根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep2/act.5 千年前の転移者


街の中は非常に賑わっていた。
セルヴィアに辿り着いた僕たちは、セルヴィア王の協力の下、普通の民宿に泊まることにした。
僕たちが来たことを騒がせて誰かに気付かれてしまったら、エドさんのしたことの意味がない。

とは言え、英雄様を粗末な宿に招待したくないと、僕らは少し高価な民宿に招待された。

部屋に着き、ミカエルとガゼルが寝静まってしばらくした後、外からカンカンカンカン!と大きな音が聞こえた。

「ブラッドムーンが現れたぞーー!!!」

「ブラッドムーン?」

僕はついつい復唱した。
すると、エドさんは窓から顔を出しながら言った。

「ブラッドムーンか。聞いてたより早かったな」
「ブラッドムーンってなんですか?」

エドさんはこっちを向き直して答えた。

「ブラッドムーンは、俺たちのいた世界でいう月が赤くなる現象を指す」
「あー!皆既月食でしたっけ?この世界でもあるんですね!」

エドさんは真面目な視線を向けて話す。

「そんな神秘的なもんじゃあないよ。俺も降臨した時にセルヴィアの警備から聞いたんだが…」

「これは魔王が復活に成功した合図だ」

僕は驚きのあまり何も言えなかった。

「ここの太陽と月のシステムは俺らの世界とは違う。俺らの世界では、月は太陽に照らされることで地球に月の光が落ちる。だが、こちらの月は自ら光を放っているんだ。だからどんな時でも満月だし、俺らの世界よりも明るい」

先生から理科を習うかのように頷いた。
すると、エドさんも乗り気になったのか先生かのように質問を投げかけた。

「では問題。何故サタン君が復活すると、月が赤くなってしまうでしょうか!」
「うーん…サタンは月で復活したとか…?」
「不正解!サタン君は紛れもなくこの世界にいまーす!」
「え〜〜…」
「正解はな、サタンの溢れ出んとする禍々しい赤いオーラが、月の光すら搔き消しちまうほど大きいからだ」

僕は背筋がゾクっとした。
こんなクイズごっこみたいに遊んでる暇ないじゃないか!と思ったけど、サタン復活は元々決まっていたことだし、今はまだ焦るな、と僕への配慮をしてくれたんだと勝手に思った。

「続いての問題でーす!」

ほ、本当にそうかな…。

「俺はなんでこんなこと知ってるでしょう」
「え、それは警備の人に聞いたんじゃ…」
「ブッブー!警備の奴らにこんなことまで知ってる奴は多分いないな。現に俺は別の人に聞いた」
「え、じゃあバドムさん?」
「バドムでもない。あいつも知ってそうな雰囲気醸し出してるけど、あんま話してないし」
「じゃ、じゃあ…」

僕が回答に困っていると、部屋のドアからドンドンドン!と音が聞こえた。

「お、時間ぴったり!」
「え、え??」

「実はサクラに会わせたい人がいるんだ」

こちらの返答なしにドアは勝手に開いた。
そこに立っていたのは僕と同い年くらいの黒髪の少年だった。

「紹介するぜサクラ。俺がセルヴィアで魔法の使い方やこの世界のことを教えてもらった人」

「1000年前の転移者のシンスケだ」

僕は驚きのあまりまたも何も言えなかった。
僕は状況をあまり理解出来ないままに前転移者と呼ばれるシンスケを部屋に入れた。
シンスケは「仕方ないだろう」と言う顔を浮かべながら僕のことを見ていた。

「改めて紹介しよう。俺らより1000年も前に転移したシンスケだ。国籍はサクラと同じ日本」

それだけ言われても理解できない。
僕はままならない思考のままに質問をした。

「どうして1000年も前の転移者が生きているんですか?そもそも、サタンを封印できたなら何故元いた世界に戻れていないのですか?」

シンスケさんが「めんどくせぇ…」なんて顔を浮かべているのが僕でも分かるほど露骨に溜息を吐いたが、簡潔に説明をしてくれた。

「今も生きているのはサタンの呪いで、世界に戻れていないのは封印したからだ」

「ふむふむ……分からない!!!」

生まれて初めてノリツッコミと言うものをしたと思う。
ただ、それほど理解ができなかったのだ。

するとシンスケさんは逆に質問をしてきた。

「なあお前は、サタンをどうしたいんだ?」
「ど、どうって…」
「封印したいのか?」

封印以外の方法が見つからなかったが、なんだか腑に落ちずに黙ってしまった。

「封印ってのはな、時間稼ぎにしかならない」
「時間稼ぎ…?」
「いいか。サクラって言ったな。サクラ、サタンは不死じゃない。いずれは完全に倒さなければならないんだ」
「…はい」
「もっと簡潔に言ってやる」

シンスケさんは息を吸い込んだ。

「サタンを封印ではなく、完全に倒さなければお前は元の世界には帰れない」

僕は息を飲んだ。
息を飲まずにはいられなかった。

「そして、1000年も俺が生き続けているのはサタンの呪いだ。1000年前、俺も転移をして来てお前と同じで仲間を集めた。最初に動いたのが俺だったからか、必然的にリーダーが俺になったんだ。俺の武器とも相まって俺の魔法が一番敵を倒すのに有利だった。そしてサタンと対峙した。嬉しくねえがサタンは俺のことを気に入ったらしく、サタンが死ぬまで俺も死なない身体にされたんだ」

「なら、鍛錬してサタンを倒せるんじゃ…!」

「ダメなんだ。まずサタンに敗北した時点で俺は魔法を奪われた。年を取らないから鍛錬は欠かさずやってきたが、ある時気付いたんだ。この呪いは、あるラインを超えると身体が燃えてしまう」

「身体が燃える…?」

「そうだ。この国セルヴィアを中心とする半径10kmを超えると燃えてなくなる」

「そうなんですね…。僕なら耐えきれずに自ら死んでしまう道を選びそう…」

「俺は侍だ。諦めない限り切腹などしない。ましてやサタンの呪いにかかった状態で自殺なんてまっぴらごめんだ。それに、サタンも言っていた。生きて生きて生き続け、いずれサタンを倒せた時、こちらの転移者は元いた世界に戻れるだけでなく、時間も転移した時のままなんだ。かかりすぎるとラグがあるみたいだから、俺は元いた時間軸に戻れるか不明だが、少しでも確率があるなら俺は生きる。向こうでやり残したことがあるんだ」

素直にカッコいいと思った。
当時の侍、実際にお目にかかれるだなんて思ってもみなかった。

「と言うことはその魔法と相性のいい武器って刀ですか…?その魔法ってなんですか?」

「風だ。今では鍛錬のお陰で、魔法を使えなくとも下級魔法くらいの威力は自分の力で出せるようになったがな」

「下級?」

僕が勝手に一次スキルだなんだ言っていただけであって、RPGゲームなんかではよく下級魔法とか中級魔法って言葉を使うな。

「そうだ。魔法は下級、中級、上級の三段階に分けられる。お前もエドも、使える魔法は現段階では初級が限界だろう。これらはモンスターを倒した経験値や、自分の心境、覚悟の強さによっても習得できる」

そうか、だからあの時、レオンとの戦いで新しい魔法が使えたのか…。

「それから、これは話さなくても分かると思うが、魔法には属性があって、属性によって威力が強弱する。

火 → 土 → 雷 → 風 → 水 → 火…

この世界にはこう言った属性差がある。
ただし、同じ等級の魔法に限る。例えば、火は水に弱いが、水の初級魔法に対して火の中級魔法以上なら火が圧倒する」

「闇の魔法は…?」

「闇属性魔法は、光属性に強く、光属性に弱い。
魔法の種類にもよってくるだろう。ただし闇属性は、他の五属性に対する強弱はない。言ってしまえば、同じ等級魔法でも勝てる保証はないし、負ける保証もない」

優位に立てる属性が基本的にない。
自分の力、と言うよりも、自分が得てしまった力が使いにくいことにひどく落胆した。

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