朝を待って。

乳酸菌

二話 日常

学校までは1時間ほどかかる。
ペダルを踏む力にいつもより少し多くの力を加える。
親戚から譲り受けたクロスバイクは力を入れる分だけ早く進む。
当たり前のように聞こえるのだが、本当にそんな気がするのだ。
大げさに言って仕舞えば、自転車と一心同体になったような感覚すら覚える。
京子は普通のいわゆるママチャリと言われる自転車に乗っているため、あと数十分自転車を漕げば追いつくだろうと言った感じだ。
追いつきさえすれば学校には遅れないと確信できる。

京子は昔から最低限の決まりは守る人間だった。
どう見ても車の通ってない、もしくは通ると予測できない信号でも、他の人間が信号無視をして渡りきっているのを見ていたとしても守りきる人間だ。
学校にだって、僕が見ている限り遅刻をしたことはないだろう。
これを「偉い」ととるか「普通」だと受け取るかは人それぞれだが、僕はどちらかというと「偉い」と感じる。
さらに言ってしまえば、生活費や諸々のお金も京子が出してくれている。
何度か「割り勘しよう」と提案したが
「大丈夫」の一点張りだ。
なにが大丈夫なのか、僕にはわからなかったが、「それ以上この話に触れるな」という顔をされたので、その話はそれきりだ。
僕なりに何かしてあげようと思っていて、学校の帰りにたまに京子の好きなお菓子を買って帰っている。
特に「ありがとう」だとか、「美味しい」だとかいう感想はないのだが、買って帰ったお菓子は大体完食するため、それが答えなのだろうと勝手に思っている。
京子には頭が上がらない。
勿論自分が持っているゲームなどは、自分がアルバイトをして貯めたお金で購入している。
一応言っておく、一応な。

考え事をしていると時間は早くすぎるもので、遠くに京子の姿が見えた。
見えたと同時に遅刻を回避したことに安心した。
京子とは偶然にも隣の大学だった。隣といっても歩いて行き来するには面倒な道のりではあるのだが、自転車を使えば夏でも汗を額に滲ませる前には到着できるだろうという距離だ。
京子を悠々と通り越し、後ろを振り向くことはないが、そのまま手を振る。その振った手を京子が見ていたかは知ったことではないが、後ろから「ふん…」という鼻を鳴らす音が少し聞こえて僕も少しニヤッとして、またペダルを踏み込んだ。

信号で止まり、なんとなく後ろを振り返った。もちろん京子の姿はない。

信号が進めを合図して、またペダルに足をかける。力を込めると、それに比例してスピードが上がる。
目の前には僕が通う水富大学が誇らしげに建っていた。
どこにでもある。
ありふれた日常が始まる。
僕も姫を助けるために城に行くような、心を揺さぶられる日々を過ごしてみたいものだ。

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