初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束41

「どこがだ春香! 俺とこんなヒョロヒョロの優男のどこが似てるって言うんだ?」
 ハードケースに収まったギターを床に置き身振り手振りで抗議する朋希の手が僕の眼前を擦れ擦れに往来する。
「僕だってこんな不愛想でクラスメイトから扱いに困られるような奴と似てるなんて言われて侵害だよ! 人の顔の前に手を出すような無神経なやつと一緒にされても困る」「なんだと! オレは別に馴れ合いを好まないだけで、お前みたいに女をとっかえひっかえするような軽い男じゃない! ハードボイルドなダンディな男だ」「はあ? 教室で自慢げにギター鳴らして悦に入る男がダンディだ? 中二病を拗らせた痛い男の間違いだろ?」
 春香の思惑とは裏腹に反発し合う男達。ここまで馬の合わない男と出会ったのはお互い初めての様で、誰に止めれることなく嫌気がさしてそれ以上言葉を交わすことを放棄した。
「え、どうしたの二人とも? なんでそんなに怒ってるの? 私なにか悪いこと言ったかな……?」「そ、そんなことないぞ春香! 別に喧嘩してるわけじゃなくてだな。そう、こいつが春香に色目を使っているから注意しただけだ」「そうそう春香は悪くない。悪いのはこっちだよ。中二病拗らせて人に対する態度が間違っているから注意しただけ」「ホントに? 仲良くできる二人とも? 私、この日をすっごく楽しみにしてて、昨日も全然寝れなくて……、まさかあの二人が一緒に私の傍にいてくれるって思っただけで胸が張り裂けそうになって」
 見れば分かるさ、春香がどれだけ今日と言う日を待ちわびていたこと。寝る時間も惜しんでピアノの練習をして、下心満載で今日を迎えようとした僕に、一から保育士としての何たるかを教示して手遊びを何種類も教えてくれたのは紛れもない春香である。
 今にでも大粒の涙が零れそうな瞳に免じてここは一時休戦とする。
「悪かった、まあ、お前は気にいらんが春香の為だ。一週間よろしく頼む」「お互い様だね。僕だって君のその春香のことなら俺が一番知っているって感じ気に入らないけど、僕だってこの一週間をどれだけ待ち望んだことか。春香の為にも一週間よろしく」
 そのやり取りにどれだけの意味合いが込められていたのは僕自身計り知れないが、お互いこう思ったに違いない。
 ――こんな奴に春香を取られてたまるか――と。

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