根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep0 異世界転移します。


もう、何も思わない。
繰り返される暴力も、一人の家の寂しさも。
もう、何も思わない。
希望がないことも、夢がないことも。


もう、何も思わない。
そう思っていたのに。


学校のチャイムが嫌いだ。
授業を受けていれば僕をイジめる彼らも大人しくなる。
それでも、チャイムが繰り返されなければ僕は彼らの手から逃れることは出来ない。
そんな毎日を過ごしている。

帰っても誰もいない。
小さい頃は夜が怖かったりしたけれど、今となっては少し落ち着く時間でもある。
何にも縛られず、暴力も悪口もない。
頭が無に侵されていくのが自分でも分かる。

小説の中の主人公はみんなカッコいい。
きっと、この世界に生きてるどこかの誰かもこんな風に神様から選ばれて、人を助けたり、人を幸せにしたり、カッコいいことをしてる。

そう思うと、自分が情けなくなるけれど、運が悪かったのだと、最近は諦めるようにしている。
桜の木の下が僕のお気に入りの場所。
家から徒歩3分のこの場所は、人の通りがほとんどなく、車すら通らない。
まだ冬だから桜は咲いていないけれど、春になれば一面がピンク色に化粧をする。

ここで、僕と同じ17歳の少年たちの冒険譚を見ることが唯一の幸せ。
僕と彼らを照らし合わせて、僕ならこうする、なんて勝手に考えたりして、やっぱり似合わないかなぁと溜め息を吐き出したりする。

そんな何もない僕のはずだった。
夢も希望もとうに捨て去って、何も持たぬままに死んでいくはずの僕の前に。

小説の中で見たままの扉が現れた。
それは煌々と光を放ち、おぞましい程に異端な姿をしていた。

小説の中の主人公は、こんな現実世界で理解も出来ないような扉の中に入る勇気があるんだ。
そんな勇気があるのなら、それはそれは神様に選ばれ、魔王を倒す力だってある。

そんな勇気もない僕。情けない。
でも、こんな世界で生きていく強さもない。

きっと、小説の中の主人公ならこんな選択の仕方はしないだろう、それでもいい。

どうせ希望がないのなら、死んだって構わない。
この理解の出来ない扉に入ってしまおう。

全てを投げ打つ覚悟で光る扉をくぐる。
光の強さに目が眩んでしまう。見失いたくない希望。それでも目を閉じてしまった。

ほんの数秒だけ目を閉じていたはずなのに。
さっきまでの静かな空気とは一変したのが肌で分かった。











僕はやはり選ばれた人間ではないようだ。











目を開けた先には、死体の山が広がっていた。

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コメント

  • ノベルバユーザー218518

    この先どうなるか知りたくなった!

    1
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