初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束36

「フンだ! 知らない。忘れたみやびがイケない!」「なんだよ~拗ねるなよ。いままでだって奈緒は何も言わなかったじゃないか」
 ご機嫌斜めになった奈緒は布団を深くかぶり姿をくらました。まったく子供みたいな反応を奈緒がするもんだから、僕も困ってしまう。確かに、忘れた僕も僕で悪いのだが春香のことも黙っていたし今回の約束ってやつも知っているくせに教えようとしない奈緒にどうしても意地悪な態度を取ってしまう。
「それってつまり、思い出さなくてもいいどうでもいい約束だってことだろ?」「そんなことない! とっても大事な約束だもん! あたしは絶対に忘れたりしないもん! いつか必ず、迎えに来てくれるっていまでも……思ってるんだから……」
 泣いているのかもしかして? 
 布団越しでも鼻を啜る音が聞こえる上に声も少し涙声である。
 あの奈緒が泣くほど。ってどんな約束をしたって言うんだ僕ら三人は。
「言ってくれなきゃ分からないだろ? 僕だって思い出せたら絶対にその約束守るって」「そうだよ! 言葉にして自分の口から“言ってくれなきゃ”あたしだって不安になるんだから! でも……、もう無理だよ。好きな子が出来たみやびにはもう思い出してもらいたくなかったのに……」
 わざわざ布団から顔を出し力強く僕の意見に同意したものの、何かを諦めたのかそれともまた涙が出てきたのか、奈緒は双眸を腕を使って隠してしまった。
「思い出してほしくない? 大事な約束なんじゃないのか?」「あたしにとっては大事よ世界で一番ね。でも、春香がどうしてそこまで固執するのか理解できない。春香にとって何の得にもならないはずなのに」「待って、春香が思い出してもらいたい約束ってのは誰と誰の約束なんだ?」「みやちゃんとなおちゃんの約束」
 短くそれだけ答えた奈緒がベッドから起き上がり勝手に帰ろうとした。
「待てよ、話はまだ終わってないぞ」
 まだ話の途中、しまも「みやちゃんとなおちゃんの約束」ってかなり気になる発言をそのままにして帰すわけがない。腕を掴み制しする。
「痛い」「す、すまん」
 思いのほか力が強かったのか短い悲鳴が聞こえて反射的にその手を離してしまった。
「忠告するわ、春香のことが大事なら思い出そうとするのは辞めた方がいい。それがみやびのためでもあるし、あたしのためだから。もう、十年も前の約束なんてあたし気にしてないから」
 さっきは根に持つタイプって自分で言っておきながらこの発言だ。乙女心とはかくも移り変わるものなのか。それを理解できないから彼女がいないのかも知れないと思うと、奈緒のその忠告を潔く聞き入れた方が無難なのかも知れない。

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