初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束66

「一応あたしから二人を紹介するね。あたしたちのクラスメイトの拓哉君とその彼女で他のクラスの優香さん。多分、ていうか、絶対に勘違いしていると思う。この子は春香じゃないよ?」
「そうなのね――」
 奈緒の指摘をすんなり聞き入れた母さんは深く頭を垂れた。そして謝罪の言葉を続けてから二人へ改めて挨拶をした。
「勘違いしていたとは言え、不快な思いさせてごめんなさいね。さっきのことは忘れてくれるとありがたいかな? なんてね、これからは汚名返上に努めます。改めてご挨拶させて頂くわね、雅の母です。愚息が何時もお世話になっております。本日は粗末なモノしか準備出来ていないけど、ゆっくりしていってね」
「はい! 俺こそ、雅には何時もお世話になってます。サッカー部のこともこいつがいなかったら解決出来なかったし、俺は俺でずっと現実から逃げている駄目人間のままだった。それに、大切な彼女ともこうして一緒にいられるのも夢のまた夢だった。だから、いま、こうして笑顔で生きていられるのも、全部雅のお陰です」
 拓哉のその熱い思いに僕の体が痒くなる前に、普段は僕のことを褒めることが一切ない母さんが満面の笑み――気色悪いほどの恍惚とした表情をして拓哉の手を取り握りしめた。
「バカでお人好しで優柔不断で男らしいところなんてこれっぽっちもない愚息だけど、私達の自慢の息子なの。ありがとうね、童貞でガキ臭いこんな子をそこまで必要としてくれて……、あらやだ、歳を取ると涙もろくなって嫌ね」
 童貞は余計だろ。童貞は。優香さんが横目で僕の顔を盗み見てバツが悪そうにしているぞ。その最愛の息子の評価をドンドン下げているのは紛れもなくあんただ――ってツッコミは心の内だけにしておく。
「この親にしてこの子あり。おばさんも素敵な母親だと思います。息子のことなんでも知っているのってそれでけ息子のことを常日頃から気に留めて大切に思っている良い証拠。それに本音をぶつけて叱咤激励するなんて普通は出来ないと思う」
 八割が叱咤であるけど、たしかに母さんの嫌味はそこまで嫌味として捉えたことはない。寧ろ「なんだとコノヤロ! 見返してやる」って毎回反骨精神で行動している。なるほど、これが母さんのやり方なのか。
 そんな母さんの小言を今後は前向きに捉えることを決めた矢先、その老婆心から来るお節介な小言が拓哉&優香さんカップルにも飛来することになった。

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