次に目を開けた時には魔力レベルは大幅に上がっているはずだ」

僕とアカネは頷き、奥の部屋へ向かった。

奥の部屋には如何にも、と思わせるような金属型の椅子とヘルメットが用意されていた。
拷問器具のようで怖かったが、シンスケさんを信じて僕たちは黙って腰を下ろした。

「最後に言っておく。俺も1000年前にやっているからこそ言えるアドバイスだ」

魔力姐さんは魔法陣の準備をし終えてシンスケさんの合図を待っているようだった。

「自分を信じろ」

シンスケさんが手を上げたサイン、それを見たが最後、僕たちは暗闇の世界へと旅立った。



次回から試練編が始まるので、Ep(3)とさせて頂き、act.1に戻して進行します。

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