根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep2/act.17 英雄として
人口約500人程度の少人数でありながら、緑の強国と名高いセルヴィア。
しかし、三分の一という数の住人たちが犠牲となってしまった。
重傷の兵士たちを置いて、他の者たちは城や居住区の復旧作業に勤しんでいた。
「ようサクラ、具合は大丈夫か」
こんな被害状況に似合わぬエプロン姿でエドさんが話しかけてきた。
「僕は大丈夫です。その格好は…」
「実は俺、料理が得意でな。人員不足って言うから、住人たちを食わせる飯を作ってて、今休憩をもらったところなんだ」
「エドさん…僕…」
「何も言うなよ。お前の責任じゃない」
もし仮にあの場にシンスケさんかエドさんが向かっていたら。アスラがどこかに行かないように見ていたら。そんなことばかり考えてしまう自分すら、情けなくて許せなかった。
「ガゼルから聞いたんだ。魂を食う魔人だったんだってな。そりゃあ俺やシンスケが行ってても変わらなかっただろうな」
僕の心を見透かしたかのようにエドさんは話す。
それでも、この国を救えなかったのは僕なのに。
「取り敢えず広間に行こう。住人はそこに集まってもらってるんだ。配給しないとな」
合わせる顔がない。
それでも僕は、広間へと着いて行った。
幸い、広間にまで被害は及ばず、物が少し落ちていて散乱としている程度だった。
僕が広間に顔を出すと、住人たちは声をあげた。
「英雄様ー!魔人を倒してくれてありがとうございます!!」
「セルヴィアをお守りしてくれてありがとうございます!!」
何を言っているんだ。僕は100数十人って言う命を守れなかった。英雄なんかじゃ…。
「これが、今の俺たちが守り切れた命だ」
エドさんは、誇らしげな顔を向けた。
「確かに、守れなかった命も沢山ある。それは俺たちがまだまだ弱いからだ。でも、守り切れた命だってここにある。あまり自分を責めるな。悪いのは全部、魔族だろ?」
僕は涙が溢れてきた。
溢れ落ちていった守り切れない命もあれば、こうして笑顔を見せてくれる守り切れた命もある。
守れなかった命を忘れてしまえるほど大層な覚悟なんか持ち合わせられないけれど、守り切れた命に対して、生きられてよかったありがとうと言う声に対して、笑顔を向けることが僕たちの責務のような気がした。
死んでいった者たちの中には、子供がいる親だったり、恋人のいる者だったり、決して幸せな命だけがここにあるわけではない。
僕やガゼルだって、ミカエルを失った悲しみを忘れ去ることなんかきっと出来ないだろう。
それでも僕は、今ある命に伝えるんだ。
それでも僕たちは、守れた命に送るんだ。
「僕たちが、サタンを倒してみせます」
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