滔滔と、落ちる心

一夕 ヒ(いゆう ひろ)

過去追い

 あれだけ過去を思い出していると、少し胸の辺りがもやもやしてくるもの。
 小学校の事は、正直覚えていることが少ない。中学校もだ。
 だが、ある日を境にそこからは明瞭に記憶している。
 忘れたいものほど強く残ると言ったものか。深く溜め息を吐いて肩を落とす。
 脱力しきった自分の体の重たさに疲れを感じながらも、無理に起こし絵を描き進める。
 いや、しかし、眠たい。
 だが今描かなきゃ、きっと描かないだろうなぁ…。俺飽き性だし。
 正確に言うと少し違うのだが、まぁ俗に飽き性でいいだろう。
 熱しやすく冷めやすくて困ったものだ。
 体をべったり机に伏せ、だらりとした体勢で紙とにらめっこする。
 だがどうも先の構図が浮かばない。うーん…、少し過去絵を見てみるか。
 そう思っておもむろに机の中に突っ込んでいた大量の紙が入ったファイルを取り出す。
 …あ、誤解しないで頂きたい。まだ授業中だ。
 「あの日」からというもの、全くと言っていいほどやる気が出ない。
 すっぽりと抜け落ちて、どこかへ行ってしまった感覚だ。
 勉強や部活はもちろん、バイトにも気力を保てない。
 失って初めて気づく、も、その時に味わった。
 …やめだやめ。これ以上自分が辛くなりたくない。頭を必死に振って忘れようとする。
 するとそれがやや奇妙だったのか、隣の女子が謎めいた目でこちらをちらちらと見てくる。
 あ、すんません。と、心の中で軽く謝り、それからは目を合わせないように心掛けた。
 …それにしても、本当に眠たい。
 今は、その甘えに身を委ねたい…。
 自分が今見ている景色が、悪夢にも感じる。
 どうしてって?―そりゃ決まってる。
 寝ている間、あいつはいないんだから。

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