初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束44

「どうだろな。そっちだって保育士になりたい様には見えないが? 俺からして見ればお前の方が怪しい」
「確かに春香と違って将来の夢が保育士って訳じゃないのは事実だ。でも、春香からどうしても一緒に来てほしいって誘われたから参加したって言ったらどうする?」
「……」
 決して嫌味を言ったわけでも嘘を付いたわけでもない。真実を言ったまでである。
 朋希は下唇を噛み、小さく舌打ちをすると「トイレに行く」と言い残し教室を出て行った。
「ほらほら、雅先生もしっかり参加して! 職場体験なんだらかちゃんと体験しないと損だよ」「あ、はい」
 チョキチョキダンスと言う手遊びで大騒ぎする園児の輪に、先輩風を吹かせる伊藤先生の手により押し込まれる。一時的でも一番年下と言う立場から脱却できてうれしいのだろう。もしかしたら、こういう人からハルコ先生の情報を収集するのが一番簡単で良いかも知れない。
 職場体験をしっかりしつつも、春香との距離を縮めるための算段も忘れない。我ながらさえている一日である。これなら何とかなるかも知れない。
 なんて考えを歴史シミレーションゲームの嫌われ軍師みたいな思案顔で展開しているのだ。隣の園児がきょとんとした顔で僕を見上げている。おっと、イケない今は春香の雄姿をこの目に焼き付けこのままこの関係を発展させねば。
 春香の手遊びレパートリーはまだまだ火を噴き、園児たちも大興奮。某夢の国のマスコットキャラクターにでも出会ったかのような羨望の眼差しを春香に注ぐ男の子が多数出現しているのも無理はない。
 本当に楽しそうだ。僕も負けてられない。せっかくだ楽しもうではないか。
「よ~し次は雅先生が仮面ライダーをやってあげるぞ!」「なにそれ! はじめてきいた!」
 そうなのか? 自分がここに通っている時は毎日の様にやっていたけど? 確かハルコ先生が仮面ライダー好きの僕の為に考えてくれたような気がするんだけど?
「覚えててくれたんだそれ……」「春香? どうしたの?」「ううん、なんでもない! いいね、じゃあみんな雅先生の真似をして元気よく声を出してね!」
 春香もこの手遊びを覚えていた様で隣に駆けてきた僕に最初驚いた様子を見せていたけど、歌のお姉さんばりのハイテンションで場を仕切り直す。

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