マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔を出すの?出さないの?いえ両方です 1

「風紀委員だ!この部で不穏な動きがあるとの情報があったため、抜き打ちでチェックする!!」

 俺は写真部の部室の扉を勢いよく開けて中に入り、左腕についた風紀委員の腕章を右手で広げ部員たちに見えるように広げる。

「クソッ! 風紀委員か!」「見つかっちまったか~… 」

  六花大付属高校も1年に1度の文化祭シーズンが到来し、各クラス、また部活が文化祭の出し物の準備がぼちぼち始まっていた。
 そんな中、人手が足りない生徒会の犬である私、入月勇志は放課後、週に2、3日ほど同じく人手が足りない風紀委員にレンタルされているのであった。

「君たちは一体どんな悪事を働いていたのかな? 素直に言えば厳重注意で見逃してやらないこともないぞー」

 部内を見渡し、1人1人の顔を見ながら話しかける。見た所、全員男子で属性も俺と同じインドア拗らせタイプといった所だろうか。

「悪事だと!? 断じて否! 我々は六花大付属の全男子のために日々奮闘した汗と涙と努力の結晶なのだ!!」

 メガネを掛けた男子が一歩前に出て誇らしげに訴え掛けてくる。
 それに合わせて周りの男子も大きく頷き、まるで写真部の総意であるとでも言わんばかりだ。

「わかったわかった、それで何を撮ってたんだ? ほとんどが女子からのタレコミだったぞ?」

 写真部の部員が窓の外から中にカメラを向けていたとか、教室の扉の隙間からレンズで覗いていた。などなど、かなりの苦情が生徒会に寄せられていたらしい。

「ならばその目でしかと見るがいい!! 我が六花大付属が誇る、真のお嬢様。その豊満な胸には俺たち男子全員の夢と希望が詰まっている、3年、生徒会長の九条麗香様だァ!」
「ほぅ… 」

 写真部の部員がファイルから取り出して俺に見せてきたのは、六花大付属男子の付き合いたい女子ナンバーワン、生徒会長の九条麗香の写真だった。
 一体どうやって撮ったのか、学校生活を送っている九条麗香の日常を切り取ったような写真が何枚もあり、中には中々際どい写真も紛れていた。

「こんなものを見せられたら、尚更見逃すことは出来ないな… 」

 確かに、生徒会長は魅力的だが、俺を公認パシリにした恨みがあるし、そんな物では俺の心を揺さぶることはできますまい。

「ならこれはどうだ!? 普段あまり目立たないようにしているが、スラッとした脚のモデル体型は隠しきれない、2年生の桐島歩美ちゃんだァア!!」
「ぐぬッ!?」

 ガップレでステージに立っている時の歩美の写真は沢山あるが、プライベートの地味っ子に変装している歩美の写真はほとんどない。
 やはり、歩美は可愛いな。特にこの下の方からのアングルの写真なんか歩美の美脚がより一層強調されて…
 いかんッ!! 邪念が!?
 「まだ落ちぬか!なら、こういうのがお好みかな?」

 そんな葛藤する俺の内心を読み取ったのか、写真部の奴らはここぞとばかりに新しい写真を取り出し、畳み掛けてくる。

「こッ、これは!?」「我が六花大付属、全男子の心の妹、1年の花沢華ちゃんだァア!!」

 我が妹、愛美には悪いが、花沢さんが俺の妹だったら俺は兄としてこの上なく幸せなのだろうと妄想したことは正直ある。
  花沢さんの数々の写真に映された、恥じらう姿、頑張る姿、その全てが愛おしい…

「くッ、まだ落ちないか!? なら最後にとっておきを見せてやろう!! 」

 まだ奥の手があるというのかッ!? これ以上は不味い!

「見るがいい!! コートに舞い降りた女神、誰も近寄ることは叶わない、汚れなき天使… 女子バスケ部部長、2年、立花時雨様だァアァア!!」
「なんとッ!? これは… 」

 写真部の奴から受け取った委員長の写真を持つ手が小刻みに震える。
 認めよう、完敗だ。
 まさしくこれらの写真こそ、神が与えしギフト、カメラを発明した人に尊敬の意を捧げよう…

「これは… 良いものだ!!」

 まさか、クラスの集合写真以外、ほとんど写真に写ることのない委員長の写真がこんなにもあるというのかッ!?
  教室で読書をしながら髪を掻き上げる仕草の委員長、体操着で体育座りしている委員長、ユニフォームで汗を流しながらプレイしている委員長…
 どれもこれも素晴らしい、額に入れて飾って置きたいくらいだ。

「お前たち… 」

 写真部の部員の視線が俺に集まる。 悔しいけど俺も男なんだな…

「この写真、1枚いくらかね?」「まいどあり~」

「どうも遅いと思って様子を見にくれば…」
「ま、まさか委員長!? 新聞部の方に行ったんじゃ!!??」
「どうしてあなたが私の写真を幸せそうな顔をして握りしめているのかしら、 入月くん?」

 写真部のドアの前に立っていたのは、我が2年4組委員長、立花時雨がまるでゴミを見るような目で俺を睨んでいた。

「おっ、お許しを~ッ!!」





……
………




  写真部の一件を片付け、風紀委員の教室に戻った俺は早速、委員長に正座をさせられていた。

「入月くん、何か弁解か釈明はある?」「ございません」
「入月くん、貴方は仮とはいえ風紀委員なのよ? 相手に流されてしまっては本末転倒じゃない! それに…」

  委員長は風紀委員に所属している。本人の性格もピッタリハマっていて正に天職、いや天委員会だろう。
 なんでも委員長が風紀委員に入った時、まず取り組んだのが風紀委員内の意識改革だったらしい。
 それでやる気のない奴はどんどん追い出され、今の少数精鋭の鋼の風紀委員が出来上がったわけだ。
 しかし、今みたいな文化祭などの特別なイベント期間や、全校合同のイベントでは少数精鋭では単純に手が足りないわけで、こうして何故か不真面目な俺が生徒会の臨時補充要員だから、という理由だけで風紀委員(仮)として派遣されているのである。

 「…くん?、入月くん、ちゃんと聞いてるの!?」「はい、もちろんです!」
「じゃあ答えてくれる? どうしてさっき写真部で私の写真を、その… ニヤついた顔をして握りしめていたのかしら…?」
「あれは良いものでありますッ! 是非、入月家の家宝にしようと思っておりました!」
「またそうやってトボけて… 」「はい?」
「まあいいわ、今日のところはこれくらいにしてあげるわ。 そういえば入月くん、この後予定があるんじゃなかったかしら?」
「おっとそうだった! ありがとう委員長、また明日教室で! それじゃ!!」
「ええ、また明日…. 」

 そう委員長に告げると、俺は急いで教室を後にした。



「彼の前だといつもの君らしくないね、時雨くん」
「そんなことありません、彼に私のペースを狂わされるだけです! それより東郷先輩、いつからそこにいらっしゃったんですか?」
「最初から。面白そうだったからつい、ね?」
「東郷先輩は風紀委員の長なんですから、人の話を盗み聞きせず、生徒の模範になるように努めてください!」
「ああ、わかった。それでこそ私の知る時雨くんだ、僕は嬉しいよ…」

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