根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep1/act.5 亀裂
レオンの話はこういうものだった。
自分たちが集まれば、この世界の天敵、サタンですら倒せるはず。ならば、今度は我々で世界を支配し、国ではなく世界を治めようと。
サクラは、改めて気付いた。
現実世界は、レオンのような人が成功者となり、人生を円滑に進められるのだろうと。
しかし、サクラの答えは決まっていた。
「すみません。僕には出来ない」
「どうしてだ?サクラは前の世界で人から酷い目に遭わされて来たんだろう?今度はお前が見返してやる番だ。この世界のトップに立とう」
「そうなんですけど…僕はトップとかに興味はないし、僕がこの世界で力があるのなら、僕の周りだけでも幸せにしてあげたいと言うか。サタンを倒すとかはまだ僕には突飛な話ですけど、それでも、この世界の為に出来ることをしてあげたいんです。僕みたいな人間に何かできるなら…」
それを聞いたレオンの顔付きが変わった。
サクラが昔よく向けられた顔。人を嘲笑う顔だ。
「お前は確かにヒーローに憧れていると言っていたが、そんな夢物語みたいなことは起こらない。これはアニメや漫画と言った創作された世界ではない。現実なのだ。せっかく無条件に力を与えられたのに、円滑に人生を歩めるように使わないなんて馬鹿げているだろう?」
「それでも……」
「死ぬかも知れないのにか?」
サクラは言葉を飲んだ。
自分がしようとしていることは明らかに非現実的なのかも知れない。こうしてレオンとも方向性が定まっていない時点で、他の8人と協力できる確証だってない。そんな中でサタンに挑んだって、無駄死にしてしまうかも知れない。
それでも、誰かを使ってまで自分が幸せになろうとは決断できないサクラだった。
こんな時、ヒーローなら問答無用で断っていたのだろう。改めて、自分を情けなく思った。
「一晩、ゆっくり考えてくれ。まずは他の転移者と合流できなければ、俺の目的であろうとサクラの目的であろうと達成は厳しい。起きたら今後について話し合おう」
「分かりました…」
俯いているサクラを横目に見ながら、レオンは部屋から出て行った。
さっきまでの安心感とは一転し、サクラは不安感で押し潰されそうになっていた。
次の日の朝は、静かに始まった。
本当に、なんの音もない。
食堂にもマルコの部屋にも、誰もいない。
少し緊張するが、サクラは王の寝室に向かった。
※ここから一人称視点に変わります。
僕はノックをして王の寝室に入った。
しかし、やはり誰の姿も見当たらなかった。
辺りを見回していると、ドアから声が聞こえた。
「ここにいたのかサクラ」
レオンだった。何やら雰囲気が昨日までの彼とは違っていた。
「着いて来てくれ」
それ以外何も言わず、レオンは歩き出した。
僕はまた、頭の機能が停止してしまい、何を聞くこともなくそれに従った。
王の寝室から長い廊下を進み、螺旋階段を降りていく。一階まで来ると闘技場の入り口があり、その奥に古い扉がある。古い扉を開けると、小汚い階段が続いていた。
階段を降りながら、レオンは話し始めた。
「ここはもう使われていないそうだ。だからこんなにも汚い」
「ここはなんの部屋なんですか?」
「降りてみれば分かる」
また、何も言わずに歩き出してしまった。
何故こんなところに連れてきたのか、そんなことを考える間もなく、目的地に辿り着いた。
着いた先に広がるのは、先が見えないほど長く、薄暗い牢獄だった。
レオンは牢獄の廊下を何にも臆することなく進んで行った。
一番奥の少し広い牢屋。大罪人でも閉じ込めるかのように拷問器具が散らばっていた。
「マルコさんに王様!」
僕は思わず声を上げた。
そう、中に入れられていたのは城内全ての獣人。
獣の本能なのか、みんな怯えたように薄暗い奥に隠れて、僕らを震えながら睨んでいた。
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