勇者の肩書きを捨てて魔王に寝返り暗黒騎士はじめました
いざ魔王軍
ーーなんだかもうウンザリだ。
突然勇者に選ばれて?
突然へんな白服に拉致られて?
そして牢屋にぶち込まれて?
あまつさえ頭のおかしな女神に絡まれる始末だ。俺が何かしたのか?
『んふふ、まるでラノベ主人公みたいな口上だねぇ。やれやれとか溜息ついたり、唐突なラッキースケベが連発するのかな!?』
「ねぇよ馬鹿かよ」
言葉を交わす度に少しずつ何かが擦り切れる感覚。あぁ、多分これ俺がダメな人種…もとい神種に違いない。
国王も顔を背けているし、こいつらも多分この馬鹿女神に振り回されている側なのだろう。
だとすれば道は1つしか無い。
魔王側の意向は「勇者が現れなければ戦う意思は無い」という事だ。
ならば、なんとかコイツをやり込めて、勇者の資格を剥奪させる他にないだろう。
俺は必死に頭を回転させ、この状況を打破しようとした。たが、生憎とこの方向にぶっ飛んだ奴に出会う事が少ないので何も浮かばなかった。
機転の利かない自分の頭を恨んだが、そもそも恨むならこの頭のおかしい女神だろう。
『んん〜どうしたのかなユーリくん?』
「あ?どうやって馬鹿女神を上手い事やり過ごせないか考えてんだよ」
ーーしまった、そのまま口に出てしまった。
俺は恐る恐る女神の顔を見上げてみたが、このクソ女神はニコニコするだけで特に怒ったりもしない。それが逆に不気味だった。
そもそも、こんな浅い言葉ばかり吐く奴の懐が深い訳が無い。ならば何か企んでいるに違いないが、俺がそれが何かを突き止める前に、この女神は爆弾を放り込んで来た。
『でもぉ〜、もう少しやる気を出した方がいいと思うよ?』
「…なんでだよ」
『だって、もう直ぐ魔王軍が攻めてくるから』
「…………」
「……はぁ!?」
「なッ…め、女神様!?我々はそんな事聞いてないぞ!?」
『うん、言ってないからね』
「ど、どどどどうしましょう国王!!」
慌てふためく国王と大臣。
それもそうだ、俺だって意味がわからなすぎて変な汗が吹き出してきた。
『いやー勇者降臨の儀が上手くいってぇ、私嬉しすぎてその足で魔王の城に行ったのよ。んで、勇者が現れたからって伝えたら顔色変えて進軍の準備を始めたの!急にバタバタしだして、ねぇ超ウケない?』
「ふざけんなよ!おい女神!じゃあ魔王はここに向かって来てるってのか!?」
『もぅ、怒んないでよぉ!あ、でもでも、それなら安心していいよ』
「…あ?」
『だってぇ…』
『もうそこまで来てるから♫ほら行くよー!』
「!?……ッ!なんだ、やめろ!!」
突然、女神は俺に抱きついて光を纏い始めた。身体が浮くような感覚が支配すると、視界が揺らぎブラックアウトした。
◆
「ーーーという経緯があったんだよ」
「ふむ、なるほどな」
目が醒めると、俺は魔王率いる軍勢の真ん中に放り出されていたのだ。
俺は割と冷静さを保ったまま、目の前の露出の多い緋色の髪をした魔王を相手に愚痴を零していた。
そもそも魔王にしても、事の経緯を割と静かに聴いてくれたのが意外だったが、いやむしろ、面白そうだと言わんばかりに好奇の目を向けられていた感はある。
肝心の女神は転移の後すぐに居なくなっており、傍にいかにも聖剣みたいなゴツい剣が雑に置かれていた。そしてご丁寧に、刀身には汚ったない字で『えくすかりばー』と書かれていた。
「では、お前は勇者の資格を得たはいいが、元より勇者になる気はないというのか?」
「…まぁそうだな。なぁ、俺もいっこ質問いいか?」
「?…なんだ?いいぞ」
女魔王はキョトンとし、俺の顔を覗き込んだ。
「じゃあ聞かせてもらうけどよ、いくら勇者が現れたっていっても、魔王が始めの街に幹部を全員引き連れて現れるってヒドくねぇか?これどう見てもこっちに勝ち目ねぇだろ」
それを聞いて魔王は四天王と顔を見合わせたが、少し照れたような表情でボソボソ切り出す。
「いや、そのな…」
歯切れ悪く話し出した女魔王。恥ずかしそうに話し出した内容だが、ざっくりと要約するとこういう事らしい。
まず、勇者が現れるまで世界を滅ぼさないと条約を結んだのはこの女魔王の父親、つまり先代の魔王のようだ。
しかし、その魔王は昨日の夜に亡くなったらしく、まだ若いが女魔王がその座を引き継いだのだ。そして、今日は魔王の葬儀だったがのだが、あの馬鹿女神がそこに乱入して勇者の誕生を触れ回ったそうだ。
結果的に父親の遺言になってしまった世界侵略をする為に、女魔王は葬儀に参拝した部下を連れて来たという事らしい。あくまで形式上というか、魔王としての仕事という名目との事。
「すまんな、みな長い年月の間くすぶっていたのだ。私を始め、幹部クラスは容易に人間界に行く事を父上から禁じられていたので開放感でつい…」
「魔王様はおてんばですからねー」
「がははは!ワシは久しぶりに外の空気が吸えて気分がいいぞい。翼も思いっきり伸ばせるしのぉ」
「大将は見た目がゴツいから、人間に圧を与えない為に隠居してたから仕方ないね」
仮面を付けた骸骨の神官と巨大な竜が笑う。その横にいたドス黒い大きなスライムも笑っているのか身体を震わせながらプルプルしていた。
女魔王も部下の談笑に乗っかっていたが、俺からすれば何一つ状況は好転していない。結局、勇者として剣を与えられて魔物の軍勢に放り込まれた事実は変わらないのだから。
「……その剣、まさか聖剣エクスカリバーか?」
笑い声を断ち切る様に、低いがよく通る声が投げかけられた。視線を移すと、首の無い漆黒の鎧がこちらに向かい歩いてくる。
「……なんだ?首なし騎士ってやつか?」
「我は魔王軍四天王、暗黒騎士デュラハンである。勇者よ、同じ剣の道を行くもの同士……我と手合わせしてみないか?」
鞘からスラリと魔剣を抜くデュラハン。
言っておくが、俺は剣の道など歩んだ覚えはないし、しかも旅立つ前の勇者だぞ?俗に言うレベル1だ。幹部相手に勝てる訳がないだろう。
しかし、俺の事など気にせずデュラハンは一人で盛り上がっている。
「魔王様、このデュラハンめに勇者と戦う権利をお与えくださいませぬか?」
「そうだな…私自身も手合わせをしてみたいが……まぁいいだろう。お前は一番まじめに勤務しているからな。皆、異論はないな?」
「僕は構いませんよ」
「ワシも構わぬぞ」
「……ぷるぷる(構わないと言っている)!」
「満場一致だな。では暗黒騎士デュラハンよ!お前に勇者を倒す役目を与えるぞ!」
「ははぁ、有難き幸せ!このデュラハン……この魔剣で魔王様の名に恥じぬ戦いをお見せしましょうぞ!!」
わーわー!
やれやれーデュラハンさまー!
がやがや…。
まるで何かのフェスかの如く盛り上がりを見せる魔王軍。
え、何?俺まさかいきなり幹部ってかあのデュラハンと戦わなくちゃいけないのか!?
いや、勝てないだろ。めちゃめちゃ強そうじゃないか。なんかその気になって紫のオーラ纏ってるし、魔剣?的なのも禍々しくて足が竦む。
「さぁ、勇者よ!剣を取るがいい!」
「ちっ……!」
流石に丸腰ではいけないと聖剣を手に取る。半信半疑だったが、伝説の剣と名を討つだけあって羽の様な軽さだ。そしてやたらと手に馴染む感覚に、やはり勇者になったのだと痛感させられた。
(案外…いけるんじゃないか?)
もしかしたらだが、少しだけ勝てそうな気がしなくもない。聖剣と言うくらいだ、邪な魔物相手なら何かプラスの補正があるに違いない。
「…やれやれ、仕方ねぇな」
無意識にラノベのテンプレ台詞を吐いてしまいあのクソ女神の顔がチラついた。
つか、今から魔王と戦おうってのにどこに行きやがったんだあのボケは。
しかし、アイツがいた所で事態が好転する訳も無く、なんなら居ない方がマシだとも思えたので俺は聖剣を抜いた。
「相手になってやるよ、デュラハンさんよ!」
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
969
-
-
221
-
-
32
-
-
89
-
-
381
-
-
0
-
-
1978
-
-
140
-
-
15254
コメント