初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束32

 閻魔様の異端審問を命からがら突破し、その足で風呂場に直行して身を清め、清潔な部屋着へと着替えて奈緒の部屋へと今まさに向かおうとしているところだ。
 そう思いついたのも、奈緒にはいろいろ聞かないといけないことがあるし、春香との問題が発生してからゆっくり会話をしていないこともこの行動理由の一つである。
「さて、勝手に突入しても良いモノか」
 敢えてそう口に出したのは、奈緒と同じように窓から屋根へと出てそこを伝い、今まさに明かりの点いた奈緒の部屋を目前にしたからである。手を伸ばせば窓ガラスに手は届くし、奈緒が自分で準備した踏み台を使えば容易に部屋に上がり込める。
 が、いかんせ奈緒の部屋に行くのは数年ぶりであるから、変に緊張してしまう。もしかしたら、この向こうで奈緒がとんでもないことをしているかも知れないって変な妄想をしてしまうんだ。
 いや、奈緒が男子高校生が昼夜考えるエロティックな妄想を脳裏で展開して、それを原動力に“コト”をなそうとする――、そんなふしだらな行為をするとは到底思えないが、何かの間違いだってあるんだ。
 だって奈緒だって年頃の女の子。人肌恋しい夜があってもおかしくはない。自分で自分を慰め、火照る部分をあの手この手で弄ることがあるかもしれ――。
「人の部屋の前でナニ赤い顔してんのよ? 用があるなら連絡すればいいのに」「え、あ、いや、もう終わった? 満足した?」「はあ?」
 心の底から僕の発言の意味が分からないのか、短く言葉を出した奈緒はどう見てもある行為をし終えた乙女って色気はない。どちらかというと、相変わらず男っぽいガサツな反応である。これなら、僕が遠慮することはないだろう。
「すまん、なんでもない。奈緒はそういうの興味ないもんな?」「意味が分かんないんだけど? え、なに、上がるの?」
 会話しつつ勝手に部屋に上がろうとして奈緒が僕の行く手を遮る。
「たまには良いだろ? なにお菓子の袋が散らかってるとか?」「そんなわけないじゃん! 綺麗です」「じゃあ、どいてくれよ? それとも見られたくないものがあるとか?」
 言葉とは裏腹に一向に僕の前から退かない奈緒。明らかに僕の視界を奪い部屋の中を見せない様にしている。それこそ、エッチな本が散乱している最中に両親がドアをノックしそのまま返事を待たずに入室した時に、その部屋の主がするであろう行動を奈緒がしている。

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