根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep2/act.1 緑の国セルヴィア


「サクラ!こっちだよこっち!」

ガゼルがピョコピョコと耳を動かしながら先導している。獣人ビーストは五感に優れていて、道中の魔族やモンスターにも先に気付けるから、安心して道を進める。

パルテナでミカエルとガゼルを仲間にした僕は、別の転移者がいるだろう国に向かっていた。
パルテナの隣国、魔法の五国のうちの一つ。

緑の国セルヴィア。

セルヴィアは、パルテナ城の裏手にある岩壁地帯を超え、セルヴィア領土内にある渓谷の先に入口がある。渓谷の周りは小さな森で囲まれていて、道に沿っているため、危険もないと言う。

僕らは2、3日掛けて岩壁地帯を超え、今まさに森に入ろうとしていた。

「ガゼル!そんな急いでいたらサクラが疲れてしまうだろ!」
「あう…ごめんなさい…」

2、3日共にして分かったこと、ミカエルはお兄ちゃんらしく頼もしい性格だ。責任感があり、僕のことも注意してよく見てくれている。
一方ガゼルは年がまだ小さいせいか無邪気だ。常に明るくて、怒られると落ち込むけど、すぐに元気を取り戻す。いいムードメーカーだと思う。

「大丈夫だよ。僕も体力をつけなきゃね」
「すみませんサクラ。ガゼルは外の世界を見るのが初めてで興奮していて…注意が怠っては僕らがいる意味がないのに」

ミカエルは責任感からか、まだ自分には付き添う意味があると思っているようだ。
僕としてはただ仲間が欲しかっただけなのにな。

森の中は綺麗で落ち着いていた。
たまに見かける鳥が綺麗で、元の世界では見たこともないほどに美しかった。

「わぁーー!見て見て!」

先導しているガゼルが嬉しそうに言った。
見せてきたものはムカデのような長い混虫。

「まさか…」

そう獣人ビースト。言葉を喋れるとは言え動物なのだ。美味しそうに一口で食べてしまった。

「ごめんガゼル。僕、虫って見るのも苦手だから、今後は見えないとこで食べて…」
「ほへんははい…」

口を動かしながら謝っていた。
獣人ビーストからしたらさぞ絶品なのだろう。

そうこうしているうちに目的の渓谷まで着いてしまった。

「森を歩いたのは20分くらいか…本当に早いな」

渓谷の奥には町の入り口らしい看板がある。
早速向かおうとすると、木々の裏からゾロゾロと人間が出てきた。

「人間!?」

僕は思わず声を上げた。すると、彼らのリーダーのような男が僕に声をかけた。

「貴様、どこの国から来た。少しでも不審な点があれば即刻この場で殺す」

うわぁ…怖え…と思いながらも、落ち着いて答えた。そう、僕にはミカエルとガゼルがいるんだ。

「パルテナから来た降臨者です。彼らは僕のナビゲーターとして来ています」
「英雄様でしたか…!無礼な態度、失礼致しました。セルヴィアの王にご報告致しますので、今回来た目的を伺ってもよろしいですか?」

「僕が来たのはこの国に降臨した方と合流する為です。降臨者は城内ですか?」

リーダーのような男は悩ましげな顔をして答えた。

「申し訳ありません。この国の降臨者は、つい昨日ほど、出発してしまいました」

少しは考えていたものの、流石に落胆した。
僕がこうして別の国へ向かうように、他の転移者だって合流すべく動くはずだ。

他の転移者と合流することは改めて難題だと悟った。

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